突飛なアイディアを社会課題解決に活かした実践例

2023年1月16日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

新年明けて、みなさんはいかがお過ごしでしょうか?

私は仕事始めに、会社のメンバーと今年1年を表す言葉や文字を選んで、みんなで書き初めを行いました。「平和」、「祈」、「進」、「自力本願」、「愛」、「思いやり」といった言葉が選ばれ、前向きなエネルギーをみんなで共有できるような時間を過ごしました。

ところで、みなさんは今年中に実現したい目標はありますか?

「無理かもしれないけど挑戦してみたいこと」、「もしも実現したら最高に嬉しいと思うこと」、「誰に何を言われても、いつかはやり遂げたいと思っていたこと」といった切り口で、思いつくキーワードだけでもノートに書き出してみると、心の奥底に眠っていたアイディアに気づくかもしれません。

そんなことを考えたのも、先日見た映画が“奇想天外な発想を現実にした人々の話”を描いたもので、大変面白く、刺激を受けたからです。先日1/14(土)から上映が始まった「コペンハーゲンに山を」という映画は、デンマークの首都コペンハーゲンにあるゴミ焼却発電所の屋上にスキー場を併設した世界最大規模の建造物を建てるまでの実話を描いたものです。

2011年にデンマークで行われたゴミ処理施設建て替えかえのコンペで、奇想天外なアイディアを考え満場一致で選ばれたのが世界的に著名な建築家、ビャルケ・インゲルス率いるBIG建築事務所でした。その後、様々な難題を乗り越え、2019年10月、コペンハーゲンに新しい”山”が誕生しました。完成するまでに9年、かかった費用は約5億ユーロだそうです。

実は私も2年前にデンマークに訪れた際に、完成した新しいゴミ処理発電所、「CopenHill(コペンヒル)」に行ってきたのですが、本当に“普通の山”のようでした。スキーをやっている人もいれば、走って山を駆けあがりトレーニングをしている人もいます。教育施設もあり、学校の課外学習で来ているような学生達もいました。私たちが訪れた時に案内してくれたのは、映画にも登場するAmager Bakke財団のCEOとして、CopenHill(コペンヒル)のレクリエーション施設の開発と実現を推進する責任者を担当パトリックさん。

デンマークの廃棄物発電所・コペンヒルを案内してくださったパトリック・グスタフソンさん

以前こちらの記事でもパトリックさんの活動をお聞きした内容をまとめているのですが、数々の難題を乗り越えながら、奇想天外なアイディアを実現するまでの過程をマネージメントしていた彼に、このプロセスを通して学んだ大切なことはどんなことですか?と聞くと、「目標志向と実践志向の両方を極めること(Extremely goal oriented but extremely pragmatic)」でした。

映画の中でも、限られた予算の中で、最初に思い描いたアイディアにどこまでこだわるべきか、プロジェクトの関係者の人々が議論や対話を何度も重ねている様子が描かれていました。世界に誇る建造物を建てるという高い目標を掲げながら、実践に落とすまでの過程はまさに混沌としていましたが、見ている方からすると感動的で心が熱くなりました。

クリエイティブでありながら原理原則を大切にする

映画の上映会初日の昨日、渋谷のイメージフォーラムに多くの人が集まりました。上映後は、デンマーク・ロラン島在住の文化翻訳家/Cultural Translatorニールセン北村朋子さんと環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長 飯田哲也さんのトークイベントが行われました。本映画作品の配給会社であるユナイテッドピープル株式会社 代表の関根健次さんが聞き手となり、コペンヒル実現の背景にあるデンマークの文化や人々のマインドセットについて語られました。ここではその一部を共有させていただきたいと思います。

上映会のトークイベント中の様子。左から関根健次さん、ニールセン北村朋子さん、飯田哲也さん

関根健次さん:コペンヒルができたことによって、デンマークやコペンハーゲンの人々の影響はどんなものがあったのでしょうか?

ニールセン北村朋子さん:コペンヒルはこれからの未来の廃棄物についての考え方の象徴でもありますし、ゴミは資源であって邪魔なものではないんですね。必ず燃やせば熱が作れたり、電気が作れたりする町の厄介ものの施設ではなく、みんなが楽しめる施設になったのは、本当に私たちの生活の循環を改めて見直す施設になったと思います。(中略)ビャルケの一番の功績はデザインはもちろん、公共もプライベートもファジーにしてつなげていること彼の発想はコペンハーゲンだけでなく、デンマーク全国の町の在り方、建物の在り方、人の在り方にも影響を与えていると思います。

関根健次さん:コペンヒルはちゃんと理想を掲げるだけでなく、実現させていく。施設のプレス資料によると年間3万世帯に電力を供給するだけでなく、年間7万2千世帯に熱供給をする。この部分が、なかなか日本ができていないところみたいなんですけども。

飯田哲也さん:デンマークは1979年の法律で、発電する時はその熱を全て熱供給に使うことを法律で決めたんですね。発電するだけだと、燃やしたエネルギーの30%くらいしか電気にならない。あとは捨ててしまう。でも地域暖房で使うとほぼ100パーセントエネルギーを使えるんです。社会全体でエネルギー効率が高い。今、デンマークの熱エネルギーの5分の1がこのゴミ焼却から来ている。コペンハーゲンはほぼ100パーセントの住宅建築物の地域暖房がカバーされている。ゴミ焼却とかバイオマスとか、そういうものが普段蛇口を捻って出てくるお湯とかこの寒い冬をあっためる暖房になっていて基本的に地域熱供給ですね。それをデンマークでは1970年代から、石油ショックの頃からやっているんです。

関根健次さん:デンマークの国の政策、社会の在り方、幸福度も含めて、学べることがたくさんあるかと思いますが、どんな点が日本に取り入れられると思いますか?

飯田哲也さん:学ぶことだらけですが、まずエネルギーで言うと、デンマークは50年前からまず原則をすごく大事にしている。いわゆるエネルギーの第一保存法則と第二保存法則、物理学の原則に沿って社会の仕組みを作ることを大切にしつつ、かつ先進的なことに一歩踏み出す。今回のコペンヒルもそうですし、1978年に世界で初めて風力発電を送電線に繋いだのはデンマーク。それから風力協同組合でどんどん進み、世界で風力発電がこんな普及したモデルを作ったデンマーク。コペンハーゲンで2001年にできた洋上風力発電は世界初の洋上風力発電で、コペンハーゲン市民が出資して作った未来のシンボルなのです。クリエイティブなことをやるけど、一番原理原則を大事にして進めることが、日本が学べることです。

ニールセン北村朋子さん:飯田さんがおっしゃった原理原則で考えると、デンマークの人は“そもそも”を考えるのがすごく上手。そもそもわたしたちはどんな街に住みたいのか、そもそも私たちはどんな教育を欲しているのか、そもそもどうやって街の人とコミュニケーションをとって行きたいのか、立ち返るのがとても上手で、それを恐れない。そもそも自分達がどうしたいのかってことを、面倒くさがらずにいろんな人と話しあいながら、考えながら、コミュニケーションをとっていく。本当にそれがいい方法だと思ったら忖度せずにどんどんやってみるというのが、デンマークが示して成功しているので大いに参考にできると思います。

本質的に大事なことは何か考え続け、民主主義的な合意形成によってクリエイティブな一歩を踏み出し続けるデンマークの人々。みなさんが、将来自分が住みたい世界、子供達に託したい世界はどのようなものでしょうか? ぜひ機会があれば「CopenHill(コペンヒル)」の情報や「コペンハーゲンに山を」の映画もチェックしてみてください。未来社会のヒントをもらえるのではないかと思います(以下に映画の情報やCopenHillの情報をまとめました)。本トピックスの感想もお待ちしております!

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映画「コペンハーゲンに山を」概要情報はこちら⇩

CopenHillのホームページ(英語)はこちら⇩

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