【全貌把握】どうする?秋のブースター接種

2023年8月30日
全体に公開

今年の夏休みは久しぶりに海外旅行に出かけられたという方も少なくないかもしれません。ニューヨークでも、昨年までは日本人旅行客を見かけるのは比較的珍しかったのですが、今年はパンデミック前の例年並みに日本人を見かけるようになりました。

こうした状況を迎えられるようになった要因の一つは、言うまでもなくワクチンの恩恵でしょう。ただし、もう受けなくて良いなら受けたくない、まあ別に1年に1回なら良いか、など人によって考え方は異なってきているかもしれません。そんな中、秋には再び追加接種という報道も見かけるようになりました。

そこで、今回は秋に接種が予定されているブースター接種について、今わかっていることをまとめてみたいと思います。

対象となるのは? 時期は?

この秋に予定されている追加接種は、日本では9月20日からの開始予定だそうです。また、春の追加接種が高齢者など一部の人を対象にしたのとは異なり、秋の追加接種は全世代が対象になる予定です。これは、米国など他国でも同様です。

使われるワクチンは?

使用されるワクチンは、世界的に主流となっている、オミクロンから派生したXBB.1.5に対応したワクチンの予定です。これまでは、オリジナルとオミクロンの2種類に対応した2価のワクチンが使用されてきましたが、今回はXBB.1.5のみの1種類に対応したワクチンが用いられる予定です。

本当に必要?

まず、コロナの状況ですが、日本国内では今月に入り、定点当たりの報告数及び新規入院患者数がともに増加傾向と報告されています。ここで増えているか減っているかを論じたいわけでは必ずしもないのですが、抑えていただきたいのは、コロナはまだ身近に存在していること、感染者の中で入院が必要となるほど体調を悪化される方がいること、そして軽症でも後遺症で長期にわたって体調を崩し続けている方がいることです。

ワクチンの効果に関して言えば、少なくとも2回のオリジナルのワクチンと、1回以上の2価のブースター接種を受けていれば、重症化予防ということに関しては持続的に一定のリスク低下につながっていると考えられます。そういう意味では、ワクチン接種前ほどの心配をする必要は無くなったと言ってよいでしょう。

一方で、時間とともにワクチンの効果が減弱することも知られています。ブースター接種の発症予防に対する効果は接種1ヶ月後にピークを迎え、その後6ヶ月ほどかけて減弱し続けることが知られています(1)。

加えて、ウイルスの変異の影響も無視できません。ウイルスは絶えず変異を繰り返し、人の免疫を潜り抜けやすい変異を獲得したウイルスが存続します。そんな中、私たち人の免疫側もアップデートし続ける必要があります。古典的な知識だけでもある程度のレベルの医療を行うことはできますが、最新の知見をアップデートし続けなければ、より良い医療を提供することが難しいのと同様です。

Pexelsより

これから増加する変異ウイルスに対応できる?

現在世界的に急速に増加傾向を示していると知られるのは、EG.5と呼ばれる変異ウイルスで、最近WHOが「注目すべき変異株」に指定しています。「エリス」というニックネームまでつけられています。このEG.5はここ1ヶ月ほどで急速に増加していおり、今後主要なウイルスになると予想されています。幸い重症化が増えるサインはみられていませんが、そうであれば、EG.5対応ワクチンを接種した方が良いのではないかと思われるかもしれません。

しかし、モデルナが報告した研究結果によれば、このワクチンにより、EG.5.1に対してもXBBと同程度にしっかりと抗体ができたことが報告されています(2)。そもそもEG.5はXBBから派生したものなので、こういった結果が期待はされていたのですが、科学的な裏付けが一つ積み上げられたことになります。このことから、現時点では現在流行しているXBBにも、「次に来る」EG.5にも十分有効性が期待できると考えていただいて良いでしょう。

参考文献2より

懸念点は?

懸念があるとすれば、散発的に報告されるようになったBA.2.86と呼ばれる変異ウイルスかもしれません。こちらのウイルスは、XBBなどと比較し、新たに30を超える変異を獲得していることが報告されています(3)。このことから、過去の感染やワクチンで獲得した免疫をすり抜ける可能性が高いと専門家の間で懸念されています。まだこのウイルスが主要なウイルスになるかどうかも含めて未知数ですが、このウイルスが主要なウイルスになった場合には、期待されるほどのワクチンの効果が得られない可能性もあります。ただし、先んじてBA.2.86が見つかったデンマークでは、今のところBA.2.86感染者の増加が報告されておらず、主要なウイルスにはならないのではという楽観的な見方もあります。

最後に、最近の興味深い話題も

なお、最近の興味深い話題として、「ブースター接種を前回接種と同じ腕に受けるか、反対の腕に受けるか問題」への一定の解を示した論文が報告されている(4)のでご紹介します。実際の発症予防などの効果までが評価できているわけではないので注意が必要ですが、この研究では免疫反応の程度が評価されています。結果として、同じ腕に受けた方が、反対側の腕に受けるよりも免疫反応が良好と示唆する結果が得られています。最終的な結論はまだ持ち越しですが、あえて同じ腕に受ける意義がもしかしたらあるのかもしれません。次回以降の接種で要検討事項かもしれません。

参考文献

1.        Lin DY, Gu Y, Xu Y, et al. Association of Primary and Booster Vaccination and Prior Infection With SARS-CoV-2 Infection and Severe COVID-19 Outcomes. JAMA. 2022;328(14):1415-1426. doi:10.1001/JAMA.2022.17876

2.        Chalkias S, Mcghee N, Whatley JL, et al. Safety and Immunogenicity of XBB.1.5-Containing mRNA Vaccines. doi:10.1101/2023.08.22.23293434

3.        Risk Assessment Summary for SARS CoV-2 Sublineage BA.2.86 | CDC. Accessed August 28, 2023. https://www.cdc.gov/respiratory-viruses/whats-new/covid-19-variant.html

4.        Ziegler L, Klemis V, Schmidt T, et al. Differences in SARS-CoV-2 specific humoral and cellular immune responses after contralateral and ipsilateral COVID-19 vaccination. EBioMedicine. 2023;0(0):104743. doi:10.1016/J.EBIOM.2023.104743

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