【第6回】それぞれのニューロンの活動は、どうやったら捉えられるのか?
さて、前回まで「脳波」を観測することで、ざっくりとした情動やムードの情報ならば、どうにか情報を読み出すことができそうという事をお話してきました。それでは、記憶や思考といったより複雑な情報は可能なのでしょうか?残念ながら、そのレベルの複雑な情報の場合、「神経細胞ひとつひとつの活動を読み取る」必要があります。
【第4回】神経細胞たちの声を聴くのコラムでは、脳全体を東京ドーム、神経細胞一つ一つを観客に例えて、「脳波」は東京ドームの外から観客全体での歓声を聞くようなものだと説明しました。一方で、「細胞ひとつひとつの活動を読み取る」というのは、東京ドームでの野球の試合の最中に、それぞれの観客が「何をしゃべっているのか?」を紐解くということです。
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現在の神経科学では、主に二つの方法が使われています。一つが「カルシウムイメージング」、もう一つが「電気生理学によるマルチニューロン記録」という方法です。今日はこの方法について、少しお話ししようと思います。(技術的な話が多くなってしまうので、もし退屈だったら今日の話は読み飛ばして、次のコラムに飛んでください!)
カルシウムイメージングというのは、ビデオカメラを使って東京ドームの多くの観客の様子を録画し、読唇術的にそれぞれ人が何をしゃべっているのかを調べるような方法です。実際には、神経細胞が活動した時に蛍光が変化するようにトリックを仕掛けておいて、顕微鏡のカメラでその蛍光変化を解析しています(今日のコラムの冒頭のムービーです)。「多くの観客」が何を話しているのかがわかる一方、早口のひとの読唇術が難しいように、細かい部分で何をしゃべっているのかを取り逃がすことがあります。
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一方、「電気生理学によるマルチニューロン記録」というのは、東京ドームのあるブロックに1席に1つずつの録音マイクを設置するというような方法です。たとえば、C列15番の席に座ったひとの声は、C列15番に設置したマイクに強く集音され、C列14番や16番のマイクには小さい声で録音されることでしょう。このように録音したあとで、各マイクの音を解析して、誰が何をしゃべっていたのかを丁寧に調べることができます。現代の神経科学では、「シリコンプローブ」という多数の電気記録チャンネルを精密に配置したものなどが使われています。
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どちらの方法も「多くのニューロンの情報をできるだけ正確に記録したい」という目標があるなかで、カルシウムイメージングでは「数の多さ」、電気生理学的記録は「正確性」に重きをおいている方法と言えます。
ただ、いずれの方法も東京ドームの中に、記録装置を入れる必要がある点には変わりなく、言い換えれば脳を「侵襲して」記録する必要があるわけです。マウスやサルなどの動物ならばこのような侵襲が可能ですが、ヒトの場合にはこの侵襲性が大きな問題になってきます。
今日はやや技術よりのお話になってしまいましたが、次のコラムでは、ヒトの脳に対して、(治療目的のものを含めて)これまでどのような侵襲的な記録が行われてきたのか、そして、これからの未来どのような記録が行われようとしているのかについてお話しようと思います。
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