【読書術】あえての遅読

2022年6月10日
全体に公開

前回記事『【遅読と速読のあいだ】辞書・用語集の活用』では、速読に必要な知識習得について説明しました。「速く読むためには、遅く読むことが必要である」という、ある種のパラドックスです。

「遅く読む」ということは、「速く読む」ことに比べて実は難しいです。それは、多くの現代人にとって、カラダを動かすランニングの方が、カラダを静止させるマインドフルネスより容易に感じることにも似ているかもしれません。現代人の意識(あるいは関心)が、自然と速く読むことには向かっても、遅く向かうことはないからです。

人類はずっと遅読だった

「現代人」と言いましたが、実際に(速読の第一歩である)「黙読」が一般的になったのは近代に入ってからのことのようです。

あまり知られていないことですが、人類が黙読(目読)ができるようになったのは、おそらく十四世紀か十六世紀以降のことです。(中略)日本の『源氏物語絵巻』にも、公達と女御が二人でうつぶせに寝そべって絵巻の詞章を読んでいる場面があるのですが、それを女房が几帳の陰から盗み聞きしている絵柄がある。これは二人が声を出して絵巻を読んでいる証拠です。音読しているんです。
松岡正剛. 多読術 (ちくまプリマー新書) 

西洋にかぎらず、コーランもお経も声に出して読んでいました。空海も、声を出して全身にエネルギーを巡らす瞑想法を重視しました。現代でも、幼児は音読しないと文字を認識できません。

実際のところ、音読の効果は科学的にはよくわかっていないようですが、人間にとって音読が自然な読書法である、ということは言えるのではないかと思います。

ちなみに、なぜ黙読が近代になって普及したのか、ということについては、諸説あります。もちろん印刷技術の進歩も大きいのですが、私は可能性の一つとして、近代における視覚に対する(極端な)重視があるのではないかと考えています。近代において聴覚、触覚、味覚、嗅覚よりも視覚を重視する傾向が強まったがゆえに、徐々に読書から視覚以外の要素が脱落していったのではないか、と考えるのです。ここから、鷲田清一などのように、逆に共感覚を再び重視する哲学も生まれてくるのですが、少し哲学的な話になるのでいずれ考察してみたいと思います。

遅読法あれこれ

私自身、本や記事の執筆もあり、毎日多くの書物に目を通していますが、なるべく「遅く読むこと」を心がけています。ここ数十年くらいで発展した速読法に比べて、先に述べた通り、遅読法は文字の発達依頼様々な方法が開発されてきました。そのため、簡単に紹介することは難しいですが、いくつか効果的なものを紹介しておきます。

①フィードバックを設ける

江戸時代は優れた読書術が多く生まれました。藩校だけでなく、寺子屋や私塾など多く誕生し、多くの人物を輩出しました。

そこで発達した一つの遅読法が「掩巻」と呼ばれるものです。

ぼく(注:松岡正剛)が最も感動して真似したのは、兵庫県の但馬に「青谿書院」を開いた池田草庵の方法ですね。但馬聖人とよばれた。のちに吉田松陰が真似をするのですが、二つありまして、ひとつは「掩巻」というもので、これは書物を少し読み進んだら、そこでいったん本を閉じて、その内容を追想し、アタマのなかですぐにトレースしていくという方法です。
松岡正剛. 多読術 (ちくまプリマー新書) 、注記は筆者

「掩巻」はビジネスパーソンにとっても効果的な訓練となります。戦略系コンサルのような職場では、頻繁に「今話し合ったことをリフレーズ(言い換え)してみて」あるいは「サマライズ(要約)してみて」という指示がでます。5分に1回くらいは出てきます。

聞いてわかったような内容を、自分の言葉で言い直すことは案外に難しいものです。多くの新人コンサルタントはフリーズして何も答えられません。しかし、このように立ち止まって説明させることで、その頭のなかを整理しているわけです。So What?(だから何?)も、「掩巻」の一種と言えるでしょう。

ところが、この「掩巻」を独学において実践することは難しいです。そのため、自分にフィードバックをかける仕組みを作っておくことが重要です。いくつかやり方がありますが、「フォトリーディング」でも説明したように、予め読書で知りたいことの「質問をたてておく」というやり方も効果的です。本を読んだら、その質問の回答を考えてみる、というやり方です。

また、予め問題(とできれば回答)が準備されている本を読むこともおすすめです。私が勧めるような大学受験問題集は、問題を解くことで、理解できたかどうかの強制的フィードバックがかかります。問題集に限らず、たとえば佐藤優氏の著作は質問が用意されている本が多いのでお勧めです。佐藤氏のメールマガジンに投稿すると、本人によるフィードバックもしてくれます。

②他人と共有する

①とも関連しますが、読んだ内容を他人に伝える、ということも効果的です。フォトリーディングもアウトプットを重視しています。

もうひとつは「慎独」で、読書した内容をひとり占めしないというもの、必ず他人に提供せよという方法です。独善や独占を慎むということ。これにもぼくは感動して、なるべく実践してきたと思いますね。「千夜千冊」を無料公開したのも、そこから出てます。
松岡正剛. 多読術 (ちくまプリマー新書) 

NOTEなどもありますし、近年では松岡正剛氏のような著名人でなくともアウトプットできる場は増えてきました。

私のおすすめは金銭的対価を得るもの、または支払うもの、の活用です。人様に読んでもらうことを想定することで緊張感が出ますし、逆に金銭を支払うことで強制力も出ます。前者は有料メールマガジンの発行、後者は、松岡正剛氏のものも含めブッククラブへの参加がお勧めです。

③五感を駆使する

最後に、音読も含めて、視覚以外の感覚を活用することをお勧めします。声に出す以外に、聴覚も味覚も触覚もあります。

聴覚ではオーディオブックやKindle読み上げ機能などを活用するとよいでしょう。隙間時間を活用できるので、読書量がかなり増えると思います。

味覚も重要です。よく「文章を味わう」と言いますが、これは比喩ではありません。「レモン」という言葉を見ただけで甘酸っぱさを感じることがあるように、言葉に対する感覚が鋭くなると実際に文章を味わうことができたりします。

また、人によっては座って本を読むよりも、歩きながら読んだり、聞いたりする方が理解しやすいことは、触覚と関連しているかもしれません。気になったフレーズを、手を動かしながらノートにとることも触覚刺激には有効です。

もっとも手っ取り早い方法は音読だと思います。どこまで効果があるかはわかりませんが、キオークマンのような機械を使って音読すれば、視覚・聴覚を活用しながら読書することができます。

特に、退屈な本や、朗読用に作られた本は、音読することで学習効率をあげることができます。退屈な本(といっては失礼ですが)の代表格は教科書です。読むと数分で眠くなるような教科書でも、音読すると意外と退屈しません。

また後者の代表例は外国語です。現代日本人にとっては外国語となってしまった古文・漢文も良いです。ギリシャ語は、最初は文字を読むことすらできませんが、一日5分単語を発音することを半年くらい続ければ、少なくとも発音はできるようになります。

いかがでしょうか。数回にわたって読書術を説明してきました。まだまだ色々な読書術があると思います。シェアしたい読書術があれば、ぜひコメントください!

次回は、Youtubeと学習について考察したいと思います。

今回紹介した書籍のリンク先https://note.com/mba_learning/n/nfcc54c621e83

本連載で紹介した書籍のリンク先https://note.com/mba_learning/m/m91783b37733d

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