1分1秒で変わる世界 救命救急医のインプット・アウトプット術

2023年7月19日
全体に公開

救命救急の現場では、1分1秒の判断で結果に重大な差が生まれます。
その短時間でベストな選択を取り続けることはとても難しいことです。
この記事では、救命救急医である私のインプット・アウトプット術についてご紹介いたします。

知識の階層化 緊急度と重要度で優先順位を決める

私は緊急度と重要度の2つの軸で知識を階層化し、優先順位を決定することが多いです。

今すぐに治療しないと患者さんが亡くなってしまうような事柄に関する知識は、緊急度と重要度どちらも高いと思います。

その一方で、放っておいたら寿命を大きく縮めてしまうけれど、診断をつけて治療に移るまでに1か月ほどかけても予後が変わらない病気であれば、重要度は高いものの緊急度は低い事柄となります、

救命救急の現場では、緊急度と重要度ともに高い事柄から優先的に正しく処理できるように事前に準備しておく必要があります。

UnsplashのEdvard Alexander Rølvaagが撮影

事前に解像度の高い情報を準備

心停止症例や重症多発外傷など、1分1秒を争う場面では時間をかけて調べる余裕はありません。

シミュレーショントレーニングで、勝手に体が動くくらい知識やスキルを身に付けることがとても大切になってきますが、それだけで全てをカバーすることはできません。

したがって、私は事前に想定し得る緊急性・重要度の高いシチュエーションについて、事前に解像度の高い情報をすぐに取り出せる形で準備をしておくようにしています。

具体的には、緊急度・重要度ともに高い事柄について、事前に文献を調べることで妥当性の高い答えを用意しておきます。そして、それらの情報はすぐに取り出して、そのまま使用できるように、わかりやすく解像度の高い情報としてEvernoteにストックをしています。

例えば、成人のアナフィラキシーショックの症例では、「アドレナリンを筋肉内注射」ではなく、「アドレナリン0.5mgを大腿部に筋肉内注射 ※要体重確認」のように具体的な薬剤名や用量まで細かく記載を行います。

こういった解像度の高い情報を取り出しやすい形でストックしておくことで、救急車が病院に到着するまでの短い時間に妥当性の高い情報を再確認することができ、暗記をしていなくても適切で最善の対応ができるようになります。

UnsplashのIan Schneiderが撮影した写真

情報は必ず引用元をたどれるように

前項で話したような情報をストックする際は、必ず引用文献を併記するよう徹底しております。

カンファレンスや同僚とのディスカッションになった際、自分は正しいと思っていたことも議論の対象になることはあります。その際、どの文献をもとに主張しているのかわからないと、議論が成立しませんし妥当性を確認することもできません。

私は必ずPMID(PubMedにおける文献ID)を併記し、その文献の大まかな研究デザインと結果を一緒に記載するようにしております。

こうしておくことで、いざ議論になった際に、自分が根拠としている文献がどのようなものか提示できるようになり、より良い選択をするための助けとなります。

UnsplashのMikołajが撮影した写真

時短として二次資料を用いることも

専門外の領域まで、主要な論文を全て検索して読んでいたらキリがありません。

私は、専門外領域については、診療ガイドラインや他の二次資料(UpToDate、Dynamedなど)を読んで、専門家の意見と引用されている文献を確認するにとどめています。もちろん、必要に応じて元となる文献も確認していますが、臨床分野では質の高い(と考えられている)二次資料が多く存在しており、自分自身で1から調べるよりも比較的短い時間で妥当性の高い情報にアクセスできるため非常に重宝されています。

今後はChat GPTをはじめ、AIの進歩によって、二次資料を自分で参照しなくても、生じた疑問をAIに対して入力するだけで、高い精度をもって妥当性の高い答えと引用文献を提供してもらえるようになるでしょうから、よりプロセスは簡略化することと思います。

まさに今は時代の過渡期であり、今後も私たち医師はAIで実現し得ることに注視していかねばなりません。

UnsplashのPossessed Photographyが撮影

皆様もインプット・アウトプット術をお教えください

今回、救命救急医としてインプット・アウトプットについて執筆しましたが、ぜひ皆様の業種でのインプット・アウトプットについてもお教えいただければと思います。

皆さま、コメントお待ちしております。

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