都市を創るのは誰か? 都市は誰のものなのか? 燐光群『 ストレイト・ライン・クレイジー』上演

2023年7月11日
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都市計画とは、いったい誰がどのように考えて実行されるのか? そして都市は誰のものなのか? そんなことを考えさせられる演劇公演がある。劇団〈燐光群〉による『ストレイト・ライン・クレイジー』が、2023年7月14日~30日東京・下北沢ザ・スズナリで上演される。世界都市ニューヨークの景観を創り、「マスタービルダー(創造主)」と称されたロバート・モーゼスを描いた物語である。

ロバート・モーゼスとは

ロバート・モーゼス(Robert Moses:1888-1981)は、政治家でも実業家でもなく、現代アメリカの都市計画を推進した稀代のカリスマ行政官である。

NTLive『ストレイト・ライン・クレイジー』©️ Manuel Harlan

彼が若くして仕事をはじめたのは1912年、ニューヨーク市役所の調査局という、地方自治体の政治腐敗や浪費の排斥を目的とする諮問組織だったという。そこで身につけた政府組織と行政機関に関する専門知識を武器に、1920年代にはニューヨーク州知事の側近となって活躍した。

当時のニューヨークでは移民が爆発的に増加し、劣悪な住環境で治安も悪くなり、疫病が蔓延していた。モーゼスは特権階級に生まれ育ったノブレスオブリージュの精神を発揮し、都市計画の実現に辣腕をふるっていった。母親が裕福なドイツ系ユダヤ人移民で、セツルメント運動(貧困地域住民の生活向上に努める社会運動)に熱心だったという血筋も影響したのだろう。

ニューヨークの労働者の生活を向上させたい一心で、ニューヨークに大規模なインフラを整備していった。ロングアイランドには未開に近い未使用の土地が多いことに気づき、数多くの州立公園を建造した。

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