Teslaの自動運転は目的地にたどり着けるのか

2023年1月22日
全体に公開

こんにちは。この一週間で、Amazon、Microsoft、Metaがそれぞれ1万人を超えるレイオフを行いました。筆者は幸い今のところレイオフ対象にはなっていませんが、日本人を含む同僚などにも対象となった人もおり、他人事ではありません。グリーンカードの取得を進めるなど、どういう状況になっても対応できるよう備えておくことは必要だと思います。

さて、シリコンバレーに戻ってきたら、ベータ(有償)に登録していたTesla Model 3のFull Self Driving(FSD)が利用可能になっていました。2週間ほどの間、クパチーノ/サンノゼ近辺で利用してみました。

使ってみた感想としては、完全自動運転の実現には程遠いものの、市街地の運転アシスト機能としては有用、というものです。利用していた経験を詳しく紹介していきます。

FSDの利用体験

いきなりダウンタウンで試すよりはと思い、まずは標準のAuto Pilotが有効に機能しているフリーウェイで試してみることにしました。家からサンノゼの日系スーパーミツワまで、FSDをオンにしてドライブしてみました。まず、アパートメントの駐車場から出ようとしましたが、最高速度を25マイルと認識して、パーキング内を走り始めました。これは速すぎですので、早速FSDを停止しました。一般道に出たら、気を取り直して再度FSDをオンにします。一般道からフリーウェイの280に乗るまでは、まずまず安定した走行をします。

しかし、フリーウェイを降りるあたりから雲行きが怪しくなって来ました。うまく出口で降りられません。結局次の出口で降りることになりました。フリーウェイを降りてから、逆方向の入り口の車線へもスムーズに入ることができず、車線変更が違反になる位置で無理やり車線変更を行いました。そして、フリーウェイに乗る入り口では、フリーウェイの最高速度65マイルで走行し始めました。本来は30-40マイル程度で走るところです。ここもFSDを利用停止しました。結果的には、フリーウェイの乗り降りは安定してできませんでした。

その後、一般道でもFSDをオンにして走行してみました。信号での停止や交差点の右左折などは割と安定して成功します。また、歩行者や路上駐車の車などの障害物もきちんと認識して、停車や回避などの対応を行います。ただ、これは後述するように他のユーザーからも報告されているのですが、FSDは右左折や高速道路を降りるために適切な車線を取ることがうまくできないようです。どうかすると、左折前に左車線にいるのに、意味もなく右に車線変更したりします。これはほとんどバグです。アメリカの市街地ではラウンドアバウトがよくあるのですが、ランドアバウトに入るときには中の交通に徐行するルールになっています。しかしFSDは、減速せずに突っ込んでいったりします。

この時点で、文字通りの「完全自動運転」として利用することは諦めました。

FSDはレベル2相当

2021年3月の報道によれば、Tesla自身からカリフォルニア州のDMV(交通運輸局)に宛てたレターの中で、FSDは自動運転のレベル2相当の技術であるとしています。これは、既存のクルーズコントロールなどと同様の部分的な自動運転であり、運転者が常にハンドルを握って運転を制御することが求められます。

筆者も、初めは完全に運転を任せられるという期待値でFSDを利用してみましたが、その期待は裏切られました。その後は、一般道を普通に運転している中で、しばらく道なりに走行する場合などに、ポイントでFSDをオンにするようにしてみました。すると、便利なのがわかりました。この使い方は、標準のAutoPilotをフリーウェイで使っているのとほぼ同じです。車線変更以上の難度の運転を任せることは難しいものの、考えなくていい範囲の運転であればポイントでFSDに肩代わりしてもらうことができ、運転者の負担は軽減できます。

しかし、このベネフィットのためにFSDに15,000ドルの値段を払う価値があるかというと、現時点では疑問です。

厳しくなってきたFSDへの視線

2022年12月に、人気テックYouTuberのMKBHDが、FSDをテストする動画を公開しました。そこでのキーワードは、FSDのトラブルは「恥ずかしい」(embarrasing)というものでした。これは筆者の利用体験と同じです。

恥ずかしいだけならいいのですが、実際にFSDは多数の事故を起こしています。2022年の11月のサンクスギビングに、サンフランシスコとオークランドをつなぐベイブリッジで、車8台を巻き込む玉突き事故があり、一時橋が封鎖されました。この大事故を引き起こしたのは、高速道路の途中で理由もなく突然停車したTesla Model Yでした。事故の調査を行っている米国運輸省道路交通安全局は、調査の結果その車両はFSDの利用中だったと公表しました。

2018年に、FSDの利用中のドライバーが死亡する事故が起こりました。この事故をめぐる裁判の中で、TeslaのAutoPilotのエンジニアが、2016年に公開され今でもTeslaのサイトに掲載されているFSDのデモ動画は、実際のFSDの挙動を撮影したものではなくやらせだったと証言しました。

こうした状況もあり、カリフォルニア州は、最近レベル2の自動運転技術を完全自動運転と混同するような名称で呼ぶのを禁止する法律を可決しました。これは明らかにTeslaを対象としており、「AutoPilot」「Full Self Driving」といった名称は少なくともカリフォルニア州(Teslaの最大の販売地域)では変更が必要となります。

FSDがなくともTeslaはそれでもいい車ではありますが、BYDや起亜、ヒョンデなどのアジアのメーカーから、比較的低価格な競合製品が発売され、シェアが伸びています。EVのハードは作りがシンプルな分、差別化は困難です。これはスマートフォンになって起こったのと全く同じ現象です。Teslaはそのため、自動運転ソフトウェアで差別化をしようとしてきました。しかし、目的地までの道のりは文字通り遠そうです。

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