日常に潜む、人を欺くデザイン
みなさん、こんにちは!第5期Student Pickerの鈴木恭平と申します!
大阪大学大学院で経済学を学んでいる修士学生です。前回は、インターンの山本さんが『ラグビー入門』について語ってくれました。
反則ルールから理解していく視点が斬新で山本さんのラグビー熱を感じました。次にラグビーを見るときは、4つのルールを意識してみようと思います!
さて、今回は「日常に潜む、人間を欺くデザイン」についてお話しようと思います。
突然ですが、みなさんはUX(User eXperience)*という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
*UX = ユーザーのニーズや期待に応え、アプリやwebサービスで快適なコンテンツを提供すること
UXデザインという言葉が入ったタイトルの書籍もちらほら見かけるようになり、新しいビジネスやwebサービスの開発には必須の考え方になっています。
世の中全体ではユーザーの体験を良くしていこうという流れはあるのですが、一方で「よくないUX」も存在するのです。
今回はUXを企業視点の手法論ではなく、実際にデザインの対象となるユーザー=私たちの視点から考えてみようと思います。
本当に買いたくて買っている?
早速ですが、
- サブスクリプションの無料契約期間を気づいたら過ぎていた...
- 解約したいけど、やり方が分からない...
- そもそもいつこのサイトの会員登録したっけ?
このような経験がある方は少なくないのではないでしょうか?
恥ずかしげもなく公開すると、私は3回くらいあります!解約リマインドし忘れたなと自分の責任を感じ、解約しようと思ったところ提携店舗まで足を運ばないと解約できないなんてこともありました。
でもこれって、ほんとうに「いい買い物」と言えるのでしょうか?もっと言うと、「よい体験」なのでしょうか?
今回のテーマであるこの「よくないUX」を専門用語でダークパターンと言います。ダークパターンは「ユーザーの望まないお金・情報・時間を提供させる」という特徴を持ちます。
もう少し具体的な例を紹介します。
ダークパターンを紹介
隠れたコスト
決済画面になって上の画像のような請求があったとき、「これ、何の代金?」と思うことはあるのではないでしょうか。このように内容が明示されていない料金を請求することを「隠れたコスト(Hidden Cost)」といいます。手数料、販売料、梱包費など様々なパターンがあります。
偽のアクティビティメッセージ
これらの宿泊予約やECサイトでよく見かけるメッセージは他の購入者の存在をちらつかせることで購買を迫ることが目的です。これがもし嘘の情報だった場合に悪質なダークパターンとなります。
しかしながら、ユーザーがその真偽を確認する手段はありません。
「確認しようがないのに焦らせないで!」とユーザーに思わせてしまうこと自体が良くないデザインです。
強制的な登録
私たちはちょっとしたことでwebサービスに会員登録をすることに慣れてしまっています。しかし、これは個人の情報を無料で提供しているということになります。はたして、「記事の閲覧」や「見積もり相談」に対して、会員登録が本当に必要でしょうか?
ユーザーが価値を感じていないのにむやみに会員登録を強いることはダークパターンになりえます。
ローチモーテル
解約手続きを複雑にすることで、解約率を下げる妨害手法のことです。具体的には
・電話でしか解約ができず、繋がらない
・解約ボタンが小さい、目立たない
・解約を引き留めてくる(○○が今後使えなくなります等)
・解約する前に長いアンケートがある
などがあてはまります。「入るのは簡単だけど出られない」ことをなぞらえてcockroachのモーテル(捕獲機)というダークパターンです。
なぜダークパターンが生まれるのか?
これらのダークパターンはどのようにして生まれるのでしょうか?個人的な見解で2つの原因を考えてみました。
①数値化の罠
理由の一つとして、ダークパターンは短期的に数字上の効果が出るからです。
当然ながら企業はサービスで利益を上げることを目的にし、少なからずその先にはサービスを通して提供したい価値やビジョンがあります。
しかし、メール送付やサブスクリプション契約手続きなど、本来届けたかった価値とは離れた部分でダークパターンは生まれがちです。売り上げや解約率といった数字を追いかけているうちにその先にいるユーザーの視点を忘れてしまうのです。
「数字ではうまくいっている」と信頼しすぎることで、実際にお客さんが感じている心の内を見なくなってしまうという罠です。
②行動経済学の流行
もう一つの理由として、行動経済学**(≒ 認知科学)の広がりがあると思います。行動経済学はマーケティングでの介入やUXデザインとの親和性がとても高いです。
**行動経済学 とは一言で表せば「人間の限定された合理性を仮定する経済学」のこと。
最近、行動経済学がタイトルにある本が常に書店に並び、有用な学問としてビジネスマンに注目されています。
しかし、その内容は企業の売り上げを上げることが目的の「こうすれば人間は動く」といったものが大半です。
そのような書籍が売れる背景には「顧客心理を明らかにしたい」「人間行動をハックしたい」といった思いがあるからだと推測しますが、そういった考えが行き過ぎるともはや学問の領域を外れ、ダークパターンが生まれることにも注意が必要です。
私たちができること
ここまでのまとめです!
・お金・情報・時間を奪うユーザー体験のことをダークパターンという
・ダークパターンは日常の中に潜んでいる
・理由として数値化の罠と行動経済学の流行がある
最後に、ダークパターンを無くしていくにはどうしたらいいのでしょうか?
極端な話、サービスの良し悪しを私たちユーザーが評価する手段は、そのサービスを「選ぶ or 選ばない」しかないと思っています。
スマートフォンの中で購買が完結する便利な時代になった反面、「人の弱さや嘘によって利益を得る不誠実なサービスを見分け、選ばないようにする」という私たちのリテラシーも必要になっているということです。
この記事でダークパターンという(一風変わった)視点を取り上げられるまで、良くないUXに直面しても「まあこういうもので、仕方ないか」と思ってしまっていた方もいるのではないでしょうか。
確かにサービスの本質とは関係がない、ちょっとした仕様の話かもしれません。
しかし僕はそういう細部にこそ企業のユーザーへの姿勢が現れると思うのです。ユーザーのことを本気で考えている誠実なサービスが残って欲しいと思っています。この記事を読むことで「たしかに、そういう体験でムッとしたことがあったな...」「やっぱりこのサービスは使いやすいな」と振り返るきっかけになれば幸いです。
参考文献
仲野祐希 (2022)『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』, 翔泳社
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