ひろゆき氏の論点ずらしと「トーンポリシング」問題

2022年10月8日
全体に公開
「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」

沖縄の基地反対抗議が行われている現場の辺野古を訪れ、「新基地断念まで座り込み抗議 3011日」の看板の前で、満面の笑みとピースサインと共に撮影した写真を10月3日にTwitterにアップしたことが発端となり、基地問題と抗議方法に関する議論が展開されています。

ひろゆき氏は、その後も「24時間座り込まないといけない」「座り込みの意味を理解していない」「わざとおかしな人をリーダーにして、まともな沖縄基地反対派を増やさない作戦」「字が汚い」などと、抗議の方法や表記内容について批判を続けています。

今回、抗議内容ではなく、方法に論点をずらして、当事者の声をかき消していることについて、ひろゆき氏は7日に出演したアベプラで「反対運動を揶揄」していたことを認めています。

このような、訴えの内容ではなく、その訴えの方法や言葉使いを非難するという論点のすり替えは「トーンポリシング」(tone-policing)と呼ばれ、当事者の声を遮る不適切な行為であるとされています。

トーンポリシングとは

「トーンポリシング」とは、「弱者が強い怒りとともに抗議することに対して、強者の側が『そんな態度じゃ誰も相手にしてくれないよ。もっと冷静に話さないと聞いてもらえないよ』と諌めるような行為を指す。つまり主張そのものの内容ではなく、話しかたや態度を非難することで相手の発言を封じようとする、否定的な意味で使われている佐々木, 2019)ものです。

トーンポリシングが問題になることが多いのは、声を上げている当事者に対して、非当事者が、より適切な抗議の方法を提案したりするケースです。

例えば、女性の差別問題に対して声を上げた当事者に向けて「もっと冷静になって、伝わるように言葉を選ぶべき」「そんな感情的で攻撃的な批判では、当事者には伝わらない」などと反応するもの。差別を行った加害者に「理解をしてもらう」責任が、被害者側にあるかのように反応し、上げた声を沈黙化させていることが、2次被害につながっています。

以前、黒人差別に対する抗議を受けて、タレントのつるの剛士氏が「声高に平和を訴える人ほど攻撃的 声高に差別反対を訴える人ほど差別的 声高に誹謗中傷を責める人ほど言葉が汚い 普通の声で言おうよと綴ったことがトーンポリシングであると指摘されたことがありました (女性自身 2020)。

「普通の声」で伝えるべきだという批判が、本題から目を背けさせていることや、主張が通らない理由を肯定していることにつながっているのではないかと懸念されたのです。

このように、敬意や問題への理解度の有無に関わらず、当事者の主張から論点をずらす行為は、残念ながら少なくありません。

もちろん、揶揄するつもりではなく、共に課題を解決したいと思う想いから、提案のつもりで発言されることもあります。しかし、それぞれの主張者の意図や、そのように抗議するに至った原因や葛藤の全てを、他者が理解することはできません。

特定の言葉使いでは、誰にも聞いてもらえなかった。特定の方法では、自身が納得できない理由があったーー当事者が声を上げるためには、多くのエネルギーと勇気が必要です。今のやり方は、それを継続的に行うために、試行錯誤やってきた結果なのです。

より効果的で、適切な抗議方法があると感じる場合は、それを実施するための波紋を、別の場所やかたちで広げていくのが望ましいのではないかと感じます。

これだけひろゆき氏の言動が話題になったにも関わらず、沖縄問題について十分な本質的議論に繋がらなかったのは、その内容がトーンポリシングという、論点のすり替えだったことに原因があると考えます。

結局、どんな課題においても、当事者を完璧に理解することや、当事者になったつもりで考えることは、できません。しかし、だからこそ、当事者の声に敬意を払い、それを沈黙化させず、「自身の無知」と向き合いながら、寄り添う方法を模索する必要があると思うのです。

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