SaaS投資で有名なOpenViewが大規模レイオフと新規投資ストップの衝撃

2023年12月12日
全体に公開

12月5日に米ベンチャーキャピタル「OpenView Venture Partnersが、突如従業員の大半を解雇すると発表したことが明らかになりました

しかも今年3月に設立したファンドからは約20%しか投資していないにも関わらず、新規投資もストップしたのです。

SaaS企業への投資で注目を集めていたベンチャーキャピタル(VC)で何が起きていたのでしょうか。

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OpenViewは2006年に著名VC、Insight Partners出身のスコット・マックスウェル氏が米ボストンで設立して以来、7つのファンドを立ち上げ、総額約3500億円を運用しています。

特徴的なのはシリーズA〜シリーズC段階のソフトウェア(SaaS)スタートアップへの投資に特化していることです。

投資先には2019年にナスダックに上場したDatadog(データドッグ)、経費管理アプリのExpensify(エクスペンシファイ)、日程調整管理でユニコーンになったCalendly(カレンドリー)などがあります。

OpenViewが一躍注目を集めるきっかけになったのは、2016年にSaaS企業の新たな成長モデル「Product-Led Growth(プロダクト・レッド・グロース:PLG)」を提唱したことです。

2000年頃のソフトウェア企業はSalesforceを筆頭に営業組織を構築して、大企業に営業担当者が売り込みに行く、Sales-Led Growth(セールス・レッド・グロース:SLG)が一般的でした。

しかし、2010年頃からSlackやDropboxなどが中小企業、フリーランスなどもターゲットにB2Cのようにアプリを提供する事例が増加し始めました。

まずは無料トライアルでプロダクトを試してもらい、価値を感じたユーザーが有料顧客に転換する仕組みを構築するといったアプローチです。

代表的な事例がオンラインミーティングのZoomです。

誰でも無料でオンラインミーティングを開催することができ、初めて参加した人はその便利さから、その人もユーザーになる。そして、さらに便利に使うために有料課金をするといった流れですね。

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そんなOpenViewは今年3月に総額5億7000万ドルで、7番目のファンドの調達を完了。当初の目標は8億ドルのファンド設立だったため、約30%下回っているものの、ファンドレイズが困難な市場でも6番目のファンドから25%も大きくなりました。

これを受け、OpenViewは引き続きSaaS企業に積極投資していくと、期待が寄せられていた中、突然従業員大半の解雇と新規投資ストップが明らかになったのです。

この背景には主要メンバーの退職がありました。

現在のOpenViewの経営陣は、創業者のスコット・マックスウェル氏、ダニエル・デマー氏、ブレーク・バートレット氏、リッキー・ペレティエ氏・マッキー・クレイブン氏の5人です。

しかし、ファンドレイズが想定よりも上手くいかなかったことからか、2023年1月から11月までに少なくとも5名の主要メンバーが退社しました。

・リッキー・ペレティエ氏(パートナー)

・マッキー・クレイブン氏(パートナー)

・デボン・マクドナルド氏(シニア投資パートナー)

・サンジブ・カレヴァール氏(シニア投資パートナー)

・アンドリュー・キャメル氏(採用・マーケティング)

これはスコット・マックスウェル氏、ダニエル・デマー氏に続く、世代交代が求められていた中での出来事。サバティカル休暇をとっていたブレーク・バートレット氏が緊急で復帰し、暫定リーダーに就任することになったのです。

1月に退社したデボン・マクドナルド氏も10月にはアドバイザーとして復帰して、立て直しに動きました。

一般的にVCファンドではLP投資家はVCの特定人物が不在となった際に投資をストップさせる“キーマン条項”を結んでいます。

今回の場合、トップパートナーのうち、3人は留任しているため、キーマン条項の対象にはならず、LPも発表間際に知らされて驚いたようです。

それもそのはず、新ファンドからはわずか20%分しか投資していない状況で、新規投資を完全にストップ。それに伴い、約80人のメンバーの半数を解雇する決断をしたからです。

🍫ちなみに

OpenView側はLPに対して、「ファンドパフォーマンスの約束に向けて本当にコミットができるかどうかは不透明であるため、新規投資をストップさせる」と報告したのです。

Venture Capital Journalによると、一部のLPは「多くのVCは不安定な体制でも新規投資を行い、管理報酬を得ている中で、OpenViewが戦略計画を策定できるまで新規投資は一切行わない姿勢を示したことは非常に誠実である」と評価しているとのこと。

OpenViewは180日以内に戦略計画を策定することをLPに約束しています。

今後の方向性としては大きく3つが考えられます。

①LP投資家にファンドの残り資金を返金し、既存投資先の支援を行う
②新規投資は行わず、既存投資先への追加出資に限定する
③既存メンバーの昇格or新規採用で組織を立て直す

OpenViewはどのような戦略を策定するのでしょうか。

サムネイル画像:Unsplash/Osman Rana「OpenView Venture Partnersオフィス周辺の上空写真」

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