【常識を疑え】ビタミンCが害になる?

2022年6月18日
全体に公開

皆さんは、「敗血症」という病名を聞いたことはあるでしょうか。なかなか日常生活を送っていても出会うことのない病名ですので、ご存じのない方もいるかもしれません。

敗血症とは、感染症が全身に広がった結果、感染に対する反応が制御不能な状態に陥り、命をおびやかすような複数の臓器の障害が起こった状態を指します。感染症の中でも最も重い状態と捉えていただければ良いと思います。

この敗血症は、例えば肺炎から進行することもありますし、腎臓の感染症から進行することもあります。

この重い感染症で、臓器に障害が起こるプロセスの一つに「酸化ストレス」が挙げられ、「抗酸化物質」にはそれを食い止める可能性が期待されています。そしてその抗酸化物質の代表例がビタミンCです。

実際、敗血症を起こした人のビタミンCを調べてみると、そのレベルが低下する傾向が見られることが過去に報告をされています(1)。だったら、ビタミンCを投与すれば敗血症の治療に役立つのではないかと考えるのは自然だと思います。

ビタミンCは皆さんおなじみのビタミンだと思いますが、柑橘類などに多く含まれ、清涼飲料水やサプリメントなどでもよく見かけることのあるビタミンです。

ビタミンというのは、その定義上、生物の生命の維持のために必須であるものの、体内で十分合成することができず、体の外から摂取してこなければならない有機化合物です。

つまり、不足してしまえば、健康への影響は不可避なものです。一方、ビタミンCは、よほどの偏食がなければ、欠乏することが難しいビタミンでもあります。

それでもなお、ビタミンCをサプリメントなどで摂取することは「体に良い」というイメージが、もはや常識とさえなっているかもしれません。「ビタミンCが体に良いって知っていた?」と問われれば、「そんなの常識でしょう」と自然と口にしてしまうことでしょう。

しかし、実際のところはどうなのでしょうか。そう疑問に思ったら研究で丁寧に検証するのみです。

本日ご紹介する研究(LOVIT試験)(2)は、そんな日常の疑問に直接的に答えてくれる研究ではないものの、先にご紹介した「敗血症にビタミンCは有効か」に答えようとした論文になります。世界で最も権威のある医学雑誌の一つ、NEJMに掲載をされています。

どんな研究であったかといえば、まず18歳以上の、敗血症で集中治療室に入院となった患者が対象でした。この患者たちが1:1にランダムに割り付けをされ、片方のグループには1日体重あたり200mgのビタミンCが4日間投与されました。もう片方のグループには、ビタミンCの注射と見分けがつかないプラセボ(ビタミンCを溶解するために用いた、ただの食塩水またはブドウ糖液)が同じスケジュールで投与されています。

その後、28日目時点での患者の死亡または持続する臓器障害に、両グループの間でどのような差が見られるのかが評価されました。

全体で863人のアウトカムが評価されましたが、結果を見てみると、ビタミンCのグループでは、全体のうち44.5%で死亡または持続する臓器障害が見られたのに対して、プラセボのグループでは38.5%にとどまりました。

死亡だけで見てみると、ビタミンC投与群で152名(35.4%)、プラセボ群で137名(31.6%)でした。

この結果は、多くの医療者、そして何よりこの研究を行った研究者たちに衝撃を与えたと思います。なにせ、元々は「ビタミンCが人助けをするかもしれない」と予想して行われた研究です。ところが結果は、良かれと思って投与されたビタミンCによって、「効果がない」ばかりか、より多くの人の健康を害したり命を奪ったりすることにつながってしまったのです。

私たち医療者の間でもよく、効果の明らかでないビタミンの話題になる際に「ビタミンはまず害にはならないし、迷ったら飲んだらいいのでは?」というセリフが出てきます。

しかし、冷静になれば、やはり「害がない」と言うのにも科学的に丁寧に証明するというプロセスが大切で、頭の中では「きっと良いに違いない」と思っていても、実際には逆に「害になる」ということもありうるのです。

また、ビタミンCの摂取という点では、そのほかにも、ビタミンCは過剰摂取によって腎臓結石のリスクが高まるといったことも知られています(3)。「たかがビタミン、されどビタミン」なのです。

ただ、ここで誤解していただきたくないのは、この研究結果はあくまで敗血症に対するビタミンC投与の影響を示したものであって、この研究結果から、例えば「風邪でもビタミンCが害になる」などといったことが言えるわけではありません。それを言うためには、それを示す試験結果を用いる必要があります。

今回は、病気としてはちょっと実生活とはかけ離れたトピックを扱ってみました。しかし、今回ご紹介した研究は、あなたの身近な「常識」に疑問を投げかけてくれ、そういった「常識」との接し方に冷静さをもたらしてくれるという意味で、重要な研究であったと思います。

「それは常識でしょう」「そんなの健康に良いに決まっているでしょう」と思うことはたくさんあると思いますが、実際に検証してみれば、全く逆だったということもありうるのです。

参考文献

1         Carr AC, Rosengrave PC, Bayer S, Chambers S, Mehrtens J, Shaw GM. Hypovitaminosis C and vitamin C deficiency in critically ill patients despite recommended enteral and parenteral intakes. Crit Care 2017; 21: 1–10.

2         Lamontagne F, Masse M-H, Menard J, et al. Intravenous Vitamin C in Adults with Sepsis in the Intensive Care Unit. N Engl J Med 2022; published online June 15. DOI:10.1056/NEJMOA2200644.

3         Ferraro PM, Curhan GC, Gambaro G, Taylor EN. Total, Dietary, and Supplemental Vitamin C Intake and Risk of Incident Kidney Stones. Am J Kidney Dis 2016; 67: 400–7

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
Ujike Yoshinoさん、他10634人がフォローしています