ユニコーン名付け親が振り返る、スタートアップ10年史

2024年1月30日
全体に公開

2013年にCowboy Venturesの創業者、Aileen Lee(アイリーン・リー)氏が、企業評価額10億ドル(約1480億円)以上を超える優れた・貴重なスタートアップを“ユニコーン”と名付けました

それから10年が経ち、わずか39社だった世界のユニコーンは532社に。実に、14倍もユニコーンが増加したのです。

そんな状況を名付け親のアイリーン・リー氏は、どのように分析しているのか。これまでとは大きく状況が変わった「ユニコーンクラブの10年史」を見ていきましょう。

☕️coffee break

2012年、シリコンバレーを代表する名門ベンチャーキャピタル(VC)、Kleiner Perkinsで10年以上パートナーを務めていたAileen Lee(アイリーン・リー)氏は、独立系VCのCowboy Venturesを創業しました。

創業にあたり、トップティアのVCを分析したところ、わずか数社のスタートアップのIPOやM&Aが、ファンドのリターンの大部分を占めていることがわかりました。

例えば、4億ドル(約590億円)規模のアーリーステージ向けVCファンドを運用している場合には、以下の2パターンの追求が必要になります。

・評価額10億ドルのスタートアップ2社の株式を20%保有する

・評価額20億ドルのスタートアップ1社の株式を20%保有する

これらの投資先がM&AやIPOに至った際に保有株式を売却すると初めて、4億ドルファンドの期待リターンを上回ることができます。

しかし、2013年時点では設立10年未満で評価額10億ドルを超えていたスタートアップはわずか39社。

当時は平均で年4社しかユニコーンが誕生しておらず、米VCによる投資先のわずか0.07%に相当していました。

「2013年当時、評価額が10億ドルを超えていたスタートアップ39社」

Cowboy Ventures

この類稀なスタートアップを、伝説の生き物「ユニコーン」に例えたことで、以降は世界中の投資家がユニコーンを創出することを目標に掲げるようになったのです。

🍪もっとくわしく

ユニコーンという名称が誕生した2013年から2021年にかけて、米国VCは5800億ドル(約85兆円)もの金額を調達して、ファンド設立をしてきました。

これを受け、2021年は米国のスタートアップだけで、過去最高の3460億ドル(約51兆円)もの資金調達が行われました。

しかし、翌22年3月に米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを行ったことで、投資家はリスクの高い投資から、安全な資産へと投資戦略を変更しました。

この影響で、2022年・2023年は米国スタートアップの資金調達環境が大きく変化し、VCも慎重な投資姿勢となりました。

2013年→2023年で比較したユニコーンの状況は以下。

・39社→532社(10年で14倍)

・B2Cが60%以上→B2Bが78%

・EXITは66%→7%に激減

「ユニコーンの事業カテゴリー」

Cowboy Ventures

特徴は、532社のうち60%がZIRPIcorns(ゼロ金利時代に誕生したユニコーン)で、2020〜2022年の資金調達が最後となっているため、次回の資金調達でダウンラウンドを避けることはかなり難しくなっています。

投資家もポートフォリオの見直しが不可欠であるため、セカンダリー(二次流通)市場には約40%のユニコーンが評価額10億ドル未満で流通しているようです。

とはいえ、現在もユニコーンはVCから資金調達したスタートアップの1%も満たしません。スタートアップの資金調達額・件数が大幅に増加したことで、ユニコーンが誕生しやすくなったものの、まだまだその貴重性はあるんです。

🍫ちなみに

日本で企業評価額1000億円を超えるスタートアップでは、15社にまで増加しています。

2023年に資金調達をした企業の中で特に注目の3社を見ていきましょう。

GO(ゴー):タクシー配車アプリ

👉2023年は上場後を見据えて、ゴールドマン・サックス、フィデリティ・インターナショナルといった機関投資家などから、140億円超の資金調達を実施しました(融資含む)。

1月5日には上場準備を開始したことを発表。2023/5期は売上高が前期比+70%の180億円見込みであったことを明かしていることから、大型のIPOが期待されます。

アストロスケールホールディングス:宇宙ゴミ除去を含む軌道上サービス

👉2023年は三菱電機などから100億円超の資金調達を実施しました。現在、注力して取り組んでいるのは、JAXAとのプロジェクト「ADRAS-J」、英国宇宙庁とのプロジェクト「ELSA-M」、英国宇宙庁とのプロジェクト「COSMIC1」です。

いずれも2024〜2025年頃の実証を予定しているため、この1・2年がアストロスケールにとってかなり重要な年となっています。

Mujin(ムジン):産業用知能ロボットの開発

👉9年ぶりのエクイティファイナンス(第三者割当増資)で、123億円の資金調達を行い、米国を中心とするグローバル展開に注力しています。

1月にはアクセンチュアと合弁会社(JV)「Accenture Alpha Automation」を設立しました。これまでもアクセンチュアは積極的にJVを設立してきたものの、大半はマイノリティ出資(出資比率50%未満)でした。

今回はアクセンチュアが70%、Mujinが30%という異例の座組みで、製造・物流業界における自動化とデータ主導型経営の実現に取り組みます。

サムネイル画像:DALL·E 3での生成

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