大企業×スタートアップの新たな協業モデル 「Venture Client」がくる

2024年1月15日
全体に公開

自前主義が根強い日本企業が、スタートアップや大学など社外組織と連携して、イノベーションを推進する「オープンイノベーション」を取り入れ始めて、10年ほどが経ちました。

そんなオープンイノベーションに「Venture Client(ベンチャークライアント)」と呼ばれる新たな協業モデルが訪れようとしています。

このモデルはこれまでとどう違うのか、そしてすでに成功している海外の事例を紹介します。

☕️coffee break:そもそもオープンイノベーションとは?

2003年、当時ハーバード・ビジネス・スクールの助教授ヘンリー・チェスブロウ氏が著書でオープンイノベーションの概念を提唱したことが始まりです。

1990年代以降、インターネットとテクノロジーの発展により、競争が激化。自社資源に依存したクローズドイノベーション(自前主義)には限界があることが明らかになり始めました。

その象徴が米シスコシステムズとルーセント・テクノロジー(現:Alcatel-Lucent)です。

ルーセントは1996年にAT&Tから分社化され、ベル研究所など世界最先端の研究開発環境・開発者を抱えていたにも関わらず、外部資源(スタートアップへの出資・M&A・協業)の積極活用を重視したシスコに市場シェアを奪われ続けたのです。

このような背景から、自前主義から脱却を図り、迅速にイノベーションを創出して競合企業に勝つ戦略として、外部組織(スタートアップや大学)のリソースを活用する「オープンイノベーション」が注目されるようになりました。

自社資源があるのにオープンイノベーションで外部と連携することに社内リソースを割くには、その必要性を明確にする必要があります。

そこで、CVCを設立してスタートアップへ投資、アクセラレータープログラムの運営など、自社リソースを投下することで、オープンイノベーションを推進することが一般的になったのです。

🍪もっとくわしく

しかし、CVCやアクセラレーターの運営は、飛び地分野でのイノベーションや新規事業創出にはつながるものの、中核事業・技術で成果を生み出すことは難しいのです。

・最高のスタートアップほど引く手数多で、投資・協業機会を得るのは難しい

・運営には多額の投資と時間が必要

・共同プロジェクトを開始できる可能性は10〜20%ほど

そんな状況を打破すべく、ドイツの自動車大手BMWは2012年から「ベンチャークライアント」モデルに取り組み始めました。

2012年に連続起業家のグレゴール・ギミー氏を研究開発本部に招き、中核事業でスタートアップと連携するイノベーション戦略の構築に動きました。

スタートアップの成長に必要なのは大きく、資金・ノウハウ(戦略)・顧客の3つ。

前者2つは独立系VCが強みを持っていますが、顧客になることは事業会社にしかできません。

BMWはそこに特化して、サービスを正式リリースしていない、プロトタイプ段階で最初の顧客になることで、最高のスタートアップと創業期から協業する組織「BMW Startup Garage」を立ち上げたのです。

この組織はBMWの全部門と連携して、課題解決のためにスタートアップと協業するため、投資リスクを最小限に抑えながら、大きな成果を生み出す可能性を秘めています。

スタートアップにとっても最初の実績を挙げることができ、大企業のリソースを活用しながら、需要のあるサービスを開発することができるというメリットがあります。

加えて、BMWの場合はBMW iVentures(CVC)も運営しているため、より最高のスタートアップを集めることができます。そのチャンスを狙って、VC側も連携を求めることで、BMWに多くの情報が集まってくる好循環を作ることができました。

この成功により、ボッシュ、シーメンス、ダイムラーなどもベンチャークライアント組織(ベンチャークライアント・ユニット)を設立する流れにつながったのです。

🍫ちなみに

「BMW Startup Garage」を立ち上げたグレゴール・ギミー氏は、2018年にベンチャークライアントの立ち上げ・運用支援ソリューションを提供する27pilotsを設立しました。

この27pilotsを2023年1月にデロイトグループが買収。それにより、12月から日本のデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)もCOOの木村 将之氏がトップに立って、27pilotsのベンチャークライアントサービスの提供を開始したのです。

DTVSは2010年の第二創業以来、スタートアップと大企業の協業を目的にアクセラレーターの運営やCVCの設立を支援してきました。

そこで培った顧客ネットワークに「ベンチャークライアント」という新たなオープンイノベーションのモデルを持ち込むことで、日本企業でも相次いで事例が生まれるのではないでしょうか。

サムネイル画像:DALL·E 3での生成

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