【シリコンバレーの文化の欠陥】~日系移民の著名起業家による有名ブランドで今起きていることを検証

2023年12月3日
全体に公開

2023年は、世界の「プラントベース代替タンパク食品」への投資環境が踊り場を迎えているような1年であったと思います。

筆者は、これまでの世界的な熱狂に対する反動であると捉えており、既に報道でも騒がれているように、欧米におけるプラントベース代替肉の先駆けとして上場を果たしているBeyond Meat社の業績下方修正と資金難の市場観測出回っているお蔭で、「プラントベース市場は既にピークアウトしたのか?」みたいな空気感が投資市場では出ているようですが、消費者と食品メーカーにおいては、比較的冷静な見方が多いように実感を受けています。

米GFIの推計では、以下のグラフが示す通り、2022年からそれまでの加速度的な伸びは一段落:

出典:米GFI

但し、これはあくまで「バブっていた」投資「Hype(熱狂)」が一旦鎮静化をしたもの、と見ています。

以下は、欧米中心の消費者サーベイによる、プラントベース商品に対する現時点の「課題」を示すものですが、「味覚、食感、バラエティーの少なさ」さらに「プラントベース食材を生み出す素材・原料がまだまだ手薄」とされています。これは、見方を変えれば「チャンス」がまだまだこれくらい潜在的に残されている、ということです。

出所: 米The Food Instituteより引用: https://foodinstitute.com/focus/survey-boosting-alt-meat-adoption/

米国のサンフランシスコ界隈の、20代~30代前半の、健康志向の高い層や、50代超越の「アンチエージング/健康志向」層においては、プラントベースの肉類への関心は依然として安定しているとの肌感覚です。

日本国内でも「大豆ミート」はスタートアップから大手食品ブランドまで、ここ数年のプラントベースの勢いに乗って各社各様で市場に出回り始めていますが、まだまだ「味がいまいち」と言われていますね。この課題を乗り越えるさまざまな対策と成り得る「味覚を動物性のお肉の美味しさを再現する脂肪分」や「風味を良くするベース素材」等、今でも積極的に研究開発が進んでいます。これらには、欧米市場が目を付けた日本素材の応用もいくつかり(麹/糀、キノコ類、等)、興味深いものです。こちらは別途コラムで取り上げたい考えです。

Miyoko's Creamery社のお家芸騒動は「シリコンバレーの欠陥の縮図」である。

さて、Miyoko’s Creameryは、日系米国起業家であり、ビーガン分野でも先駆け的な著名料理家としても知られる、Miyoko Schinner氏が創業した、今やビーガン・プラントベース代替食品の「成功ブランド」の先駆けの一つとして全米では親しまれれており、それなりの安定した購入層を持っています。既に、全米のオーガニック系スーパー(Whole Foods、Sprouts Farmer’s Market、他)をはじめ、幅広い小売店でも既に販売されているビーガン乳製品(プラントべーずチーズ、同バター、等)です。

関心を引いた11月21日付の同社報道発表

その、Miyoko’s Creamery社が、先月11月21日に興味深い報道発表を行ったことを目に留まりました:今回追加で$12MMの調達を募集し、さらに、同時に会社の売却意思をほのめかすものです。

以下、その報道です:

そもそも、同社の背景として知って置きたいのは、元々冒頭で触れたMiyoko氏が2014年にサンフランシスコ北部に創業をした「ビーガン乳製品」の先駆者である同社ですが、2021年には$52MMものシリーズCを調達し、累計でもかなりの金額を集めてきている、もはやスタートアップの域を超えた全米規模の新興ブランドまで成長。ところが、今年の春には、会社の方向性に関する投資家と(恐らく投資家が外部より招聘した)現経営陣と創業者であるMiyoko氏との方針の違い、価値観の相違等で彼女が事実上の「更迭」で追われる形で悲しいことに自身の名前がブランドに含まれる彼女が会社を離れることとなったことは、話題になりました。

適切な資本政策と、「誰から大切な資金を頂くか」が、死活問題

今回、こうしたお家芸騒動で2023年は決して良い一年とは言えなかったMiyoko”Creameryを今も昔も変わらない「シリコンバレーの文化の欠陥」として言えるのは:

1.資金を調達し過ぎると、事業価値向上ばかりが主役となってしまい、元々創業者とそのメンバー、そしてターゲットとなるコアな市場・消費者の焦点が完全にぼやけてしまう。

2.資金調達の大型化が決して悪いとは言いませんし、それは市場のニーズに応えるために必要となる有効な資金源となるのであれば付加価値は非常に高いのですが、資金の源となるファンドとその関係者と投資を受ける側のスタートアップ・創業経営者との相性が果たして最適なのか、特に受けて側のスタートアップが熟考しないと、こうしたドタバタ劇に繋がる可能性が(洋の東西に問わず、日本でも)起こり得ること

3.1,2の事象が誘発されてしまったことで、その会社・ブランドの価値が摩耗し、消費者・市場も次第に離れ始めてしまう=企業価値も下がる⇒身売り話に繋がってしまう(投資家としては、「価値が激減する前に売ってしまいたい」から)。

今回の報道によれば、同社の主力ヴィーガン乳製品の売上高は、2019年から2021年にかけて倍増し、4,000万ドルに達したものの、2022年には17.5%減の3,300万ドルに落ち込み、2023年第3四半期には約2,500万ドルにとどまったとされています。さらに、この成長を維持させるために、より大きな設備投資を必要とするとの経営方針で、既存の工場を閉鎖することも公表されています。

そもそも、このペースでこの規模まで成長する「必要」はそもそもあったのでしょうか? 恐らく、創業経営者よりも投資家主導のボードメンバーにとって「重要」であったのでしょう。

ここしばらくこの「起業家/スタートアップと資本政策の長期的なビジョンの大切さ」を直接、間接的に触れてきた気がしますが、今回の同社の報道記事からも、フードテックの世界においても投資家のハイプ(熱狂)が結局創業経営者・スタートアップと、結局はそのブランドに思い入れのある消費者・市場をぶち壊してしまう、という「シリコンバレーの欠陥」を浮き彫りにする報道であると、捉えました。

(カバー写真:Miyoco’s Creamery社ウェブサイト掲載写真を転用)

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