キチンを食べると起こること

2023年9月13日
全体に公開

キチン (chitin) は直鎖型の多糖、ポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミンです。自然界では、セルロースに次いで2番目に多い多糖類と言われます。昆虫などの節足動物や甲殻類の外骨格、軟体動物、頭足類、カビ・キノコなど真菌類の細胞壁などの主な成分となっています。

日本では、エビ、カニ、イカ、タコ、キノコなどが日常的な食品です。また、昆虫食も伝統的な食ですし、最近では食料問題の解決につながる食として注目されています。一方でキチンは、II型アレルギーといった免疫反応を引き起こすことも知られてきました。


9月7日付けのSCIENCE誌に、米国セントルイスのワシントン大学メディカルスクールのグループが、キチン摂取による胃の自然免疫活性化による適応について報告しています[1]。

Kim, D.H. (2023) A type 2 immune circuit in the stomach controls mammalian adaptation to dietary chitin. Science. 381:1092-1098. doi: 10.1126/science.add5649.

マウスがキチンを摂取すると、胃が膨らみ始め、胃の内壁にあるタフト細胞および2型自然リンパ球(ILC2)によるサイトカイン産生を引き起こします。そして、キチン消化に必要なキチン分解酵素である酸性哺乳類キチナーゼ(acidic mammalian chitinase, AMCase)が酵素原主細胞(zymogenic chief cell)によって作られます。これは、キチンを持つ寄生虫の侵入に対応するための適応ではないか、と考えられます。つまり、マウスによるキチンの消化は免疫反応、特に腸内寄生虫のような寄生虫に対する免疫反応に依存しているようです。

キチンは、キチナーゼを作る腸内細菌にも影響を与えますが、驚いたことに、このILC2を介した適応と消化管の反応は腸内細菌を欠いた無菌マウスでも維持されていました。

キチンを食べたが分解できなかったマウスは、キチンを食べなかったマウスやキチンを食べても分解できたマウスと比較して、体重増加が最も少なく、体脂肪測定値も最も低く、肥満になりにくかった。また、キチンを摂取すると、高脂肪食を与えたマウスの体脂肪測定値が改善されたが、これはおそらく活性化した主細胞がリパーゼを含む他の消化酵素を産生するためであろうと解釈しています。

キチンに対するこのような適応は、肥満のような代謝性疾患の潜在的な治療標的となるかもしれないとしています。つまり、胃のキチナーゼを阻害するアプローチとキチン含有食品の摂取を組み合わせることで肥満対策ができる可能性を示唆しています。

この研究グループでは、今後、ヒトを対象とした研究結果を追跡調査し、肥満防止を目的にして、キチンをヒトの食事に加えられるかどうかを検討したいとしています。

8月31日付けのmSystems誌には、アリクイのようなアリやシロアリを食べることに特化した動物とキチン分解酵素を作る腸内細菌について研究した論文が掲載されています[2]。

9種の食蟻性哺乳類から新たに29の腸内メタゲノムを作成し、キチン分解酵素を同定した300以上の細菌ゲノムを再構築しています。これらのキチン分解菌の分布を調べたところ、アリ食動物の腸内には、一般的な腸内細菌とアリ食をする種に特異的な細菌の両方が存在することが明らかになりました。

Teullet, S. et al. (2023) Metagenomics uncovers dietary adaptations for chitin digestion in the gut microbiota of convergent myrmecophagous mammals. mSystems. e0038823. doi: 10.1128/msystems.00388-23.

エビ、カニ、昆虫というのは、哺乳類にとって何か違う食べ物になっている様子がよくわかりました。

キチンをめぐる生物学には、食品、免疫系、酵素、細菌など合成生物学に関係した話題が豊富にあるように感じます。

[1] Kim, D.H. (2023) A type 2 immune circuit in the stomach controls mammalian adaptation to dietary chitin. Science. 381:1092-1098. doi: 10.1126/science.add5649.

[2] Teullet, S. et al. (2023) Metagenomics uncovers dietary adaptations for chitin digestion in the gut microbiota of convergent myrmecophagous mammals. mSystems. e0038823. doi: 10.1128/msystems.00388-23.

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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