「こども1万人意識調査」から考える、ルールメイキングがこの社会に必要な理由
「こども基本法」元年として2023年からはじまった、子どもの意見を取り入れる動き
2023年4月から「こども基本法」が施行されたことをご存じでしょうか。
「こども基本法」とは、日本国憲法および児童の権利に関する条約(※)の精神にのっとり、全ての子どもが、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、子ども政策を総合的に推進することを目的としています。
1989年に国際連合(国連)「子どもの権利条約(児童の権利条約)」が採択され、日本は1994年に国会で批准していますが、その後国内法の整備が進んでいませんでした。
「こども基本法」は、日本国内で初めて子どもの権利を包括的に定めた法律であり、これを機に、国や自治体では子どもに関するあらゆる施策(教育、雇用、医療など)において子どもたちの声を尊重し、意見を取り入れる動きが広がっていくと予想されます。
子どもたちが本当に望んでいることとは?「こども1万人意識調査」を深堀する
このような社会的背景に伴い、公益財団法人日本財団が、全国の男女10~18歳の子どもたちを対象に、オンラインで「こども1万人意識調査」を実施しました。
調査報告書では、「自分自身について」「家庭・学校・地域について」「こどもたちが国や社会に望むこと」などのセクションごとに、子どもたちの実態や要望に関する、リアルな声が掲載されています。
この調査報告書のなかで、特に興味深い結果は次のとおりです。
こども大綱で取り組んでほしいこと・こども担当大臣にお願いしたいことについて、全体の1位は「教育費の無償化」でしたが、そのなかで小学生・中学生の1位(全体の2位)は「学校教育の内容や規則の見直し」でした。このデータから、子どもたちは最も身近な社会である「学校」に対して変化を期待していると読み取ることができそうです。
では、子どもたちは学校の中で具体的にどんなことを不安・不満に感じているのでしょうか。
「あなたが、ふだんの学校での生活について、不安や不満に感じていることはありますか?」という設問に対し、4割の子どもが「特になし」と回答。しかし、6割の子どもたちが何かしらの不満を抱えていることがわかりました。
なかでも、多かった意見順に「ランドセル・カバンが重い」「宿題が多い」とあり、「校則が厳しい・納得できない校則がある」も6番目に多いという結果でした。
「変えたい、でもどうせ変えられない」「言いたい、でも聞いてもらえない」子どもたちの無力感
これらの結果から、「学校」に対して、不満やモヤモヤを抱えていたり、現状について「変えたい」と感じている子どもたちは少なくないようです。
一方で、「変えたい、でもどうせ変えられない」と無力感を感じている子どもが多いというデータもあります。
日本若者協議会が実施した調査では、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか」という質問に、68%の生徒が「そう思わない・どちらかというとそう思わない」と回答しています。
さらに、先程の日本財団の調査でも、子どもたちが感じる「守られていない子どもの権利」に関する設問で、最も多かった回答は「こどもは自分に関することについて、自由に意見をいうことができ、おとなはそれを尊重する」でした。
つまり子どもたちは、本来自分の身の回りの物事に対して、積極的に意見をして、変えていきたいと考えていても、期待した結果が伴わない経験を繰り返すことによって「自分の意見は聞いてもらえない」「現状を変えたいけれど、どうせ変わらない」といったような学習性無力感が無意識的に生まれている状況にいるのではないでしょうか。
今回の調査結果から、そんな子どもたちの小さな“声なき声”が聞こえてくるように感じます。
なぜいま、ルールメイキングが必要なのか
わたしが、この社会に「ルールメイキング」が必要だと考える理由は、まさにこの子どもたちの声にあります。
自分の所属するコミュニティに対して、漠然とした無力感を持っていると、その場所をよりよいものにしようと意見を発したり、アクションを起こそうとするモチベーションも下がってしまうのではないでしょうか。
その無力感を乗り越えるためには、半径5mの社会のなかで「意見を大切にしてもらえた」「自分が働きかけて、何かが変わった」という“小さな成功体験”が必要であり、ルールメイキングがそのためのきっかけになるのではないかと考えています。
実際に、2020年度にルールメイキングを実践していたある学校で生徒への意識調査を行ったところ、ルールメイキングを実施した後には、「将来、選挙で投票に行こうと思う」などの社会参加意識や、「自分の意見には価値があると思う」などの自己効力感が高まりました。
「自分たちの社会を、自分たちでつくることができる」という小さな成功体験は、こどもたちの意識を変化させる可能性を秘めていると思います。
さらに、こんな興味深い調査結果もあります。
日本財団の調査によると、子どもたちにとって「意見を尊重されること」と「幸福度」との間に、相関関係の傾向があることがわかりました。
親や先生などの大人から、「自分の意見を大事に扱ってくれる」と感じている子どもは幸福度が高く、逆に「自分の意見を大事に扱ってくれない」と感じている子どもの幸福度は下がる傾向が見られました。
子どもたちの声に耳を傾けることは、まわりまわって子どもたちの幸福感にも繋がっている。この社会にルールメイキングがなぜ必要なのか、という問いを考える上で、この結果はとても重要な示唆を与えてくれています。
子どもだけが変わるのではなく、大人も一緒に変わっていきたい
最後に、子どもたちの声なき声にそっと耳を傾け、意見を大切にできる大人の存在もまた、とても重要です。
ルールメイキングの現場では、「子どもたちの姿を見て、自分の考え方が大きく変わった」という先生方が、本当にたくさんいます。
子どもたちだけが変わるのではなく、私たち大人も一緒に変わっていく。
ルールメイキングをきっかけに、そんな連鎖が起こっていくといいなと思っています。
そのためには、大人側の成功体験も必要かもしれません。
わたしたちは、職場や家庭などさまざまなコミュニティにおいて「自分の意見を受け入れてもらえる」と感じられたり、「自分が関わることで、少しでも何かが変わるかもしれない」という感覚を持てているでしょうか。目の前にいる相手の声に、耳を傾けられているでしょうか。
子どもたちだけではなく、大人側にもそんな感覚を持てるような原体験が、もっと必要なのではないかと感じています。
ルールメイキングはとてもハードルが高いことのように思えるかもしれませんが、まずは既存のコミュニティの中で、安心して「ききあう関係」をつくることから、始めてみるとよいかもしれません。
その中で、少しずつルールメイキングの芽が育っていくのではないでしょうか。
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