「意志が10割」と心底思った、強烈な失敗体験。

2023年2月16日
全体に公開

いまから7~8年前、まだ新規事業家と名乗っていなかったころの話しです。

とある大企業から、「新規事業の相談に乗って欲しい」という、ありがたいお声がけをいただいたので打ち合わせに行ってみると、「飛び地の新規事業、予算総額25億円、5事業同時立上げ」という肝入り案件でした。5つの対象市場はすでに決まっていて、テレビドラマとかに出てくるような大企業の大きな会議室のテーブルの向こうに、それぞれの市場の責任者、5人が並んで座っていました。守屋の役割は、その5人全員との壁打ち。あきらかに自分の身の丈を超えた話だったのですが、「挑戦したい」という想いが先行し、無謀にも「ぜひ!」と即答してしまいました。

ただし、その後の景色は「挑戦」とは程遠い「保身と偽り」の世界でした。

そもそもとして、今回の取り組み全体の責任者である本部長という肩書の人は最初から欠席でしたし、各事業責任者の5人もひとしきりの挨拶ののちにさっさと退席、初対面からわずか30分後の会議室に残ったのは事務局と守屋のみでした。

そして、なぜか違うフロアの打合せブース(会議室ではない)に移ることになり、これまでの経緯とこれからの予定について、事務局の方から改めての説明を受けることになりました。

いろいろ聞いてみると、じつは5人の事業責任者は全員兼任で、つまり本業タスクを持っていて、主従でいうと圧倒的に本業が主、新規事業が従とのこと。しかもこれまでの6か月(4月~9月その会社の上半期)は、「本業の合間時間に研修会社が新規事業の研修をしただけ」だったようで、実際に事業開発に取り掛かる時間はほぼ無く、だから事業は立ち上がらず、という惨状。すでに11月の現在、2月末の最終報告会まであと4カ月、年末年始を考えると実質あと3カ月しかない。早くカタチを整えないとマズい、と。

怪しい。事業が立ち上がらない匂いがプンプンする…。

思わず、「立ち上げてないから立ち上がらないんだよ」と毒を吐きそうになったのですがww、予算上限25億円、しかも日本で知らない人はいないだろうという大企業、「本気でやれば道は拓ける!」と努めて可能性にフォーカスし、具体的な壁打ち日程などを詰めさせてもらいました。

しかし、直感は当たるもので、というか、あきらかにそういう感じだったよね、という話しなのですが、とにかく、その新規事業責任者は「5人ともやる気ゼロ」でした。

どれくらいやる気がないかというと、まず僕との壁打ちを休むのです。「急な出張が入りました」とか言って、打ち合わせがどんどん連続してスキップになる。最初は「ただでさえ時間が無いのに、コレじゃ間に合わない」と焦っていたのですが、あまりに予定が飛ぶので約束通りに壁打ちが入ると「え、あるの!?」という感覚を持つようにすらなってしまいました。

当時はコロナの遥か前。対面が当たり前で、しかも当日、先方の事務所に入ってからスキップが知らされるので、「先方の事務所での空き時間」がしょっちゅうできました。その時間を使って事務局の方に、「意図してスキップさせているとしか思えない状況の背景」について、聞いてみました。

事務局の方曰く、「担当者の5人は何とかして事業を立ち上げずに逃げ切ろうと思っている」とのこと。社内の評価は減点法なので、新規事業を手掛けて失敗したら✕がついてしまうので手掛けないことが賢明、という理屈だと教えてくれました。そして堰を切ったような不満話があふれ出し、「5人の担当者はみんな東大出身で、私は私大出身。出世するのは東大ばかり…」みたいな学閥に関するボヤキ節に突入、文句が止まらず…。

「25億円もの予算があって、それでも何もしないって、それ自体が問題になりませんか?」と話を戻すと、「マイナー出資している先の1つを買収して子会社にすれば、『やった感』が出るので、そのための予備予算なんですよ。5人は事業創出が担当なので、事業買収は別の部署が担当ですけどね。最終報告は、そういったことも含めての全体の報告になるので、彼らがやり玉にあがることはないと思います」とのこと。

マヂか。そういうことか。だからみんな落ち着いているのか…。ってか、なんで自分はこの仕事をOKしてしまったんだ…。話しを聞けば聞くほど絶望感が深まりました。

ちなみに、実際に壁打ちしたなかでの、衝撃的だった事業計画の一例

その事業は、シニア向けのECでした。「高齢化、買い物が億劫、シャッター街、だからEC」という事業内容。超定番のあるある事業計画です。ただ、なんとなく、おかしい…。

月次の売上計画を見てみると、事業参入初月から黒字になっていました。普通、投資からスタートするので最初は赤字になるじゃないですか。当然ながら顧客もいない状態ですし。でも、その事業計画は初月から黒字で、しかも、売上や粗利、営利などの数字が違和感のあるキレイさというか、真っすぐに等間隔に右肩上がり。

「事業計画数値の考え方を教えてもらってイイですか?」と尋ねると、「ECの業界平均値を売上に掛けました」とのこと。一瞬、何を言っているのか分からなかったのですが、要は、売上の数字は「定額で毎月伸長」とし、売上以下の数字は「売上に業界平均の粗利率や営業利益率を一律で掛けただけ、粗利と営利の差分が経費」とのこと。(マヂですか…?

しかも、「一人暮らししている高齢者の生活に必要なモノがすべて揃っているECサイト」の使われ方は、「高齢者本人が食料や飲み水を含む一か月の生活必要品をすべて購入、1回の注文で洩れなく注文完了、納品も1回の納品ですべて完納」という想定になっていました。(いや、いくらなんでも冗談ですよね…?

そんな事業計画を見て、事務局の方が言っていた文句は本当だ、と思いました。担当者5人は全員優秀で、出世レースから外れていない。今後も外れたくないので、減点評価を何が何でも回避したい。その時点で1月だったので逃げ切るまであと1カ月半。何もしないで逃げ切るつもりマンマン、やる気の欠片もなく作成した事業計画は手抜きの極致、と。

結局自分は、5人の事業責任者にやる気を持ってもらうことは出来ず、そして、自分自身もやる気を失い、業務委託最終日を迎えるのを待つだけの、どうしようもない伴走者に成り下がっていました。大失敗談であり、最低の仕事ぶりであり、そして同時に「最大の学び」となりました。

意志が10割

意志が起点、意志がマスターリソース

久しぶりに思い出し、改めて書き起こしてみましたが、自分が「意志」に執拗に拘るのは、この「強烈な失敗体験が原体験」となっているのです。

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