44 【手順3】地域俯瞰的な視点から「この国のかたち」を理解する

2023年2月28日
全体に公開

 前回はイスタンブールの話をしましたが、流れを元に戻しましょう。「この国のかたち」を理解するための手順シリーズ、今回で「手順3」です。前回で「この国のかたち」を「リージョンとして理解する」と予告をしました。

 シンガポールを例にしてみましょう。手順12に沿って考えれば、下記の2冊が該当します。この段階だけでも、なかなかの知識になっています。大体こういう感じだ、という地点にまでは到達すると思います。

 加えて、下記の新書も良いでしょう。上は教育の視点で、ジャーナリストの中野円佳さんが丁寧な取材に加えて、自らの経験も踏まえてバランスの良い記述がされています。

 下は1993年出版と少々古くなりますが、シンガポールという国が急激な発展を遂げて、現在の地位を予想させるかのようなタイミングに書かれた本です。出版年は古くなっていますが、現在のシンガポールを理解するのは、「経緯」が非常に大切です。なぜなら、この国の人々が経験したことを追体験することになるからです。かつ、著者は日本のシンガポール研究を牽引してきた田村慶子先生です。上記の明石書店の本の編者でもあります。下の本も教育についてかなり触れていますので、新しい本と古い本を読むことで、教育通史的な視点でシンガポールを観察することができます。

 さて、「手順3」としては、東南アジアあるいはアジアというリージョン視点から相対化することが必要になります。周辺国について一国ずつ掘り下げるのでは無ないことに注意してください。あくまで、アジアの全体のダイナミズムを理解するという視点が必要になります。こちらも、結構な数の良書が出ていますが、私は、ここでは、下記を推薦図書しておきたいと思います。

 ここでも新書を活用します。よりアカデミックな本も推薦したいのですが、それはもう少し先にしておきましょう。まだ、読みやすくかつ信頼できる本でベースを作る段階にあるからです。森の中に迷い込んで木だけをみるのではなく、まずは、森全体を把握する、というイメージです。

 まずはこちら。2011年の出版です。昨今でも、東南アジアは高成長だ、これからは東南アジアだという表現を聞き、確かにそういう側面はあるのですが、12年も前にこの本が出版していたことに注目したいです。しかも、国単位ではなく、都市単位で捉え、都市間の関連で「メガリージョン」という概念を提唱しています。12年経っているため、修正が必要な箇所もありますが、基本的な視点は、今も十分に通用するでしょう。

 次いでこちら。こちらは高齢化とアジアをテーマにしており、今でこそ、新興アジアの高齢化は知られるようになり、日本の介護サービス関連企業も進出をしています。ただ、この本が書かれたのは2007年。実は、上記の「消費」よりも先に「老い」に著者である大泉啓一郎氏が注目していたことは、慧眼(けいがん)と言えるでしょう。

 同じく大泉啓一郎氏による著作で2018年に出版された本がこちら。上記2冊に比べると、学術的な色彩が抑えられ、かつ、色々と言われてしまっている日本、ないし日本企業がこれからの機会を掴むにはどうしたらよいか、という提案書的な側面も含まれています。

 そして、もう少し新しい本や、今、新興アジアを語る上で欠かせない、デジタルやテックスタートアップについての本をあげておきましょう。「デジタル化する新興国」は中国が主ですが、中国のデジタル化の流れは、東南アジアにも大きな影響を与えていますので、今、ビジネスの現場では必須の知識でしょう。

 政治や歴史については、下記を挙げておきます。こちらも、各国を一つずつ説明するのではなくて、リージョンとして描き出しています。全て岩崎育夫氏による著作ですが、新書サイズかつ地域横断的に東南アジアを描ける書き手は、そうそういません。

 「他にもこういう本があるだろう」「もっと新しい本がある」と思った方もいると思います。そう、そうした本はもう少し先にしたいと思います(推薦の図書や自分ならこれを読む、これを読んでよかった、などがあれば、絵是非、コメント欄にてお願いします)。

 あくまで、ここまでは、ランチ1回分ほどのポケットマネーで買う本で、ストーリーとして「この国のかたち」を理解することを重視しています。そのため、あえて新書縛りで考えています。新書には新しいものもあれば、10年以上経ってしまった少し古い本もあります。ただ、ここで挙げている古めの本は、まだ色あせない良さを持った、本質的な理解を促すものを挙げています。

 このあたりまできたら、もう少し踏み込んだ知識を身につける段階に入りました。次回は、「この国のかたち」を掘り下げるという視点から、手順4として次のステップに進みたいと思います。まだ、どれをとりあげようかと考えていますが、このあたりまでくると、学術本や学術的な色彩の強い本を読み、骨太な理解を構築していく段階を迎えたと言えると思います。

 それにしても、日本の新書という出版形態は素晴らしいな、とつくづく思います。

(バナー写真:Unsplash/Alex

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