地震の避難所で過去に起きたこと 有事に浮き彫りになるジェンダー格差とは?

2024年1月14日
全体に公開

元日から甚大な事態をもたらした能登半島地震により、被害に遭われた皆様に対し、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。復旧・復興などという言葉を軽々に用いる段階ではないこと、重々承知しております。二次・三次被害に遭われることなく、どうぞ安全かつ健康にお過ごし頂けるよう、祈っております。

もともと道路事情が脆弱な地形的条件に加え、海岸が隆起しており、支援・救助のアクセスが難航し、いまだ孤立を余儀なくされている地区・集落が多数に上っていること、各種報道を通じて、明らかになりました。孤立した地区のみならず、度重なる余震によって自宅が損壊する恐れがあるため、学校や公民館などで不自由な避難所生活を強いられている皆様が多数に上っていることも報じられています。

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有事だからこそ顕在化する深刻な問題

厳冬期を迎えた能登半島地震の避難所において、何が起きているかは、現時点でつまびらかではありませんので、この場で言及するのは控えます。

しかし、災害大国・日本でこれまでに起きた災害では、由々しき問題が避難所で発生していたことが、公式資料から浮き彫りになっています。それは、有事だからこそ顕在化する、非常に深刻なジェンダー問題です。

東日本大震災の状況をまとめた「平成24年度版男女共同参画白書」(内閣府)によれば、災害の影響を受ける人たちが置かれた状況や実態として、男女間で明確な差があることが明らかになっています。差別といっても過言ではないかもしれません。

そもそもの生物学的な違いに加えて、長年の社会通念や慣習で作り上げられた「男らしさ」、「女らしさ」という求められる性別役割などが影を落とした結果、①女性の死者が男性を上回る②女性の方が避難所生活で不便を感じる(生活環境や性暴力など)③女性は男性よりも、災害後の雇用状況や健康状況が厳しい状況に追い込まれるーというものです。

間もなく29年目を迎える阪神・淡路大震災。兵庫県内における女性の死者は、男性よりも約1000人多く、約1.4倍に上りました。

シャワー、入浴、トイレ、プライバシー・・・

2011年の東日本大震災では、震災直後からの避難生活で困っていることとして、「シャワーや入浴があまりできない」、「プライバシーが確保されていない」、「トイレの数が少ない」と答えた女性の割合が男性よりも多いことが浮かび上がっています。

出所:平成24年度版男女共同参画白書

では、13年弱が経過した今回の能登地震で、こうした状況が解消されているのでしょうか。報道を見る限り、少なくともそうではないようです。女性目線という視点は必ずしも行き届いておらず、平時における社会課題、つまり、日頃から放置していると言わざるを得ないジェンダー格差・問題が、こうした有事だからこそ、如実に現われているというのが実情です。

東日本大震災時に避難所生活を経験した女性に対する民間団体などの聞き取り調査によれば、驚くべき証言が明らかになっています。

避難所で、夜になると男の人が毛布の中に入ってくる。・・・周りの女性も「若いから仕方ないね」と見て見ぬふりをして助けてくれない

自分も友達も生理用品がなくて困った。トイレットペーパーを使うしかなかった

市の窓口に女の人はめったにいなかった。男性が配ったり、周りに男性がたくさんいる中で生理用品を受け取りに行くのが恥ずかしかった

DVで離婚調停中の夫が避難所に探しに来て、気持ちが落ち着かなった

避難所の威圧的な空気の中で、女性や立場の弱い人々が要望を出したり、発言するのは難しい

こうした証言を目にして、何をどのように感じるでしょうか。

有事でしわ寄せを受ける人は?

古今東西、有事に真っ先にしわ寄せを受けるのは社会的弱者とされる人々、女性や子ども、お年寄りらです。本稿では、ジェンダー問題に絞りますが、未曾有の災害による被害を受け、避難所生活を強いられる女性が置かれている状況は、阪神大震災、東日本大震災当時と比べて、改善されているのでしょうか。報道に接する限り、必ずしもそうとは言い切れないというのが実態だと思われます。

・「男性は仕事」、「女性は仕事と家事・育児」という硬直的な性別役割意識に囚われている以上、避難所運営にあたっても、自ずとリーダーは男性となり、女性は身の回りの世話などにならざるを得ない。女性目線に欠けた男性リーダーに対し、モノを申せる女性は限られる。
・そもそも、平時から企業や組織・団体における意思決定の場に女性が寡少であり、有事に際しても、女性の意見や要求が反映されない。生理用品の供給に目が届かず、トイレや着替え場所などについても配慮が行き届かない。

・避難所設置当初は、仕切り板などの整備が追い付かず、プライバシーが侵害され、性暴力やDVが起きかねない。


出所:労働力調査(基本集計)2019年度(総務省)
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上記の如く、平時ですら遂行できていないことが、有事に遂行できるというのは、現実的には、なかなか考えにくいというのが実際のところです。

地震大国・日本において、どこの地域でも起きうる災害を前にして、常日頃から何を意識し、実際に行動に移すべきか。もはや、改善点は明白ではないでしょうか。

トップ画像:Unsplash by Antonio Janeski

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