ユニコーン100社で日本は変わるのか

2022年11月25日
全体に公開

日本政府によるスタートアップ政策。岸田政権の肝煎政策としてここ一年再三報道がありましたが、いよいよまとまりました。これ自体は政府のコミットが高まったということで歓迎すべきでしょう。

<政府支援策の主なポイント>

・ユニコーン数 6社から100社へ

・スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模(v.s.0.8兆円 now)

・大学発スタートアップを増やすため、1大学につき1社のIPOやM&Aを目指す

・産業競争力強化法を24年メドに改正し、産業革新投資機構(JIC)の運用期限を現在の34年から50年までに延ばす

・企業が社員らに付与するストックオプションの期間も、現在の最大10年から延長

特にインパクトがある数字としてメディアでも報道されているのが、「10兆円」と「ユニコーン100社」だと思います。この政策が日本を変えるのか?今日はこの政策のインパクトについて書いてみたいと思います。

なお、以前同様の問題意識として指摘させていただいた記事がありますので、こちらも合わせてご覧ください。

ユニコーン100社の上場市場へのインパクトは?

日本の上場市場ですが、4,000社近い会社が上場しています。日本の企業経済の特徴として2つ挙げるとすると、上場企業が世界一多い(※米国と同程度)、中小企業がものすごく多い(400万社)という特徴があります。日本の経済やエコシステムは中小企業が支えており、多数の中小企業がバリューチェーンや日本の品質を支えていたりもします。

上場企業については、旧マザース市場が存在したことから、世界一上場しやすい市場と言われています。さらには、市場退出のルールがそれほど強くなく、一度上場してしまうと上場維持することがそれほど難しくありません。海外のような非上場化という財務戦略・経営戦略も一般的ではありません。ですので、強制的な市場退出や戦略的な市場退出、それぞれが存在しないため、小粒な上場企業が大量に存在しているという特徴があります。

足元のIPO市場でもダウンラウンドIPOがかなりの数出ており、かつSmall IPOと言われる200億円未満(実際は100億円未満が大半)規模のIPOが多数を占めている状況です。せっかく、リスクマネーの提供と経営力の向上でSmall IPOや上場ゴールと揶揄されている状況を脱しましょうと言っていた中で、やや逆戻り感があるのが現状です。

それを変えていこうということで、あらためてユニコーン100社という目標を掲げています。これを上場企業で見たらどのあたりのインパクトでしょうか。だいたい、1000億円を超える会社は800社超存在します。それが10%ちょっと増加するインパクトです。確かに、数で見るとそれなりでありますが、重要なのは価値ベースでしょう。

2022年11月時点

現在、日本の時価総額の合計は700兆円程度です。長らくこれぐらいの水準から変化していません。以前、以下の投稿で整理していますので、こちらもご参照ください。

ユニコーン100社とは、1,000億円が100社と考えてしまうと10兆円にしかなりません。時価総額を1.5%程度押し上げる効果しかないのです。一方、米国では時価総額の上昇のほどんどをGAFAMを中心とした急成長企業が占めています。今、時価総額における貢献度は半分を超えるぐらいまで成長しており、まさに経済や産業を旧産業と新産業の両輪になっている状況です。日本も両輪と言えるぐらいまで成長させようとすると、700兆円を生み出さなければいけません。

ユニコーンで言えば、7,000社ということになります。果たしてこれは現実的な目標でしょうか?

ポストIPOスタートアップが重要

米国がスタートアップをエンジンにできている大きな理由は、ポストIPOスタートアップの成長です。以前、私が調査した以下の表を見てください。実に、上場後に1,000倍という成長を遂げているのが今、米国を代表する企業です。

出所)当方による2021年春頃の調査結果

仮に、300億円で上場しても、トヨタ並の30兆円まで成長するというインパクトです。もしこれが可能なら、Small IPOが悪いとは全く言えなくなってきます。逆に、ユニコーンをいかに多く生み出しても、上場後の第二の死の谷にはまり、数百億円に低迷したりするとどうでしょう。そうでなくとも、1000億円程度でその後の成長が止まってしまえば、さらに中小企業を生み出す構造にしかならないかもしれません。

ユニコーンはスタートアップエコシステムにとっては、希少性があり大成功事例と言えます。ただ、米国や日本のような経済大国全体と比較すると、まだほんの小さなインパクトしか生み出せていない状況なのです。

10兆円の投資でリターンを生み出すには?

10兆円の投資額についても考えてみたいと思います。VCファンドは一般的に3倍のリターンを目指しますが、それを達成できることは一部VCに限られます。ここでは平均して2倍のリターンを創出するケースを見てみましょう。

仮に10兆円で2倍のリターンを生み出そうとすると、20兆円にしなければいけません。スタートアップの上場時の外部金融投資家の持分比率を30-40%と想定すると、最低50兆円の時価総額をユニコーン1,000社で実現しなければいけません。平均して最低5,000億円ということになります。

現実問題として、日本の限られた市場規模で5,000億円を超えることができる市場は限られている可能性があります。現に、大成功事例と言われているメルカリ等をみても、1,500-4,000億円程度で止まっているケースがほとんどです。5,000億円というのはかなり日本市場において圧倒的な成功を収めたケースに限られるのです。

それでは、多くの成功したユニコーンが1,000-2,000億円に止まってしまうとすると、それを超える大成功事例が必要になります。おそらく、10社程度が平均3兆円というぐらいの目線が必要になります。もし仮にこれが実現できたとすると日本のTop100社の企業群にスタートアップ血筋の会社が10%ぐらいを構成する状況が生まれます。

一方で、3兆円というのがM3(エムスリー)のレベル感になります。これを10社というのは簡単なことではないのですが、大規模市場で圧倒的ということに加えて、グローバル化というテーマは避けて通れないことになります。

さらに、DX 分野はグローバル化での競争が激しく、日本ローカルの企業が世界を制することができるかは、それなりに保守的に考えなければいけないかもしれません。そうすると、テクノロジードリブンのディープテック分野で世界市場に打って出られるような、まだみぬ成功事例を生み出していかなければいけないという課題も存在します。

10兆円はPFM後のグロース投資なのか?

ある程度している部分もあると思いますが、先ほど述べたような領域はまだ成功事例があるとは言い切れません。すなわち、まだPMFしていない部分があるということを謙虚に認める必要があります。

今回の10兆円は、すでに成功しているモデルをグロースさせるための資金投下と見ることができれば、成功確率は高いかもしれません。一方、その分野だけでグロースが十分でないなら、新しい分野で新たなPMFが必要になります。

すなわち、今回の10兆円には、新しいプロダクト開発や市場創造が必要なスタートアップへの大型投資と同じようなリスクが伴っています。我々はこの資金を活用して、リターンを創出するために、新しい領域や成功事例を生み出していかなければいけないということを肝に銘じていきたいと思います。

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