まさに「オールスター」最強の認知症予防ダイエット「MIND食」の真の実力とは?

2023年7月23日
全体に公開

認知症予防に効果的な食べ物や食べ方があると言えば、多くの人が飛びつくものです。それを根拠に、実際のところそのようなテーマを扱った書籍や記事は無数に見られます。しかし、実際のところ根拠はどの程度あるのでしょうか。

私は、このトピックスで何度か特定の食品と健康に関するエビデンスについて紹介をしてきましたが、実際、食品の確からしい効果を確認することは比較的難しい作業になると説明をしてきました。これは、多くのことに当てはまる一般論ですが「これを食べれば〇〇を予防できる」といった甘い言葉を見かけたら、注意をして立ち止まる必要があります。

そんなハードルを超えて、食事の認知症予防に対する有効性を直接的に検証しようと試みた研究の結果がこの度発表されたので、今回はその論文(1)の内容をかいつまんでご紹介したいと思います。

この研究はMINDダイエットと呼ばれる食事法が認知機能に影響を及ぼすかどうかを調査しています。

MIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)ダイエットとは、心血管の病気の予防効果が知られる地中海ダイエットと高血圧に勧められるDASHダイエット(Dietary Approaches to Stop Hypertension)を組み合わせた食事法です。これら2つのダイエットの多くの要素を取り入れつつ、認知症やアルツハイマー病のリスクを低下させると考えられている食品を追加しています。

このMINDダイエットでは、特に植物性の食品の摂取を重要視しています。過去の観察研究で認知症リスク減少と関連があると示唆された食品を多く含むようにしたのです。例えば、緑黄色野菜、ナッツ、ベリー、魚、オリーブオイルなどが含まれています。一方、飽和脂肪酸や糖分の高い食品など認知症リスク増加と関連があるとされる食品の摂取は制限されます。例えば、赤肉や加工肉、バターやマーガリン、全脂肪のチーズ、パンや菓子、揚げ物などは避けるように推奨されます。

そう聞くと、認知症予防にとってもはや最強の食事法を体現していると思いませんか?まさに、多くの書籍や記事で紹介されるあらゆる栄養を全て詰め込んだというようなオールスターチームの食事法なのです。これは高い期待感を抱かずにはいられません。

これも以前の記事からの繰り返しになりますが、認知機能の低下やアルツハイマー病のリスクを減らすための食事法の臨床試験は実際のところまだ限られていて、多くの食品で示されているのは「関連性」。ここには乗り越えなければならない壁があり、実際のところ食べたら効果があるかはまた別問題という場合も多いのです。そんな中、このオールスターチームの食事法であるMINDダイエットで、直接的に有効性を示す試みとして「ランダム化比較試験」が行われています。

具体的には、認知能力に問題のない高齢者を対象に、この研究は行われています。特にその中でも家族に認知症の者があり、BMI(身長に対する体重の比率)が25以上で、食生活があまり健康的でないと判断された人々を対象にしています。これにより、より認知症リスクが高く、かつ食事による介入の効果が高そうな人たちを抽出しようとしたのです。こうした方達を、軽度のカロリー制限を伴うMINDダイエットと、カロリー制限のみの一般的な食事を行う2グループに分けて認知機能の推移を比較しました。

なお、この研究では食事介入を開始してから3年間の経過観察が行われています。その3年間でどのような結果が見られたのでしょうか。

MINDダイエットと一般的な食事を実施した各グループの間で、3年間の認知機能の変化について比較をしてみると、全体的な認知スコアは、両方のグループで少し改善されていましたが、MINDダイエットグループと一般的な食事グループとの間での違いは統計的に有意ではありませんでした。つまり、この研究に基づけば、MINDダイエットが認知機能の向上に対して特別な効果を持つとは断言できないということになります。

また、一部の参加者は脳のMRI検査も受けています。これにより、食事が脳の構造にどのように影響するかを評価しようとしたのです。しかし、ここでもMINDダイエットと一般的な食事との間で、小さな脳梗塞を示すような所見や、記憶と学習に重要な脳の部分である海馬の容積、全体の脳の容積について差は見られませんでした。

さらに、研究期間中に起こった有害事象も報告されましたが、これらもMINDダイエットと一般的な食事の間で大きな違いはありませんでした。最も一般的な有害事象は心血管疾患や筋肉や骨の問題でしたが、これらは食事法によるものではないと考えられています。

全体として、この研究結果からは、MINDダイエットが認知機能や脳の構造に対して、特別な効果を持つとは言えないようです。

これは、決してMINDダイエット自体の健康への有用性を否定するものではありません。むしろこうした食事法が勧められることはその構成要素を考えると自然だと思います。ただし、これだけオールスターチームで挑んでも認知症予防の有効性を示すことができていないのですから、ましてや単一の食品を1年や2年試してみて認知症に効くと言ってしまうのは大きな問題がありそうだということはご理解いただけるのではないでしょうか。

なお、この研究はあくまで3年しか続けられていませんので、10年やったらどうかなどは分かりません。(しかし、10年同じ食事法を続けることもより難しくなるかもしれません。)ただ、少なくとも3年頑張って続けたとしても、特定の栄養摂取で認知症を防ぐというのはなかなか難しいのかもしれないと感じられる結果となりました。

アルツハイマー病に対しては様々な治療薬が開発され希望が見えつつあるものの、なお多くの問題を抱えており、食事法のように、より身近で安価な解決法が模索され続ける価値は高いと思います。今後の研究の進展にも期待したいところです。

参考文献

1.        Barnes LL, Dhana K, Liu X, et al. Trial of the MIND Diet for Prevention of Cognitive Decline in Older Persons. https://doi.org/101056/NEJMoa2302368. Published online July 18, 2023. doi:10.1056/NEJMOA2302368

タイトルおよび本文中の写真は全てPexelsから使用しています。

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