ロシアの「ハンバーガー事情」から考える戦争と経済。マックがある国どうしは戦争しない??
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国際情勢の基礎の基礎を理解することを目的としたこちらのトピックですが、継続して読んでくれる方がいたり、コメントまでしてくださる方がいたりするのは本当に励みです。いつもありがとうございます!
というわけで、今回はロシア、中でもロシアの「ハンバーガー事情」を通して戦争と経済の関係を考えてみたいと思います。ぜひお付き合いください!
「美味しい。ただ、それだけ」というハンバーガー屋
ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのが2月24日でした。
するとマクドナルドは3月上旬にはロシアでの営業停止を決め、その後、恒久的な撤退を表明しました。マックはロシアに850ある店舗をロシア企業に売却し、恒久的に撤退すると表明します。
そして、これらのマック店舗を使ったロシア資本のハンバーガー屋の営業が6月12日から始まりました。
マックの後釜になっているハンバーガー屋の名前は「フクースナ・イ・トーチカ」。ロシア語で「美味しい。ただ、それだけ(Delicious, period)」という意味だそうです。政治的な背景から撤退したマックへのあてつけでしょうか。
内装の写真などを見るとロゴマーク以外はマクドナルドそのもので、味も似ているとのこと。「ちょっと味付けが濃くなった」「むしろこっちのほうが美味しい」というお客さんもいるそうです…。苦笑
(ロシアのプライドの発露なのか、プライドがないのか判断に困りますね)
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現状、15の店舗で営業が始まっていますが、大人気のようです。運営会社はもとからある850の店舗だけではなく、更に新店舗を広げたいとまで語っています。
ハンバーガーをロシア文化として定着させたいということらしいですが、商魂逞しいどころじゃありせんね。
ロシアとマック、激動の30年史
日本でも、安くて美味しいファストフードとして馴染みのあるマックですが、ことロシアにとってはそれ以上の意味があります。
モスクワに初めてマクドナルができたのは1990年の1月。極寒の中、人々は歓喜に湧き、行列は数キロにも及んだそうです。初日のお客さんは3万人以上だったというのですから驚きです。
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なぜ、ロシア人はマックにこれほど熱狂するのか。歴史的な経緯を紐解くと少し見えてきます。
1990年といえば、東西冷戦の最終盤。ソ連の指導者はかの有名なゴルバチョフです。
前年の89年にはベルリンの壁が崩壊して米ソ首脳が冷戦終結宣言を行い、翌年の91年にはソ連が崩壊します。当時は、「鉄のカーテン」の向こう側で閉ざされていた東側の国々に西側の文化が加速度的に流れ込んだ時期でもあります。
同時に西側式の社会や政治体制を求める人々のうねりにもつながっていった時代でした。
そんな中でモスクワにやってきたのが、マクドナルドだったわけです。
マックと言えばアメリカ式の資本主義の象徴。当時のソ連に住み、外国をあまり知らされないロシア人にとってはファストフードそのものだったり、笑顔での接客は、衝撃的なものだったといいます。
そして時の針を現代に進めましょう。ゴルバチョフのペレストロイカ(改革)の真っ只中にやってきたマクドナルドは、30年の時を経た2022年、プーチンが始めた無謀な戦争のためにロシアを去ったわけです。
![](https://contents.newspicks.com/topics/29/posts/21/images/20220614124523782_wpRcnv7m.jpg?width=1200)
今や「大きな北朝鮮」とか言われるロシアですが、30代以下の人たちは当たり前にiPhoneでSNSを使います。(今はいずれもサービス停止ですが)
マクドナルドも生活の一部で、撤退は西側に統合されていった生活や文化が閉ざされることを象徴します。これには大きな抵抗があったでしょうし、その上の世代も、ソ連への逆戻りが頭にちらついたことでしょう。
だからこそ、マックのコピーにも見える「美味しい。ただ、それだけ」も、ここまでの人気なのでしょう。
マクドナルドがあっても、戦争は起きる
さて、もう一度話を1990年代に戻します。
ソ連の崩壊後はマックだけでなく、多くの西側諸国の企業が人口1億人を超えるロシアに進出していきます。
そしてヨーロッパを中心にロシアのエネルギーへの需要も高まり、かつての西側とロシアは相互依存を深めていきました。
世界に目を移しても、1993年にEUができるなど、この時期には世界が急速にグローバリゼーションを進めていきました。
それと同時に、安全保障分野での最大の関心事は大国間の戦争ではなくなります。
大国どうしの戦争は起きないのが「当たり前」で、むしろ日常の恐怖といえばアルカイダやISISといったテロ組織になっていきました。
2010年代に大学の学部で安全保障学の授業を受けていた筆者は、こんな理論を教わったのを覚えています。
マクドナルドのある国同士は、戦争しない──。
グローバリゼーションが進み、経済的に相互に依存する国々はお互いを攻撃せず、結果として平和が構築されるというものです。
しかし、今回、ロシアを見てみると、どうでしょうか。
起きているのは、真逆の現実です。マックがあったロシアでは暴君プーチンが一方的に戦争を起こし、その結果としてマクドナルドがなくなりました。
つまり、マクドナルドを主役に考えてみると、経済相互依存が国際平和を生むのではなく、平和の結果として生まれるのが経済相互依存だった、と言えるのかもしれません。
事実上、西側の民主主義とはかけ離れたロシアが起こした戦争だけを持ってして経済相互依存と戦争について断定するのは、さすがに飛躍がすぎるかもしれません。
しかし、今回の戦争はこうした「経済」という側面からの学びもとても多そうです。改めて、注意深く情勢を見たいと思います。
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さて、ほぼ初めてですが次回予告をさせていただきます。
次回は映画を紹介したいと思います。国際関係をとても面白く学ぶことができる、ある名作映画の名ゼリフを紹介しつつ書いてみたいと思います。
ケビン・コスナーが主演の、文字通りの名作です。ぜひ見ていただけたら嬉しいです!
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