テスラはFSD12で将来の完全自動運転の実現を確信した模様
トピックオーナーの前田謙一郎です。
今週、テスラの自動運転、FSD関連のニュースが幾つかありました。日本ではアメリカと同じレベルでのFSDが展開されていないので、あまり注目されておらず、FSDの無償トライアルや説明義務化と事実しか報道されていません。
しかし、これら一連のニュースから読み取れるのは、テスラがFSD12で完全自動運転実現の道筋が見え、今後の機能向上を急速に進めるステージに達したこと、そして、将来のビジネスモデルの布石を打ち始めている事ではないかと思います。AIの進化に伴い、自動運転もイノベーションの新たなステージに入ったと感じるニュースでしたので纏めてみました。テスラの自動運転、FSDV12については以下の記事でおさらいできます。
最近のFSD関連のアップデートとニュース
直近のFSD関連に関するニュースは以下の通り。
・イーロンは北米の従業員に対して車の納車前にFSDのデモや説明を義務付け
・北米の既存顧客と新規顧客に対し、FSDを1カ月間無料で提供(従来アメリカではFSDパッケージは1万2000ドル=約180万!)
・トライアル後は199ドル/月のサブスクも提供
・アメリカだけでなくカナダにもFSD12が配信開始
・最新のFSDバージョンはFSD12.3
最新バージョンの車の動きと画像認識の精度の高さついては以下のムービーが参考になります。多くの車を認識しながら画面左の信号がちょうど黄色になった時に前方から来る車が止まるか進むかを予測、判断し、左折する。人間と同じような高度かつスムースな運転で、ロボタクシーの到来を予想させるレベルではないでしょうか。
There is zero room for error here. 😬
— Edge Case (@edgecase411) March 27, 2024
The ability for FSD v12.3 to judge if an opposing car is going to stop or go on a yellow light is exceptional. This left on yellow is one of the most risky maneuvers to execute and I’m so glad that the team has worked on getting this… pic.twitter.com/Yfo0w8jf6F
車の360度周りで歩行者、トラック、バイク、信号を認識できているのはすでに人間の能力を上回っています。そして今回、納車前デモや無償トライアル、サブスクの展開はこれまでになかったことであり、映像にあるようにこのFSDレベルであれば普及に値すると考えたことが背景だと察します。
AI、走行データ、チップで完全自動運転が現実に
イーロンはこれまで、私がテスラに在籍していた時から数年以内に完全自動運転を実現すると宣言していました。実際にアメリカでもFSDやソフトウェアのバージョンが上がるたびに機能は改善されてきましたが、まだまだ挙動がぎこちなく、運転を任せるレベルにならず、多くのメディアやユーザーを落胆させてきました。
しかし、V12は最後のベータバージョンになると言われており、カリフォルニアの色々なユーザー動画にあるようにこれまでになく高度な自律運転を実現しています。この発展を経て、イーロンがFSDのデモはマスト(Hard Requirement)と Emailで全社員に指示があったり、この機能を1か月で無償トライアルを提供することは、テスラが自動運転の実現を確信し、プロモーションを拡大していると言うことです。
Here is the email pic.twitter.com/L4zEXv4sq6
— Whole Mars Catalog (@WholeMarsBlog) March 25, 2024
一部のメディアではFSDの装着率が低い(売れていない)、値下げ競争で下がった利益率の改善に躍起になっている、、ようないつものナラティブ報道もありますが、逆の状況でしょう。
テスラが完全自動運転の実現を可能にする理由
テスラとイーロンはもう8年程前に様々なセンサーを使ったシステムの採用をやめ、カメラとソフトウェアで自動運転を実現することを決めました。従来もしくは現在もカメラ、レーダー、超音波センサーなど様々なセンサー類を搭載しドライバーアシスタンスシステムを開発、将来的な自動運転を見据えるのが自動車業界の主流であり、現在も多くの自動車メーカーはそのシステム構成です。
カルフォルニアで自動運転サービスを提供するウェイモなどは、ジャガーの車体に多くのセンサーやカメラを搭載し、限定的な地域でタクシーサービスを展開することでそのビジネスモデルを成立させています。
ただ、それらのシステムはコストが非常に高く、結果、車も高価になるためEVをより多く普及させようとするテスラのミッションには合いません、また一番の驚きは8年前からAIの頭脳が自動運転の制御をすることを理解していたイーロンの先見の目だと思います(その当時にOpen AIに関わっていたことを考えると納得がいきます)
もちろん、このFSD12レベルに辿り着くまでは色々と試行錯誤がありました。一番の問題は車の挙動を決めるコードを人間が何万行も書いていたことです。今回それがAIによって判断できるようになったのは非常に大きな進歩であり、今後はその解析能力を向上するチップをアップグレードすること、そして自動学習の栄養になる走行データを送ってくれるテスラ車両を世界中でもっと増やすことで、完全自動運転の実現に近づいていく、とても明確なシナリオではないでしょうか。
現在の自動車業界で、世界中の走行データを持ち、AI頭脳を開発できる自動車メーカーはテスラ以外にありません。そしてチップに関してはNVIDIAのチップを大量に調達していることからもその重要性がわかります。
NVIDIAハードウェアを大量に購入中
以下のCNBCの記事にあるように、テスラはNVIDIAと競合する「Dojo」というスーパーコンピューターを開発すると同時に、大量のNVIDIAのハードウェアを買い漁っています。イーロンはDojoスーパーコンピューターを構築するのに5億ドルかかるとしていますが、同時にテスラは今年NVIDIAハードウェアにそれ以上の金額を費やす、とも述べていますね。
2021年8月のAI Dayで初めて発表された「Dojo」スーパーコンピューターの目的はテスラの車によって撮影された大量のビデオとデータを使用してAIモデルを処理、トレーニングすることです。
テスラとしてはすでにカメラとAI頭脳で自動運転をするベースは整った。あとは毎日大量に送られてくる走行データを処理・解析し、自動学習を進めるためのスーパーコンピュータに不可欠なNVIDIAなどのハードウェアが必要な状況です。
自動車の範疇を超えたテスラのテクノロジー
テスラの収入の大部分は自動車事業から来ていますが、イーロンもXで述べているように、テスラは多くの人にとって自動車会社のように見える、AI/ロボティクス会社です。
私もこれまで自動車業界で働き、長年プロダクトマーケティングで自動運転やドライバーアシスタンスシステムを追ってきましたが、テスラのFSD以外で完全自動運転を予感させるシステムには出会えませんでした。でもそれが今、AIが進化したことで現実になろうとしています。
さらにその進化は加速しそうで、イーロンはアップデートの頻度を増やし、2週間毎にするとも述べており、さらに4月の下旬もしくは5月にはますます機能の向上を予告しています!
今後も楽しみです。また次の記事でお会いしましょう。
TOP画像:https://www.tesla.com/
トピックスオーナー:前田謙一郎
マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。
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