旅行に出かける前に知っておきたい血栓症のこと

2024年1月8日
全体に公開

年が明けてこの記事を書くまでに、信じられないような悲しいニュースが複数飛び込んできました。個人的にも、東日本大震災での経験や、火事で逃げ遅れた経験が重なりフラッシュバックして、胸が苦しくなりました。遠方からではありますが、被災された方、一人でも多くの方の無事と安全をお祈りしています。

そんな気持ちに苛まれつつ、「私は私にできることを淡々と」という思いで、これからも文字通り淡々と記事を書き続けていきたいと思います。

今回は、震災などにも関連して、「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」という病気について少し解説をしてみたいと思います。この病名、聞いたことがありましたか?

深部静脈血栓症とは?

あまり聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、「エコノミークラス症候群」(この通称は改名され、現在ではロングフライト血栓症)ならば耳にしたこともあるでしょう。実は同じ病気のことを指しています。

血液というのは、停滞すると固まるという特徴を持っています。そう聞くと「それは大変だ」と思われるかもしれませんが、実は理にかなった特徴なのです。血液は普段、心臓のポンプ機能のおかげで、血管の中をスムーズに流れ続けています。

しかし、切り傷を作って出血してしまった時のことを想像してみてください。この時、血液は血の出た場所で停滞しますよね。すると、この「停滞すると固まる」特徴のおかげで、出血した場所で血液はかたまり、出血が止まってくれるのです。もしこの機能がなかったら、ケガをしてしまった場合になかなか止血することができないでしょう。こうした背景もあり、血液は「停滞すると固まる」ようにできているのです。

実はこの血液の停滞、ロングフライトなどでも起こりやすくなります。

DALL-Eで作成

普段の日常生活では、10時間、12時間もの間、狭い空間で同じ姿勢で座り続けるということはなかなかないでしょう。デスクワークの方でも、立って歩き回ったり足を動かしたりという時間が多かれ少なかれ必ずあると思います。この「歩く」、「足を動かす」という行為が実は血液をスムーズに流す上でも大切なのです。

特に、脚の「静脈」と呼ばれる血管は比較的柔らかく、周囲にある筋肉がポンプ機能の役割を担っており、周囲の筋肉の収縮や弛緩の繰り返しによって、ちょうど「マッサージを受けて血行が良くなる」イメージで血液がよどみなく流れるのを助けてもらっています。ロングフライトでは、この動きが極端に減るので、血液が脚の血管の中で停滞しやすくなり、血栓ができやすくなります。

DALL-Eで作成

震災でも起こりやすくなる?どんな人に起こる?

同じ理由で、震災などに関連しての車中泊などでも血栓ができやすくなります。血栓が脚にできるだけであれば命に関わるような重大な病気にはなりませんが、実はこの血栓が静脈を辿って旅をし、やがて肺の血管に到達するということが起こりえます。この場合、大事な酸素交換をする肺の血流が途絶えるため、命に関わる病気になります。この病気を肺血栓塞栓症と呼んでいます。

肺血栓塞栓症を発症した際の日本人の死亡率は約15%と報告されており、命につながる重大な病気です。だからこそ注意が必要なのです。特に、喫煙をされる方や、震災で脚をけがされてあまり動かせないという方はリスクが高く、注意が必要です。また女性では、ピルを飲んでいる方や妊娠中の方は発症の危険性が高まります。高齢な方では、がんの治療中、ホルモン治療を受けられている方なども危険性が高くなります。リスクの高い病気であるため、予防が肝心です。

予防は?

最後に、血栓の予防にできることをまとめておきたいと思います。ロングフライトや車中泊、電車での長旅などに際しては、以下の対策が有効です。

・水分補給はこまめに行う

・痛めていない脚は座っている間もこまめに動かす

・時々ストレッチ、立ち上がって歩く時間を作る

・脚のマッサージをする

・弾性ストッキングと呼ばれる圧迫ストッキングを着用する(リスクが何も該当しない方ではここまでの対策は通常不要です。)

また、リスクが特別に高い方の場合には、ロングフライトに際して血をサラサラにする薬の投薬が必要になる場合もあります。パンデミックが終わり、旅行に出かけられる方も増えたでしょう。特に海外旅行などを計画されている場合には、この病気のことも少し頭の片隅に置いておいてください。

最後に

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