福島県:失われた産業をスタートアップと再構築する
『日本全国のスタートアップを知る』をテーマに地方のスタートアップにフォーカスするシリーズ。
北海道編・沖縄編、広島編、新潟編に続く、第5回は福島県に注目します。
東日本大震災、原発事故から12年。失われた産業を回復すべく、産官学が一体となって、6つの重点分野でのイノベーションに注力しているんです。
☕️coffee break
福島県が経済再生に動き始めたのは2014年のこと。
特に災害の被害が大きかった福島県浜通り地域(15市町村)で新たな産業基盤の構築をすべく、国家プロジェクトとして、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想が始動しました。
これは、当時の経済産業副大臣を中心に国・福島県・市町村・企業が連携して、産業集積の実現、教育・人材育成、生活環境の整備、交流人口の拡大に向けた取り組みです。
中でも、「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」といった6つの分野を重点分野として、プロジェクトを具体化してきました。
スタートアップに限らず、イノベーション創出をメインにしたプロジェクトですが、2023年度は総額510億円の予算が割り当てられています。
🍪もっとくわしく
2019年度からは、スタートアップ創出することを目的とした、「Fukushima Tech Create」もスタートさせました。
これは、福島県浜通りで重点6分野での創業・事業化・量産化を支援するプログラム。それぞれ300万円、500万円、1000万円を上限とした補助金に加え、行政機関、学術機関、ベンチャーキャピタルによる支援も行っています。
2022年には34件が採択され、成果発表会も開催されました。現在も2023年度のプログラムが実施されており、こちらは15件が採択されています。
福島イノベーション・コースト構想の一環で実施されているこれらのプログラムには、いずれも福島県内だけでなく、日本全国から優れた技術を有する企業が集結しています。
例えば、東京拠点のスタートアップが展開する事例では、以下があります。
・メルティンMMI:福島第一原発の廃炉作業向け遠隔操作型隔離装置の開発、生体生体信号処理とロボット技術の融合によるサイボーグ実用化
・人機一体:先端ロボット工学技術の社会実装
・プランツラボラトリ:降雪・強風に耐えられるな堅牢な植物工場システム
これらの企業のように、研究開発(ディープテック)分野では、実証実験・事業化・事業拡大していくにあたり、東京だけで取り組むことは難しい。
そういった実験の場を求めて、日本全国からプログラムに応募する企業が現れるんですね。
🍫ちなみに
直近5年間で福島県内に拠点を構えるスタートアップが、株式で調達した資金総額も見ておきましょう。
2018年:14億円
↓
2019年:17億円
↓
2020年:10億円
↓
2021年:14億円
↓
2022年:9億円
出所)INITIAL(2023年1月19日時点)
2022年の資金調達総額では、長崎・徳島・秋田に続く、全国22位。
未上場で企業評価額が最も高い5社は以下の通り。
1. リビングロボット:評価額51億円、総調達額8億円(2022/1/31時点)
ここに注目👉共通のIDを通じてクラウド上で思い出を共有しながら、共に成長するロボットを開発。主に教育現場やシニア向けのロボットに使われています。2023年2月には福島県南相馬市と連携協定を締結し、介護・生活支援システムや自動電動草刈りロボットの開発・実証実験にも動いています。
2. J-BEAM:評価額20億円、総調達額55億円(2021/10/29時点)
ここに注目👉旧社名は福島SiC応用技研。2014年に福島の復興を次世代半導体デバイスの実用化・量産化で支援すべく、ローム・堀場製作所・京都ニュートロニクスの共同出資により設立。次世代パワー半導体の炭化ケイ素を活用して、陽子線でも治療できない転移性・難治性がんを対象としたホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の治療装置の開発に取り組んでいます。
3. FACT4:評価額12億円、総調達額2億円(2015/6/12時点)
ここに注目👉スマホ内蔵のカメラでユーザーの視線・感情を読み取って、Webサイトやコンテンツの評価を分析するマーケティングツールを開発。2023年1月期の純利益は5808万円と黒字化しています。
4. HealtheeOne:評価額11億円、総調達額3億円(2019/12/31時点)
ここに注目👉地域医療を維持し続けるために、クラウド型電子カルテアプリ、医事業務のアウトソーシングサービス、診療報酬の建て替え回収代行、文書一元管理サービスなどを提供。2019年1月にはサッカークラブ「いわきFC」と共同でスポーツ医療・スポーツサイエンスの拠点となる「いわきFCクリニック」を開業し、アスリートに対する医療や、休日夜間の一次救急も行っています。
5. ミーチュー:評価額5億円、調達額2億円(2019/4/26)
ここに注目👉旧社名はZIG。 2022年9月30日時点でユーザー数43,206人を抱えるファンコミュニティプラットフォーム「Mechu」を運営。また、VTuber事務所「ほへとプロダクション」も運営するなど、クリエイター向けのサービス展開に取り組んでいます。
これらを見ると、福島県内拠点の企業では資金調達→事業拡大という流れが定着しておらず、発展途上のスタートアップエコシステムです。
今後、日本全国から集結したスタートアップが福島県を活性化させるとともに、研究開発(ディープテック)分野を中心とした実証実験・産業構築の場として定着することに期待したいですね。
サムネイル画像:Unsplash/Kentaro Toma
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