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世界のフードテック潮流 × 日本伝統の智慧の可能性

世界のフードテック潮流 × 日本伝統の智慧の可能性

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21本の記事
シリコンバレー現地から世界のフードテック、アグリテック及び脱炭素の最新潮流を「現場目線」で「生々しく」お届けします。
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熊谷 伸栄
Wildcard Incubator LLC. 代表マネージングパートナー
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シリコンバレー現地から世界のフードテック、アグリテック及び脱炭素の最新潮流を「現場目線」で「生々しく」お届けします。
日本の「食スタートアップ」がグローバル進出で"必ず陥ってしまう"【経営の過ち】
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日本のスタートアップ経営者にとって、異国の市場で経営を成功させることは至難の業であることは、一般的にも知られていると思います。シリコンバレーでIT(ソフトウェアやサービス業、その他)関係で成功を収めた会社も、一握りです。 その要因について分析する場合、恐らく各々の業種や分野、B2BかB2Cか、いろいろな条件で解決策は異なるものだと思いますが、当該トピックのテーマである「食分野(フードテック)」に的を絞った場合のお話を触れたいと思います。今回は、筆者が10年以上前から個人的なご縁を頂く(仕事という枠に留まらず、人生の大先輩として)、とある経営者との会話を基に、ポイントを触れておきたいと思います。 (いずれも、食事業を営まれる経営者や事業者の皆様にとっては「基本すぎる」と思われることばかりかと捉えています。でもその「基本すぎる」部分がどうしても疎かになりがちな行動パターンばかりが「日本のフードスタートアップの敗因」となってしまっている、という証拠なのかもしれません)。
米サンフランシスコ開催のFuture Food Tech Conference 2024~登壇者との直接会話で感じ得た「潮流」と「日本の可能性」
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去る2024年3月21日と22日、サンフランシスコのMarriott Marquisホテルにて欧米のフードテック・アグリテックの大型カンファレンスとして知られる、Future Food Tech Conferenceが開催されました。この直前の週に南カリフォルニアのアナハイム市で先に開催されたNatural Expo WestやGood Food Conference、Specialty Fancy Food ShowあるいはTechCrunch Disruptと並び、フードテックの世界で時代の先端を行く主要関係者が集う大掛かりなカンファレンス。Natural Expo WestやSpecialty Fancy Food Showはオーガニック、ナチュラル嗜好の新興CPG系ブランドの食品展示会との色彩が強いですが、このFuture Food Tech Conferenceは、名前からもご想像しやすい通り、「未来の食」をテーマとする関係者が一堂に会するイベント。同社の公式サイトによれば、今年も最終的には52か国から797の事業会社、300近いスタートアップが集った模様です。スタートアップ中、今回は日本からも2社、蚕由来の代替タンパク原料を開発するMorusや、合成生物学による 微生物発酵を手掛けるFermalentaが主要スタートアップ展示企業として登場しており、日本のフードバイオ領域でお金を集められたスタートアップがこうしてお披露目の機会が実現出来始めている点は特筆すべきことに思えます。
【シリコンバレーの文化の欠陥】~日系移民の著名起業家による有名ブランドで今起きていることを検証
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2023年は、世界の「プラントベース代替タンパク食品」への投資環境が踊り場を迎えているような1年であったと思います。 筆者は、これまでの世界的な熱狂に対する反動であると捉えており、既に報道でも騒がれているように、欧米におけるプラントベース代替肉の先駆けとして上場を果たしているBeyond Meat社の業績下方修正と資金難の市場観測が出回っているお蔭で、「プラントベース市場は既にピークアウトしたのか?」みたいな空気感が投資市場では出ているようですが、消費者と食品メーカーにおいては、比較的冷静な見方が多いように実感を受けています。 米GFIの推計では、以下のグラフが示す通り、2022年からそれまでの加速度的な伸びは一段落: 但し、これはあくまで「バブっていた」投資「Hype(熱狂)」が一旦鎮静化をしたもの、と見ています。 以下は、欧米中心の消費者サーベイによる、プラントベース商品に対する現時点の「課題」を示すものですが、「味覚、食感、バラエティーの少なさ」さらに「プラントベース食材を生み出す素材・原料がまだまだ手薄」とされています。これは、見方を変えれば「チャンス」がまだまだこれくらい潜在的に残されている、ということです。 米国のサンフランシスコ界隈の、20代~30代前半の、健康志向の高い層や、50代超越の「アンチエージング/健康志向」層においては、プラントベースの肉類への関心は依然として安定しているとの肌感覚です。 日本国内でも「大豆ミート」はスタートアップから大手食品ブランドまで、ここ数年のプラントベースの勢いに乗って各社各様で市場に出回り始めていますが、まだまだ「味がいまいち」と言われていますね。この課題を乗り越えるさまざまな対策と成り得る「味覚を動物性のお肉の美味しさを再現する脂肪分」や「風味を良くするベース素材」等、今でも積極的に研究開発が進んでいます。これらには、欧米市場が目を付けた日本素材の応用もいくつかり(麹/糀、キノコ類、等)、興味深いものです。こちらは別途コラムで取り上げたい考えです。 Miyoko's Creamery社のお家芸騒動は「シリコンバレーの欠陥の縮図」である。
【スタートアップ経営の鉄則】~代替卵ユニコーンEat Justや培養肉Upside Foodsが陥った罠に共通する「教訓」
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ここ2週間、業務の複数が同時並行でピークを迎えて激化してしまい、しばらくぶりの寄稿となります。。。  さて、このコラム寄稿直前の2023年11月16日付の米Wired誌オンラインに寄稿された以下のコラムが筆者の目に留まりましたので、今日はこちらの記事が我々に示唆すると考えることを簡単に触れたいと思います。 いくつか前のここでのトピックス枠では、培養肉開発で世界で先を行くとされる米Upside Foods社が、実際の製造能力が開示・主張と比べて大幅に遅れてしまっているとの疑義に関する米Wiredの警笛記事が私達に示す示唆について触れましたが、今回は、代替卵白等の開発で世界の先を成功裏に進めてきた米「Eat Just」社が、製造委託先等への支払いの滞納といった、「資金繰り」が窮迫しているのではないか、との「内部告発」的な記事です。 タイトルは「Insiders Say Eat Just Is in Big Financial Trouble(2023年11月16日付)」(*ご関心のある方は是非直接読まれてみてください): 同社Eat Just社は2011年の創業(サンフランシスコ)以来(もともとはHampton Creekという社名)、JUST Eggとしてビーガン卵を開発、既に全米で1,000店舗以上に流通販売されています。筆者もサンフランシスコの最寄りのスーパーにも普通に陳列されているのを見かけます。一方、培養肉の開発を手掛ける子会社Good Meatを通じて、大型バイオリアクターを次々と建設中である、というところが今回の背景です。Eat Just社にとって、前者のビーガン卵のJUST Eggよりこの培養肉開発部門のGOOD Meatの驀進しすぎた設備投資の実行が苦境を迎え入れてしまっている、という話。 一言で纏めようとするならば、同社が製造委託先への支払いが大きく滞納してしまい、それらがどうやら累積してしまっている⇒訴訟問題にまで発展している、との内容。 もしかすると、彼ら本来のあるべき等身大の事業計画以上のものを真顔で作りこまざるを得ない見えざるプレッシャーから、大きな絵柄を描き、それらに基づき手元資金を無計画に設備投資や製造関連の投資につぎ込みすぎツケが、資金集めが難しい市況となった今、経営に跳ね返ってきてしまっていると考えられます(もうしかしたら?との筆者の推測ですが)。 以下一部引用: Former employees claim that the pressure to achieve industry firsts led to poor financial planning. “The desire to be first in everything drove decisions,” says one employee. In May 2022, Good Meat publicly announced its biggest project yet: It would work with the bioreactor firm ABEC to design and build as many as 10 large bioreactors, each with a capacity of 250,000 liters. In an industry where most companies are using bioreactors that hold just hundreds or thousands of liters, the size of the project was unprecedented. さらには、資金返済で困っている状態にとどまらず、米国「らしい」訴訟問題にまで次々と発展(とのこと)。以下、英語の原文のまま: Eat Just is also being sued by at least two other companies at the time of writing. A legal complaint submitted by the engineering firm Clark, Richardson and & Biskup Consulting Engineers in September 2023 alleges that Eat Just and Good Meat owe the company over $4.2 million for unpaid work related to a cultivated-meat project it was working on. “CRB Group filed a complaint in Missouri State Court against Eat Just and Good Meat seeking remedies for payment for services provided,” says CRB Group head of communications Chris Clark. Tetrick did not provide WIRED with an on-record response to this lawsuit. WIRED can reveal that Eat Just is facing further lawsuits. In October 2022, a legal complaint was lodged against Eat Just by food processor Dakota Speciality Milling. In August 2023, Eat Just was sued by branding and marketing firm CA Fortune Sales and Marketing. On September 20, 2023, the company was sued by food-processing firm Pearl Crop in a legal suit alleging more than $450,000 in unpaid invoices, mostly for “roasting mung beans.” Kabat says the case with CA Fortune Sales and Marketing has been settled but could not provide comment on the other two cases, “as they are still active.” None of the three companies responded to WIRED’s requests for comment. 【*補:米国でスタートアップを展開する際、「訴訟リスクへの対処」は必須です!弊社Wildcard Incubatorでも米国でフードテック領域で数多くのスタートアップの法的アドバイスを手掛けてきているリーガルファーム・アドバイザーとカリフォルニアで連携しています。こちらも別の機会にコラムとして取り上げます。ご参考まで】 Eat Just社の培養肉事業であるGOOD Meatの培養肉といえば、既に2020年末にシンガポールでは初の認可を受けて、既に一部の現地の高級レストランでは販売され始めていることは日本のフードテック関係者も周知の話。 一方で弊社が日頃ご縁を頂く日本の大手企業様がビーガン卵のJUST Eggを試食されたらしく、その印象について伺ったところ、「味が”プラントベース”すぎた」そう。この言葉を素直に受け止められるならば、今はまだGOOD Meatの「規模化」に経営資源を集中しすぎることをせず、収益ドライバーのビーガン卵事業の発展途上であろう「味の最適化」に腐心し続けるべきフェーズにあたるのではないかと、外様であるが故に気軽な論評を投げかけてしまう気持ちになります。 また、多額の「余計な」プロモーション、マーケティングにも問題視する声が社内でも懸念する空気がないこともなかった様子。テニスの世界女王のセリーナ・ウィリアムズ氏をはじめとするいわゆるセレブの起用をはじめ、エジプトで開催されたCOP27で自社の培養肉をお披露目するために提供したり、これらの一連の「販促」に費やした費用は決して小さい額ではなかったはずです。「金銭感覚」が求められるものですが、スタートアップにはそうした感覚の長けたCFOが必要であり、また突っ走るCEOや大株主の「イエスマン」ではいけないものです。 Former Eat Just employees also raised questions about what they perceived as unnecessary levels of spending. One senior employee mentioned a 2022 advertising campaign featuring Jake Gyllenhaal and Serena Williams—both investors in the brand. The contracts were for several million dollars, the employee claimed. In a written response to WIRED, Tetrick said that Eat Just did not share vendor contract terms publicly.  Another former employee questioned the decision to serve cultivated meat at the United Nations COP27 climate conference in Egypt as an extremely expensive marketing tactic. “There was just an insane amount of money spent on marketing,” they said. “It was really just an incredibly unsustainable model of trying to chase publicity and trying to chase buzz at a very expensive cost.” (参考: 先月の筆者コラムの引用させていただいた米Upside Foodsの公表VS.実際の製造能力の乖離に関する疑義を指摘した米Wired社の元記事はこちら:) 先に「スタートアップ経営の鉄則」の(独断の)結論から言うと、「起業家経営者はVCの奴隷にならないこと」です!
【The New Yorkerによる告発】私達が知るべき「食とサステイナビリティ」“裏”の真実~海外で起きている養殖産業と人権問題
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2023年10月9日の米The New YorkerのIan Urbina氏が、かなり生々しい記事が出ていたのをご存じでしょうか?今回はこちらのコラムが非常に衝撃的であり、また、私達の食卓のお魚にまで直接的な関連性があるのかは定かではありませんが、少なくとも米国ではその影響が指摘されているそうで、サステイナビリティや動物愛護的な価値観等で昨今成長著しい代替タンパク市場の裏でもしもこのようなことが起きているとすれば、それはThe New Yorkerの記事が掘り下げた通り、重大な人権問題が今私達の知らない大海で起きていることになりますので、簡単に内容のサマリーだけ共有をさせて頂こうと思います。この記事は、The New Yorkerが以下のThe Outlaw Ocean Projectの協力を得て世界中の有識者や関係者への直接のインタビューや聞き取り調査を通じて纏め上げたものと記されています。 中国漁船が太平洋一帯に大量に張り巡らす組織的行動 記事によれば、ここ数十年もの歳月を経て、中国が海洋漁業の世界覇権を目指すべく、遠洋漁船団を急激に拡張してきており、今や中国系の養殖産業系企業は約95か所の海外の港を出入りするにまで至ったとされています。中国政府による公式見解としては約2,700もの船舶が稼働しているとしているが、The New Yorker曰く、これらの数字はいわゆる「係争水域(≒グレーゾーン?)における船舶活動」は一切含まないものとされます。 中国のこうした船舶をも含めると、遠方漁船数は実に6,500にまでのぼると見積もられていて、太平洋一帯を航海しているそう。米国やEUの漁業の漁船数はおおよそ300だそうで、実に米国とEUを併せた数字のさらに10倍にも及ぶ桁違いの数になります。 太平洋一帯を掌握する中国漁船の分布を表す衛星データ画像(★良く見ると、日本の東北沖や北海道周辺にも活動分布が…)
培養肉開発スタートアップの米Upside Foodsへの新たな「疑義」と「警笛」が私達に示唆するもの
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米Wiredのコラム(2023年9月15日付)が“密かな”話題に 2023年9月15日付の米Wiredの記事が今、密かに(?)話題となっていますね。既に培養肉の有識者の中では既知かと思われますが、意外にも日本の身近な方々と話していると、まだ知られていないようです。サンフランシスコ/シリコンバレーでは、既に多くには目に留まっていて、いつもの如く、ソーシャルメディア上で小さな「論争」も早速起き始めています。 昨年末に米FDAで安全性で「疑義なし」との「お墨付き」を取得し、今年の6月21日には、米USDAの培養肉(鶏肉)の販売前審査も完了、米国での「商用生産」ならびに販売が正式に認められたと発表された「第一号培養肉企業」のUpside Foodsにがウリとするその独自の製法とその量産技術力について、投資家向けや対外的な公表内容に対する現時点の社内の開発進捗の実態との「乖離」が大きい可能性について危惧する記事を公表しているからです。 Insiders Reveal Major Problems at Lab-Grown-Meat Startup Upside Foods 今年の7月1日にはサンフランシスコにある三ツ星シェフレストランのBar Crennにて販売が開始されたこともちょうど全米に限らず、世界中の培養肉関係者の間でも大きなニュースとされており、メディアでも大きく報道されています。 さらにこの勢いに乗じて今月(9月)14日には、同社として第一号となる量産規模での培養肉生産工場をシカゴ市内近郊に建設をする旨、以下の通り発表したばかりです。 つまり、今「培養肉開発」において正に「勢いに乗りまくる」企業。 一方で、こうした「勢い一辺倒にある」ときこそ、「Devil’s Advocate(≒議論や主張、提案の信ぴょう性、妥当性を試すために意図的にわざと投げかける反対意見・指摘)」を演ずることがとても重要になります。後述しますが、ベンチャー投資におけるデューデリジェンスそのものであり、「本当にそうなの?根拠は?科学的実証性は?経済的な実現性は?」・・・等、重箱の隅を楊枝でほじくるくらい検証を行うことが大切です。そんな折に、今回のWiredの論評が報じられた格好となります。
アメリカで“クールなお味噌”を展開するOmiso社に学ぶ海外市場での「食の再定義」の大切さ
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アメリカのロサンゼルスに、日本の伝統的な「発酵」の賜物のうちの一つである、「お味噌」を売りにするブランドがあります。その名も「Omiso」。昨今の欧米世界を通じたフードテック・ブームで、「Umami」や「Shiru」「Kenko」といった"ニホンゴ"がそのまま欧米フードテックスタートアップのブランド名に引用されるくらい、良く使われていますが、彼らは名実ともにお味噌を取り扱う「Omiso」というブランド。 彼らの取り組みが興味深いのは、決して日本のお味噌をそのまま現地の日本食スーパーに日本から輸出をするスタイルではなく、現地の食文化やその町のカルチャーに合わせたブランディング、マーケティングを駆使して市民権を得られている点であると思います。 以下、2018年のロサンジェルスタイムスで特集を組まれた記事です: コロナ禍もはさんで6年は経過していることを考えると、小手先のアイディアで米国市場を目指してはとん挫を繰り返す日本の「革命的な食スタートアップ」と比べて実に米国市場での市場を獲得できているのではないでしょうか? 弊社/筆者が知る限り、米国でCPG分野(一般消費者向けの、B2CもしくはB2B2Cの食品系スタートアップ。いわゆる合成生物学や細胞培養、高度な科学的技術の開発を要するものではないタイプの商品)で一定の市場圏を安定的に確保して成功を収めている日本発のフードスタートアップ(Ex. 完全栄養食系、等)は、皆無です。 なぜなら、以下の通り、食の再定義がうまくできていないからであると考えます。つまり、欧米で流行りの概念を、ちょっと日本的なテーストを加えて、向うに「再輸出」をしたところで、財布の紐を緩めるほどのインパクトも価値も伝わらないからであると捉えています。 食の形を現地市場に再定義
日本が伝統的に世界の先を行く「フードロス/残渣」への取組み~世界のフードロス/残渣・イノベーションと当面の課題点
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「食品ロス」や「食品残渣」は、フードテックという一つの技術革新と新たな社会実装に向けたセクターとしての捉えられ方が一般化し始めた初期の頃(2017年後半)から、恐らく日本でも最初に注目され始めた分野であったと感じています(2020年のオイシックスのReGrainedへの出資等)。ある意味、わかりやすい、かつ、日本人に古くから根底に流れる「もったいない精神」と合致する部分が、その背景にあったのかもしれません。 株式会社日本総研のレポートでも指摘されるとおり、日本では既に「6次産業化」という言葉で日本列島を通じての川上の一次産業や大手から地方の老舗の食品企業が自治体との連携で大小さまざまな取り組みをしてきていると思います。すなわち、フードロス/残渣の有効再利用は、バズワード化する遥か前から日本では伝統的に根付いていた、「世界の先を行く」国だったと言えます。 ご存じ、米国ではReGrainedが「ビール粕のアップサイクル」を2016年頃に本格始動していますが、これが欧米でバズる遥か何十年(何百年?!)から、日本では日本酒醸造の世界からの副産物である「酒粕」は既に「アップサイクル」されていますね。 以下、わざわざ触れるまでもありませんが、日本で長年親しまれている「食品残渣のアップサイクル」の身近な例ですと: 酒粕×甘酒 お豆腐の副産物である「オカラ」だってしかり。でも、これらは欧米では意外にも「未知なる発想」であったのかもしれないわけです(Renewal Mill社の「オカラアップサイクル」事業。アメリカはSoy Milkが普及しており、これらの製造工場では大量の副産物=オカラが発生する)。 オカラクッキー この「食品ロス/食品残渣の有効再利用」は、地球環境問題と直結するテーマとして「気候テック(Climate Tech)」の一つの分野としてベンチャー投資の世界でも括られてれています(*弊社が日頃近しい米国のClimate Tech投資額で世界トップのSOSVや欧州随一のFood Labs等)。もちろん、フードテック、アグリテックの範疇でも、日本国内でも既にいくつかの取り組み(大手企業、スタートアップ)がここ数年大小問わず、活発化しています。
【海外フードテック・2023年下半期】「フードロス/食品残渣」を活かした注目の大型スタートアップ
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フードテックというジャンルが日本国内でも脚光を浴び始めた2018年初頭から、代替タンパク食品分野と並び、一番最初に日本のVCにも注目され始めた分野の一つが、「食品ロス」「食品残渣」の有効再利用(=アップサイクル)であったのではないかと思います。 今回から3回に分けて、この「食品ロス」「食品残渣」と有効再利用に寄与するテクノロジーの開発動向と具体的な身近な事例について、触れる予定です。 今回は、"今更感"もあろうかとは思いますが、食品ロス、食品残渣の違い等の確認と、2023年8月現在、筆者、Wildcard Incubatorの日米メンバーが注目する海外のスタートアップをご紹介しておきたいと思います。 筆者は2015年末頃から、「食」に関する新たな試みを日米の仲間と共にシリコンバレーで試みてきていますが、たまたま身近でこうした動きに敏感なプレーヤーとの接点が増えていたからそう肌で感じているのかもしれませんが、「食品ロス」「食品残渣アップサイクル」はサンフランシスコでは身近であり、地元(サンフランシスコ市並びに近郊都市やカリフォルニア州)自治体とスタートアップ、そして大手企業との連携が盛んなテーマです。また、代替肉開発は「未曾有の市場」といった感触を受けていた一方、「食品残渣の再利用」は、日常生活でも自分たちにより身近であり、「現実感」の感じる課題定義であるという印象を抱いてきています。 2016年頃にサンフランシスコ/シリコンバレーで立ち上がった当該領域のスタートアップには、サンフランシスコ市内のローカル市場(Ex. 地元の老舗ビール醸造会社の残渣を活用できないか/地元のSoy Milk(日本と比べて米国都市圏でSoy Milkの愛飲層は大きいと思われます)製造会社で廃棄されてしまっていた搾り残渣<オカラ>って、捨てるの勿体なくない?)から小さく立ち上げられたケースが多いです(以下、ご紹介する先発組の2社もそのうちのスタートアップ)。 参考:世界の「食品ロス」「食品残渣」の課題解決に関連する主要VC投資の推移 上のグラフは、米ReFed社集計の、北米の主な「食品ロス」「食品残渣」アップサイクルをテーマとする投資額の推移を表すデータです。2018年から、多少の凸凹はあるものの、2017年前後から「VC投資」がサンフランシスコ/シリコンバレーから生まれ始めています。 初期と比べると、以前は「残渣、ロスを回避する手段となるアップサイクル⇒新食材開発」がテーマの主流であった一方、2022年以降は「余剰食材を各々融合⇒新たな代替/再生素材(食材に限らず、保存技術、飼料、等)の開発」に資金がシフトし始めています。 日本の「もったいない精神」こそ、食品ロス/アップサイクルの原点?! また、こうした食の無駄を省く考え方は、元々日本でも「もったいない精神」は根付いており(例:日本酒の発酵、醸造過程からの搾り粕である「酒粕」、お豆腐を作す際に大豆から豆乳を絞った後のの残りの部分でタンパク源としても豊富な食物繊維を含有することでも知られる「オカラ」等)、こうした考え方を欧米の食市場に「輸出」することで、新しい市場は生まれるではずだ、と、筆者の身近な在日の欧米ビジネスパーソンからも当持「アイディア」として持ち掛けられていたのを思い出します。 日本の代表的な食品開発残渣、「酒粕」(但し、日本の酒粕は既にある程度伝統的にも有効活用されてきている為、「未利用残渣」としてのアップサイクルのコンセプトとして取り組むには供給量で難しいと言われます) 今回は、2023年現在の欧米での「フードロス」「フードアップサイクル」領域の具体的な注目海外スタートアップをご紹介しておきたいと思います。 その前に、「食品ロス」と「食品残渣」の違いについて、ご周知かもしれませんが、念のため確認しておきたいと思います。 「食品ロス」と「食品残渣」との違い 恐らくこのトピックの読者フォロアーの皆様にとって、「食品ロス」と「食品残渣」の厳密な定義はご周知かと思われますが、改めて確認すると、以下の通りです。
【世界のスタートアップ投資】大失敗の1次クリーンテック投資ブームVS.今のClimate Tech投資:その本質的な違い
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とにかく酷暑が続く毎日ですね。読者の皆様はいかがお過ごしですか? さて、今回は「フードテック」「アグリテック」の、より一段階「広義」にあたる、「気候テック(Climate Tech)」について、2010年代前後に一時世界を席巻したと思いきや、いつの間にか(2013年頃)フェイドアウト(つまり、大失敗)した「クリーンテック投資ブーム」との本質的な違いについて、弊社・筆者の観点で簡単に触れてみたいと思います。 フードテックやアグリテック領域で様々な取り組みをされる方々にとって、恐らくその目的には「地球環境保全(=サステイナビリティ)」が主軸にあるものと思います。 例えば代替肉開発であれば、Impossible FoodsやBeyond Meatが欧米で先発組として市場に流通させた代替ビーフ(牛肉)の開発に取り組まれている方々はご存じの通り、様々な畜産の中でも、牛に飼育から発生するといわれるCO2の割合は2位の羊や鶏肉、3位のチーズと比べて2倍以上もの桁違いに大きいことは、以下のレポートをはじめ、既に多くのシンクタンクによるレポートで定量化されています。 つまり、「フードテック」「アグリテック」が世界中でバズワード化した背景には、その根幹に今世紀に入ってから急速に世界中で課題認識されはじめた地球環境の持続性への危機意識とその保全に対する対策について産業界(政治的な思惑も絡みあう面もあろうかとは思いますが、ここでは割愛しておきます)が「サステイナビリティ」に動き始めたことがあります。 ただ、「今世紀」と表現しましたが、ここでいう「サステイナビリティ」への動きとは、2010年を過ぎてからの時期を指します。つまり、それ以前から2012年前後までに世界中の主要ベンチャー投資業界で巻き起こった「クリーンテック投資ブーム」とは似て非なるものと捉えています(似ている点は、どちらも「地球の環境に警笛をならす」点)。それが本稿のポイントです(世界で初めて1個2,250万円程度する細胞培養バーガーを、Mark Post教授が披露したのは、2013年)。 以下のグラフをご覧ください: 米SVB(*そう、今年一時経営破綻の危機に晒されたSVBです。中々良いレポートをいつも提供してくれます。筆者/弊社も同社とは15年近いお付き合いがあります)による「The Future of Climate Tech(2021年発表)」からの引用データです。1960年代から今日まで、いわゆる「猛暑日」がどれくらいの頻度で上昇してきているのか、グラフ化されたものです。このデータを見ると、筆者の世代が中学~学生時代にあたる1980年代半ばから1990年代後半にかけての「酷暑レベル」の頻度と2012年以後のそれとは、もはや2倍にまで上がっています。 この酷暑は、私達にとっても意識せざるを得ないくらい、深刻なレベルにまで及んできていますね。つまり、2010年以前と比べて、私達一人一人が地球環境の「ブレ」に対する日常的な意識の違いに差があるとと捉えられます。 それに対して、2010年以前から世界のVC投資の世界で巻き起こったクリーンテック投資は、主に次世代のエネルギー産業にテーマの重きを置いたものでした。言い換えれば、私達の身近なところではない「政治的イデオロギー的なところから盛り上がっている」もののように思えたものです。 では、何が本質的に大きく違うのか、次の3つと捉えています:

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