鳥インフルエンザは人間の脅威になるのか

2023年2月12日
全体に公開

皆さんは「鳥インフルエンザ」をご存知でしょうか。今回は、JAMA誌に掲載された記事(1)をもとに、この鳥インフルエンザについて取り上げてみたいと思います。

鳥インフルエンザはH5N1という型のインフルエンザウイルスです。人間に感染流行を起こすインフルエンザウイルスとは表面にあるタンパク質が異なるため、人間には感染を起こしにくく、感染流行を起こすには至っていません。

しかし、これまで鳥では何度もアウトブレイクを起こしてきたため、ニュースなどでご覧になったことがあるかもしれません。

この、鳥に感染するインフルエンザウイルスがなぜ恐れられているのでしょうか。なぜ感染した鳥が殺処分をされる必要があるのでしょうか。

Pexels

これは、このウイルスが持つ病毒性のポテンシャルにあります。これまで人への感染例というのは、実は確認されているだけで900例弱の報告があります(2)。感染しにくいとはいえ、全く感染しないわけではなかったのです。そして、その中から算出される致死率は、実に50%を超えるとされています。これはちょっと信じ難いほど高い数字です。

ただし、これは過大評価の可能性があります(3)。コロナ・パンデミックの初期の報告でも同様の事象が見られましたが、より軽症の感染や無症状感染というのは報告されないこと、見逃されることもあり、分母が実際より小さい可能性があるからです。しかし、それでもやはり無視できないほど高い致死率なのではないかということで懸念をされ続けているわけです。

とはいえ、依然として人間に感染しにくいのであれば、そんなに恐れる必要のある病原体ではなさそうです。それでもなぜ今、鳥インフルエンザなのでしょうか。

Pexels

実は、昨年になり、哺乳類での集団感染例が報告されるようになったのです。昨年の夏にはニュージーランドでアザラシ(4)が、昨年秋にはスペインでミンクが集団感染(5)し、哺乳類同士の感染が生じたことが疑われています。

これまでも、鳥から哺乳類にという散発的な感染例というのは人間同様、様々な動物で見られているものの、哺乳類同士の持続的な感染伝播が生じたのであれば、初めての出来事です。また、今回の集団感染では、飛沫感染や空気感染といった呼吸器を介した感染伝播が生じたと考えられています。

これらのことから、今想定されていることは、鳥インフルエンザが変異を獲得する過程で、より人間での持続的な感染伝播の将来に近づいてきているのではないかということです。哺乳類の中での呼吸器を介した持続的な感染伝播というのは、それを示唆する事象なのです。

また、哺乳類での気になる症状も報告されています。神経の症状です(6)。今年1月にクマの鳥インフルエンザ感染を報告した動物園は、感染したクマが失明をし、混乱の症状をきたしたと報告しています。また、アザラシの感染例でも、水中でうまく泳げなくなったと報告されています。

Pexels

まだまだ人間への感染については、散発的に報告されているに過ぎませんが、最悪を想定するという立場からは、その時が迫っている可能性も考えておく必要がありそうです。

今回のパンデミックは、経験としては確実に人類にとっての大きな財産にもなったと思いますが、仮に鳥インフルエンザによるパンデミックが生じた場合には、被害は今回のそれをはるかに上回るものになる可能性もあります。

有効な予防接種をいかに早く開発、流通し、より多くの人に届けられるか。有効な治療薬を確保できるか。ウイルスも変異を繰り返す中で、必ずしも全て先んじて準備ができるというものでもありません。しかし、「次の」パンデミックへの対応をどのようにするかについて、議論を進めておくこと自体は、今から始めても早すぎるということはないのかもしれません。

参考文献

1         Abbasi J. Bird Flu Has Begun to Spread in Mammals—Here’s What’s Important to Know. JAMA 2023; published online Feb 8. DOI:10.1001/JAMA.2023.1317.

2         Cumulative number of confirmed human cases for avian influenza A(H5N1) reported to WHO, 2003-2023, 5 January 2023. https://www.who.int/publications/m/item/cumulative-number-of-confirmed-human-cases-for-avian-influenza-a(h5n1)-reported-to-who-2003-2022-5-jan-2023 (accessed Feb 10, 2023).

3         Uyeki TM, Peiris M. Novel Avian Influenza A Virus Infections of Humans. Infect Dis Clin North Am 2019; 33: 907–32.

4         Agüero M, Monne I, Sánchez A, et al. Highly pathogenic avian influenza A(H5N1) virus infection in farmed minks, Spain, October 2022. Eurosurveillance 2023; 28: 2300001.

5         Wang W-H, Thitithanyanont A, Vreman S, et al. Zoonotic Mutation of Highly Pathogenic Avian Influenza H5N1 Virus Identified in the Brain of Multiple Wild Carnivore Species. Pathogens 2023, Vol 12, Page 168 2023; 12: 168.

6         Wang W-H, Thitithanyanont A, Vreman S, et al. Zoonotic Mutation of Highly Pathogenic Avian Influenza H5N1 Virus Identified in the Brain of Multiple Wild Carnivore Species. Pathogens 2023, Vol 12, Page 168 2023; 12: 168.

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
Ujike Yoshinoさん、他10634人がフォローしています