米サンフランシスコ開催のFuture Food Tech Conference 2024~登壇者との直接会話で感じ得た「潮流」と「日本の可能性」

2024年4月5日
全体に公開

去る2024年3月21日と22日、サンフランシスコのMarriott Marquisホテルにて欧米のフードテック・アグリテックの大型カンファレンスとして知られる、Future Food Tech Conferenceが開催されました。この直前の週に南カリフォルニアのアナハイム市で先に開催されたNatural Expo WestGood Food ConferenceSpecialty Fancy Food ShowあるいはTechCrunch Disruptと並び、フードテックの世界で時代の先端を行く主要関係者が集う大掛かりなカンファレンス。Natural Expo WestやSpecialty Fancy Food Showはオーガニック、ナチュラル嗜好の新興CPG系ブランドの食品展示会との色彩が強いですが、このFuture Food Tech Conferenceは、名前からもご想像しやすい通り、「未来の食」をテーマとする関係者が一堂に会するイベント。同社の公式サイトによれば、今年も最終的には52か国から797の事業会社、300近いスタートアップが集った模様です。スタートアップ中、今回は日本からも2社、蚕由来の代替タンパク原料を開発するMorusや、合成生物学による 微生物発酵を手掛けるFermalentaが主要スタートアップ展示企業として登場しており、日本のフードバイオ領域でお金を集められたスタートアップがこうしてお披露目の機会が実現出来始めている点は特筆すべきことに思えます

写真:筆者が現地で撮影。

さて、今回のFuture Food Tech Conference全体の表面的な感想としては(いきなり申し訳ありませんが…):

"それほど真新しいテーマに切り込んだ内容ではなかった"

という印象でした。これは、主に今回のカンファレンスのメインフロアで実施されていた各有識者同士によるパネルディスカッションに関する、筆者の感想です。

今回も、世界の名立たる大手ブランドやベンチャーキャピタリスト等の登壇者によるトークセッションの主たるテーマは、食糧供給危機対策のための施策、食開発とAIの活用法、培養肉や当初の異常な熱狂から最初の踊り場を迎えつつあるプラントベース市場の次なる展開、腸内細菌、そしてフードテックベンチャー投資のトレンド、等が取り上げられていました。腸内細菌・微生物学’(Gut Health)に一つの登壇テーマが設けられていた点は多少は興味深いものがありましたが、例えば培養肉の製造に係るこれからの課題である量産化に向けた経済合理性の実現に向けた現実的な道筋に関するディスカッションや、人工的な細胞培養を通じた食肉製造過程で起こり得る「衛生面(≒”Contamination”)」での課題点についてどう対処法があるのか、といった点を茶を濁さすに愚直に専門家同士が聴衆の面前で語り合うような内容があったわけでもなく、表面的な議論に終始していた印象です。しかしながら、少なくそも弊社・筆者の周囲ではこうした「より各論的、科学的、技術的な落とし込み」レベルでのもっと具体的な議論が中心となっています。こうした現場の現状に対して、パネルディスカッションのテーマや議論の内容は「あまり具体性の欠いた総理大臣の年初の国会演説」のような物足りなさを感じた次第です。

写真:現地で筆者が撮影。写真は今回のキックオフとなった最初のメインイベントの様子。

また、「脱炭素」一辺倒の昨今のフードテックやアグリテックの「環境=Climate」面配慮が叫ばれる一方で、この「二酸化炭素」にも「全面悪」とは言えない、という意見もあります。それに対して今回のカンファレンスで科学者や科学的な知見の詳しい実務関係者からのこうした声や意見に対する議論の場もほとんど見当たらず、少なくとも大会場での主要パネルスピーカーの内容は特筆すべき新しい発見はなかった、との感想です。

*ご参考:2016年米Nature誌「Carbon is not the enemy(≒二酸化炭素が百害の敵とは限らない」

今年のFuture Food Tech Conferenceの主要参加企業群

出典:Future Food Tech Conference公式サイトより。https://futurefoodtechsf.com/summit-highlights/


恐らく今回のカンファレンスについて、日本の大手シンクタンク等も複数参加されていた模様でしたので、今後日本語媒体記事でいろいろと登壇パネリストの話は記事化されていくと思われます。登壇者のスピーチ内容については詳しくはそちらをご参考頂ければと思います(注:後日時間が空いた際に別途本トピックスコーナーで数社興味深いスタートアップはご紹介するかもしれませんので、その際はお楽しみに!—というのも、こうしたカンファレンスにわざわざ足を運んで、ただ登壇者の話を一方的に傍観するほど無駄な時間はないと考えており、今回もほとんど大会場でのスピーチは足を運ばず、もっぱら1-on-1会合に時間を費やしている次第です)。

では、今回のFuture Food Tech Conferenceは全く収穫がなかったかと言えば、そういうことではありません。直接会場での面会が実現できた面々との直接顔を合わせながらの会話にこそ、収穫があったと思います。

本コラムでは、当日の登壇者を含む現地での有識者(大手VC、大手欧米食品ブランドの研究開発責任者、CVC部門統括責任者、等)と筆者との直接の会話の機会に基づいて興味深い話を3点ほど、取り上げておきたいと思います。

①米国の大手小売チェーンが「日本由来の素材に関心」!

米国にはアマゾンの傘下となったWhole Foods Marketをはじめ、同系列で全米展開する米国西海岸を地盤とするSprouts Farmers Markets等、「高級価格帯・オーガニック・ナチュラル」といったブランドコンセプトを標ぼうする全米スーパーが存在します。さらには地域特化型としては、カリフォルニアを地盤とするNew Leaf Community Marketsや南カリフォルニア(ロス近郊都市)中心のBristol Farms、Lazy Acres、東海岸(NY州等)を地盤とするWegman’s等があります。

写真:米カリフォルニア北部に2店舗だけあるハイエンドの高級オーガニック系食品専門スーパー「Good Earth Natural Foods」にて、筆者が撮影。こんなスーパーには必ず「アジアンコーナー」があるが、日本からの素材はまだまだ少ない印象。今回のカンファレンスでBuyer責任者に聞くと、「まだまだネタは待ってるよ!」とのこと。

今回のFuture Food Tech ConferenceでもWhole Foods Market、Sprouts Farmers Marketsの幹部がスピーカーとして登場しましたが、このうち1社の登壇者と1時間近く話し込ませてもらえる機会が出来ましたが、彼らは今以上にもっと多くの商品を全米の消費者に届けたいという強い意欲があるようです。

米国に在住される日本人の皆様でWhole Foods Marketやスーパーマーケットで買い物をされたことがあるはずかと思いますが、日本のイオンやライフ等と同様、お店で独自の「プライベートブランド」を展開しています。よく知られる例は、Whole Foodsの展開する「365」シリーズが良く知られます。

* Whole Foods Marketの展開する「365」プライベートブランドシリーズのサイト

彼らは、現状の商品群からもっと多様性のある商材を探索しており、具体的には日本をはじめとする、東洋やアフリカ大陸等の食文化に由来する素材に高い関心を抱いていることを語ってくれています。筆者の話した同氏は、実は日本にも幾度かプライベートならびに半分仕事で滞在する機会が何度かあるそうで、日本の「おせんべい」や「海藻」「カイワレ大根」「ゴボウ」に魅力を感じているそう。兼ねてから、日本の食文化を欧米等の世界の消費者に届ける潜在市場への開拓意欲を示す日本の食品メーカー様や起業家、スタートアップとは弊社も日頃お付き合いを頂く立場にありますが、こうした会話を通じて、確かな可能性を感じ取ることが出来た次第です。

出典:米Whole Foods Markets社公式サイトより引用。https://www.wholefoodsmarket.com/departments/365-products

*ご参考:古いですが、Sprouts Farmers Marketsの、プライベートブランドが成長戦略の肝とする記事。基本スタンスは今も変わらないようだ:

②フードテックVCファンドの対象は、食のバリューチェーンの「流通」「保存」「ハードテック」等の領域にシフト

フードテック領域でここ4,5年(コロナ禍という異常事態を挟みますが)従事をされてこられた読者の皆様(Ex. 大手食品メーカー等で国内外のVCファンドへLP出資をされたご経験のあるご担当者、自前で戦略投資をされてきたCVC担当者、VC関係者、等)は、ご存じの通り、フードテック、アグリテック領域の投資環境は最初の「踊り場」を経ているところです。以下は、AgFunderやPitchbookによるデータですが、2021年を境に全世界の主要VC投資額は2018年以前の水準にまで落ち込んでいます。

出所:米「AgFunder AgriFoodTech Investment Report 2024.」より引用

背景は、2020年から2021年にかけての「ポストコロナ禍」で加熱気味となったフードテック投資(「Food is medicine」「Alternative Protein」)が、一部のユニコーン企業の業績への過度な予測・期待に対する下方修正が原因と捉えられます。

ただ、今春から今夏にかけて少しづつ公式発表されるはずですが、欧米のいわゆる「Tier 1」大型VCファンドは今春に3,4合目のファンドレーズを無事「何とか」クロージングを迎えつつあります。いずれも「相当苦労した」「予想以上に時間を要した」という話もさることながら、一番特筆すべきは、これらのファンドの投資対象が、今までの食のバリューチェーンのうちの「食」そのものから「食の保存技術」や「食の流通の効率化」厨房オペレーションの効率化を目指すAIやIT技術、ハードテック、あるいは「脱炭素」の「逆張り発想」に近いテーマに重きを置く様子が垣間見れます。

写真:筆者が会場で撮影。登壇テーマは「AIを駆使した未来の食の開発」。

もちろん、「勝ち組ファンド」は引き続き代替タンパクへの投資を強化するようですが(特に、レーターステージに突入する大型スタートアップの市場化にむけた追加投資がこれからまさに必要となってくる)、2024年から2025年にかけて、フードテックVCの勢力図とテーマ設定に2017年以降で一番再定義、再編成が生まれる可能性がありますね。

③大手欧米食品企業関係者は「日本滞在」を続々計画中!

3点目は、日本への滞在を強く希望をする(あるいは既に計画中)フードテック関係者が思っていた以上に存在する、という点です。

例えば、弊社も近しい関係のGlobal SFが2022年、2023年に米国から同国で活躍する女性起業家(Fermentation(日本の発酵)にテーマを置いていたため、主にフードテック領域で活躍するファウンダーが多数参加)を東京と京都に派遣プログラムを成功裏に実施していましたね。さらには、今春には筆者も一時期準創業メンバー的に事業開発面で参画していた経験のある、日本のインバウンド産業の先駆けである株式会社ジャパントラベルとの共同企画で、アメリカのビーガン乳製品類開発で有名なMiyoko’s Creameryの創業者であったMiyoko Schinner氏による「発酵ツアー」も計画されていました(こちらは一旦延期となった様子)。

ここ1,2年、コロナ禍による人の流れの制限が緩和されてから、着実に増えています。

ご参考:GlobalSFが企画した2023年のJapan Food Innovation Tourの公式サイト

今回のFuture Food Tech Conferenceでも欧米の大手企業の事業開発関係者から、VCファンド関係者では今年から来年にかけてそれぞれ日本への滞在を希望もしくは計画を進めているようです(*うち、1件は弊社がオーガナイザーとして準備企画中)。

インバウンド・ツーリズムも今や復活した兆しがあるようですが、2024年と2025年は、食のプロが真剣に日本の市場から何かを吸収したいとの思いで続々とやってくる可能性が高いですね。こうした流れは、日本の食従事者も是非大いに活用してもらいたいものです。

今月は久しぶりに東海岸への出張を控えており、コラム執筆の時間が確保しずらい状況が続きますが、時間を見計らい、今回のFuture Food Tech Conferenceで注目しておきたいと思えたスタートアップを数社、ご紹介したいと思います。その時までに仮に実現すれば、彼らのうちの1社とは創業メンバーとのインタビュー付きでのコラムを考えたいと思いますので、お楽しみに!(*実現すれば…)

(カバー写真:Future Food Tech Conference 2024会場にて、筆者が撮影)

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