ワイングラス、どこを持ったらいい?「乾杯」で音を立てるのNG? マナー3選〈後編〉

2023年7月21日
全体に公開

「ワインのテイスティングって何をしたらいいの?」

そんなテーマで、<ワインマナー・前編>を書きました。スマートな立ち振る舞いとしては香りを嗅ぐだけか、「お任せします」とソムリエに頼るのが一番だとお伝えしました。

ワインを飲む際に「今さら聞けないマナー」って、まだまだありませんか?

同席した人と違って「あれ」と思ったり、勝手がわからないまま流れに任せていたり......。

今回は、社会人10年目なら知っておきたい「ワイングラスにまつわる3つのマナー」をお伝えします。「注がれ方」「グラスの持ち方」「乾杯の仕方」の順にみていきましょう。

fotosr52/Adobe Stock

①ワインを注がれる時、グラスって持つべき?

社会人になったばかりのころ、あるいは体育会系の部活で、先輩に「お酒のマナー」を教わったかもしれません。ビールや日本酒なら、およそ次のような内容です。

ビール:①ラベルを上にして注ぐ、②グラスは両手で、③乾杯は年配者のグラスより低く

日本酒:①右手で徳利のはらを持つ、②両手でお猪口を持つ、③一口目は必ず口をつける

こうした“日本式のマナー”から、「ワインを注がれる時も、グラスを持った方がいいの?」と思うのは自然です。

ただ、ワインの場合はグラスを持たなくて大丈夫です。触れないのが基本で、触る場合でもグラスの脚に指を添えて、軽く支える程度にしましょう。

日本式の宴会マナーには「お酌」という概念があります。ただ、世界的なワイン産地であるフランスやイタリア、スペインといった欧州では、「お酌」はありません。グラスを持った状態で、飲み物を注いでもらうカルチャーがそもそもないのです。

このため、ワイングラスをテーブル上に置いたまま注いでもらうのです。

Viacheslav/Adobe Stock

どちらが良い悪いという話ではなく、文化の違い。ワインでは西洋のマナーに準じていきましょう、ということです。

レストランではなくホームパーティなどでも、誰かに注いでもらうときは、グラスには触れないのがいいでしょう。

②注がれたワイン、グラスはどこを持つ?

ワインが注がれたグラスを持つとき、どこを持てば良いでしょうか? グラスのパーツ用語を2つだけ紹介しながらみていきましょう。

ボウル(ワインが注がれる丸いカップの部分)

ステム(ワイングラスの細長い脚の部分)

持つときは、ステム(グラスの脚)の下のほうがお勧めです。

ボウルや脚の上部を持つのがダメだというわけではありません。どこを持つと「ワインを美味しく味わえるか」さらに「見栄えもいいか」という話です。

ボウルを持つと、グラスは安定するのですが、手の温度でワインが温まってしまいます。またグラスの形状によっては、ボウルが大きすぎたり、湾曲したりしていて、持ちにくいこともあるでしょう。

一方、ステムの下部を持ったほうが、大きめのグラスで着席して香りを楽しむ場合は、グラスを回しやすいメリットがあります。

欧州では、立食や食前酒を手に立ち話をする場合に、グラスを安定させるためにボウルやステム上部を持つ人やケースもあります。「絶対こう持たなきゃダメ」という訳ではありませんが、グラスを実際に持ってみて、一番安定する場所を自分で探ってみてください。

Elle Hughes/Unsplash

見栄えの話に移ると、高級レストランでワイングラスは、いつもピカピカに磨かれています。

私もソムリエ時代には、1日に何十脚、日によっては100脚を超えるグラスを磨いていました。そして、営業前に磨いたグラスをテーブルにセットする際には、白い手袋をして指紋がつかないように気をつけていたものです。

こうした状態で運ばれたグラス。ボウルを持って、指紋だらけにしてしまうのか。それとも脚の下部を持って、ワインの色合いや香りも楽しめる状態で飲み進めるのか。

いつも美味しく、そして飲んでいる姿を美しく見せるためにも、「脚の下の方を持つ」のがやはりお勧めです。

その際には、小指を台座や縁に添えるようにするのも良いでしょう。安定して、小指がついつい立ってしまう予防にもなります。

engin akyurt/Unsplash

③さぁ乾杯、グラス重ねて「カキーン」はNG?

テーブルでワインが注がれ、グラスの下部を持ったら、いよいよ乾杯です。

ヨーロッパ貴族風で、ワイングラスを片手に漫才をするお笑いコンビ・髭男爵さん。「ルネッサ~ンス」の決め台詞のほかに、山田ルイ53世さんがツッコむときは「〜やないかーい!」と言いながら、ひぐち君とワイングラスを「カキーン」と合わせます。

ただ、高級レストランでは、グラスは合わせない(ぶつけない)のが基本マナーとされます。

連載の1回目「ロマネ・コンティを100均のグラスで飲むと」でもお伝えしたように、ワイングラスは薄くて繊細。乾杯の「カキーン」は割れや破損につながるほか、音を立てることが他のテーブルに不快な思いをさせることもあります。

グラスは合わせず、手に持ったグラスを目線まで少しあげて「乾杯」と言い合ったり、アイコンタクトや軽く会釈したりするだけでOKです。

kelsey-knight/unsplash

一方、グラスを合わせたからといって、「あなたマナー違反ですよ」と指摘するような話でもありません。

BBQやキャンプといったカジュアルな場などでは、目くじらを立てることではありません。TPOに合わせて、ワイングラスで乾杯「カキーン」がOKな場合もあるでしょう。

高級レストランで身を大きく乗り出して、ビールのように乾杯するのはお勧めしません。ただ、手の届く範囲で隣の席の人と、周りにご迷惑にならない声と音で、グラスをそっと合わせても問題はありません。

ワイン業界20年以上の私でも、今でもそうすることの方が多いです。

大切なのは、ワインを介して素敵な時間を過ごすことだと思います。「マナーを理解したうえで、そっと乾杯しています」という振る舞いがポイントですね。

文:古川康子(シニアソムリエ)

編集:野上英文(MIT Sloan Wine Club)

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