最終話:日本が世界のイノベーションのハブになるために必要なこと

2023年11月17日
全体に公開

このシリーズは今回で最終回となることを嬉しい(また寂しくもある)気持ちでお知らせします。合理的な区切りを迎え、わたしも読者の皆さんも次の段階に進むときが来ました。

この一年、日本がいかにして世界のイノベーションのハブへと変貌を遂げることができるかというわたしのビジョンをお伝えしてきました。ここで一度連載を終了し、これまでの記事の内容を整理し、さらなる調査研究をして、書籍を出版したいと思います。

わたしはこのシリーズで書いてきたようなことを実現させるために、できることをすべきという強い必要性と責任を感じています。この本は日本のために書きます。30年以上アメリカを離れ、わたしの第二の故郷となっている日本への感謝と愛着、そして日本の可能性を信じる気持ちを込めたものです。

すでにわたしはこの本で述べている考えが楽観的過ぎるという指摘を受けています。日本ではイノベーションは起こらないと言うのです。しかし、わたしはそうした批判は間違っていると思います。

そうした悲観論が生まれてくる背景には、日本人の多くが日本の文化がイノベーティブであると信じていないことがあるかもしれません。それ以外のことは他の国と同程度あるいはより良くできています。教育、物流、医療、精密製造、ファッション、文学、建築、食、野球等、例を挙げれば切りがありません。それなのに日本はイノベーションを生み出すことができないのでしょうか?それはおかしな話です。

日本のリーダーあるいは無知な人がよく口にするのは「日本は変わる必要がある!」ということですが、わたしはそれに対して「どうか変わらないでください!」と答えます。日本はほぼ間違いなく地球上で最も素晴らしい場所であり、価値観や文化も驚嘆に値するものです。これまで行ってきたことを続けてください。

わたしが提案しているのは、日本の最もイノベーティブな技術者やデザイナーが世界の最高のイノベーターとつながり、学び、成長していくための小さく特化したチャネルをつくることです。さらに良いことに、世界のリーダーたちは日本のイノベーターである皆さんとの出会いを求めているのです。

このシリーズの読者の皆さんに理解していただきたいのは、この記事の中心にあるのは、わたしがスタートアップやVC業界のエコシステムに35年間身を置いて教わり、培ってきた信念です。特に1995年に始まったカウフマン・フェローズのプログラムに参加していた頃を思い返すと、わたしは世界で最高の人たちの元で学ぶことができ、そこで得られた学びやプログラムの運営をしている人たちとのネットワークを活かす機会に恵まれました。

Sozoベンチャーズを創設し、スタンフォードの研究・教育センターの立ち上げに関わることができました。またこれらの関連する活動を通じて、幸運にも50カ国以上で有望なスタートアップの成長を推進する取り組みを支援させていただきました。

わたしはスタートアップのエコシステムの構築を促進することに関して、世界中で成功しているパターンを目にしてきました。まず小さく始めることと、次世代のスタートアップのリーダーを見つける際は「非常に厳しく」選ぶことが重要です。わたしがカウフマン・フェローズ、Endeavor、StartXで見てきたように、スタートアップのリーダーの周りに経験豊富な素晴らしい支援のネットワークをつくるのです。イノベーションは生き物であり、予測可能な速度で成長しますが、それは企業や政治のサイクルよりもずっと遅いのだということを認識し、辛抱強く取り組んでください。大きく、早く成功しようとしてはいけません。「イノベーション劇場」は避けましょう。

今回出版する本は、シリーズを通じて伝えてきたことに基づいて書きます。そして、この一年を通じてわたしの考えを皆さんに伝えたいと思った本来の動機の延長線上にあります。

日本との関係はわたしにとって、個人的にも仕事上でも非常に有益なものでした。わたしの2人の娘は日本のパスポートを持ち、2人とも日本に永住する可能性があります(1人はすでに永住しています)。過去10年、特にコロナ禍以降、わたしは日本の企業、その後日本政府も国内のイノベーションを推進することにとても積極的に取り組むのを見てきました。

一方、そうした取り組みの中で、世界中の他の国がすでに犯した一般的な間違えを日本も同じように犯しているのを目にしています。わたしはこれまでの経験やイノベーションの専門家のネットワークから得られた知恵やベストプラクティスをできる限り共有したいと思っています。

今年の7月25日に行った科学技術振興事業団(JST)とのイベントをきっかけに、この数ヶ月でSozoベンチャーズと政府関係者や教育関係者との対話がかなり活発になっています。同時にSozoベンチャーズのメンバーもわたしも、世界中のVC仲間の間で日本に対する関心が著しく高まっていることも実感しています。

ちょうど2週間ほど前、わたしはある主要省庁の官僚たちに冗談めかして次のように伝えました。「日本はイノベーション・ハブとして飛躍を遂げるでしょう。しかしそのために必要なことが1つあります。世界の他の人が日本の力を信じているのと同じくらい日本人が自分たち自身の力を信じることです。」

わたしが心の底から願っているのは、実証された専門知識をこうして集約し共有することで、それらが日本で根付きイノベーションが花開くことなのです。

(監訳:中村幸一郎(Sozo Ventures)、翻訳:長沢恵美)
(図版:Unsplash/Louie Martinez)

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