飲食店の「入店拒否」はどこからが差別的?客を選ぶ権利について

2023年2月17日
全体に公開

飲食店が客を選ぶ権利はどこまで認められるのでしょうか?この問題について考えるきっかけになったのは、ある日の出来事です。

とろけるような自然の甘さを弾けさせるカブのグリル、やさしい西洋わさびと繊細なゆずの香りが舞うサラダ、昆布の旨みがグッと詰まった弾力のある真鯛のカルパッチョ。これらの味わいを引き立てる、奥行きのある凛としたワイン。

じっくりと美味しいものを食べることが好きな私は、その日も口の中でイタリアに旅をしながら、行ったこともない小さな村の風景を楽しんでいました。

私は、美味しいものを食べることも、じっくりとワインと向き合うことも、大好きです。自宅では味わえないものを、その環境で楽しむめることに、外食の魅力を感じています。

途中で、カウンター席の隣に、2人組が入ってきました。

その香水の匂いがとても強く、食材、調味料、ワイン、カウンターの木材、キッチンの奥の香ばしい香り、全てが一瞬にしてかき消されてしまいました。

「(過度な)香水をつけた方はお断り」

このような記載をする飲食店は、珍しくありません。このような記載があると、店の営業を妨げることなく、ある程度の"自己管理"ができるお客さんが来店することが期待できます。

しかし、人によっては「過度な」という度合いが異なり、また文化や個人の好みによっても異なるため、注意書きがあっても問題が起きることがあります。たとえば、私がときどき働いているワインスタンドにも注意書きがあるにもかかわらず、とても強い香水をつけたお客さんが来店することがあります。このような場合、店員が手首を拭くためのおしぼりを提供することがあります。

さて、このような対応について、「差別的だ」という声はあまり目立つことはありません。では、次のようなケースがあった場合は、どうでしょうか。

「体臭の強い方はお断り」

または、「営業に支障が出る」という同様の理由で、次のようなケースも考えられます。カッコのなかは、想定される店側の都合を記載したものです。

「アレルギーなど制約が多い方はお断り」(対応ができないため)

「お酒を飲まない方はお断り」(利益が出しにくいため)

「(発達年齢や、障害などで)じっと座れない方はお断り」(雰囲気を見出すため)

「日本語を話さない方・外国人はお断り」(説明ができないため)

「車椅子での入店はお断り」(スペースがないため)

最後の2つは、過去にも何度かニュースにもなっているので、ご覧になった方や、考えたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

さて、今回はどこからが「差別的」だと捉えられるのか、どのような対応が望ましいのか、考えていきたいと思います。

問題がありそうな入店拒否の事例

過去には、法律や倫理的重要に照らし合わせたとき、望ましくないかたちで特定の人を排除する事例が炎上や裁判に繋がることがありました。

私は、お店が自由に客を選ぶ権利があると考えますが、特定の属性に対する差別や違法な行為には反対です。

差別を禁止することに関連する法律には、次のようなものが挙げられます。

【人種差別撤廃条約・女性差別撤廃条約・障害者差別解消・部落差別解消推進法・ヘイトスピーチ解消法など】

また、現在、LGBT差別禁止法の導入の必要性に関する議論も目立ってきています。

これらは、特定の属性や特性(人種や障害など)を理由に、正当な理由なく、入店拒否したり、サービスの提供を拒否したりすることを認めないとするものです。したがって、次のようなケースは、明確に違法扱いになる可能性が高いと考えられます。

【女性の入店拒否】

現在の日本では比較的少ないかもしれませんが、「女性は男性に比べて少食だから」という理由で混み合っている時は女性を断っているというお店の話を聞いたことがあります。

サウジアラビアなど中東地域や、昔のヨーロッパにおける上流階級の社交場としての場における拒否に関しては、これが問題にとなったことがありました。

【外国人/日本語を話さない人(特定の人種や国籍と、その文化や能力、特性)の拒否】

"人種”というのは決して"肌の色"などの身体的特徴のことではありません。DNA解析では、生物学上の人種の身体的違いはないというのが、現在の一般的な科学的理解です。環境や社会の違いから生じる能力やイメージとしての社会的な”人種"は存在し、その中には言語や文化的習慣、社会的表象も含まれます。したがって、人種とも言語とも捉えられる"Japanese Only"はもちろん、人種ごとに明らかに差異があると考えられる言語や文化などの後天的な能力/態度や、外国語名を理由にすることも、不適切だと考えられます。

【障害者(身体的特徴や、障害による特性)の拒否】

車椅子のスペースを確保できないから、などの理由で障害者の入店を認めないことは、正当な理由とは認められないことが一般的です。「身体障害者補助犬法」では、飲食店での盲導犬などの身体障害者補助犬の受け入れが義務付けられています。

また、このほかにも、部落出身者や、多様な属性に対するヘイトスピーチにあたる表現で入店を拒否することは、差別的であると捉えられる可能性が高いと考えられます。

議論が分かれそうなものは、、

上記は、いずれも「属性」を理由にしたものや、その属性による特徴が強く反映されたものでした。どのような場合でも、「正当な理由かどうか」については、意見が分かれることが多いと考えられます。

確かに、1人で回している小さなお店に、日本語ができない来客が溢れると、営業が難しくなってしまうケースがあるかもしれません。しかし、その結果「Japanese Only」と記載することは、一般的にはそれが「正当な理由」としては認められません。英語のメニューを用意することができればベストですが、断るのではなく、「英語ができない」と示すだけで十分かもしれません。その上で、入店するかどうかの判断を客に任せる、といったケースもあるようです。

では、次のようなケースはどうでしょうか。

「アレルギーなど制約が多い方はお断り」

「お酒を飲まない方はお断り」

一般的には、これらは「差別的だ」と言われることはあまりありません。たとえば、焼肉屋さんやお寿司屋さんのコース料理で「ヴィーガン対応ができない」という場合は、仕方がないと理解されることが多いと思います。また、居酒屋やワインバーなどのお酒を出すことが前提になっている場所であるにもかかわらず、お酒を飲まない方が来店されると、店の本来のサービスを提供することができなくなります。その場合、「未成年やお酒を飲まない方はお断り」と示されていることもあります。これが問題になるケースは、あまり多くはありません。

ただし、宗教上の理由でお酒を飲めない、信仰や体質的理由で肉を食べられない、という方もいます。この場合、「それは人種的理由での拒否」に当たるのではないか?という主張も出てくることがあります。

こういった場合は、入店やサービス自体を拒否するのではなく、「肉や魚の入ったコース料理しか提供できない」「料理の特性上、乳製品を排除して出すことはできない」と、サービスの限界を伝えた上で判断を客に任せることが、最善のコミュニケーション方法かもしれません。

さて、もともとの匂いの話に戻したいと思います。

「体臭の強い方はお断り」

「香水を強く付けている方はお断り」

これらは、どうでしょうか。こういった場合は、「客側が、その匂いを自分の意思で比較的自由に変えることができるのかどうか」が関係するかもしれません。

たとえば、その体臭が年齢や性別、遺伝子、病気などによるものであれば、本人はどうすることもできません。それを拒否することによって「差別された」と感じる人がいる可能性もあると思います。

ただ、香水や柔軟剤の調整や、衣服についた強いタバコの香りは、比較的短時間の行動によって対応することができる可能性が高いのではないでしょうか。

もちろん、どのような場合も、状況やコミュニケーションによって、相互の受け取り方は大きく変わることがあるので、一概には言えません。

店と客はそれぞれどう対応したらいいのか

店側も、サービスを提供する相手を選ぶ権利はあります。差別的にならないように、そして気持ちのいい営業ができるように、入店を拒否する際はその妥当性や伝え方に気を配る必要があると思います。また、飲食店が客を選ぶ権利と差別行為の区別を考えることが大切です。

そして、客とのその人とのコミュニケーションを通じて、対応方法や代替案を提供することで、できる限りの対応をすることが望ましいかもしれません。

一方で、客側も、店が客を選ぶ権利があることを理解した上で、対応ができないケースを受け入れる必要があります。無条件に「神様扱い」をしてもらえるなどと勝手な期待を押し付けたり、要望が叶わなかったからと批判するのは望ましくありません。要望を叶えてもらえなかったからと批判することは望ましくありません。もちろん差別がある場合は指摘することが必要です。ただ、気に入らないこと全てに「差別だ」と怒るのではなく、差別がどのような場合に当たるのかの知識を身につけ、議論を投げかけることが大切です。

最後に、流行りのAIにも聞いてみたので、共有します。これらの回答は、あくまで参考程度にできればともいますが、概ね、上記の回答と重なるかなと思います。

「日本で、下記のことを掲げるレストランは、差別的ですか?その根拠もできるだけ詳しく教えてください。」(数字が飛んでいるのは、私の入力ミスです)

「他のお客様に迷惑がかかる場合」の対処法や対応は悩ましいなと思います。健康上などの理由で、端っこの席しか案内してもらえない、というのも切ないものですから。

今回取り上げたテーマは、白と黒で明確に分けることができるものばかりではありません。言葉遣いにもよるかもしれません。

みなさんの考えや価値観、経験など、ぜひ共有していただければ幸いです。

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