月の土をバクテリアで改良する

2023年11月15日
全体に公開

月を天然資源の開発や宇宙探査の拠点にするために、常設の有人月面ステーションを建設することには現実性があります。そして、地球から離れた月面や火星上のステーションという閉鎖された場所で、水や空気を確保し、食料を生産できるようになることは重要です。

食料となる植物の栽培には、水耕栽培システムまたは地球土壌が必要となります。 しかし、地球の土を月まで輸送するには多大な費用が必要となります。そこで、植物の栽培のために、月面にある細かい粒状風化物、つまり月のレゴリスを利用するというアイデアがあります。

月のレゴリスにおける植物の成長に必要な元素の組成は、地球の土壌の組成とよく似ていることが示されています。 しかしながら、月のレゴリスには有機物が含まれないほか、ほとんどの元素が植物に吸収されにくい不溶性の形になっています。

中国農業大学のチームが、11月9日付けのCommunications Biology誌に模擬月レゴリスとして用いた火山由来の物質に、3種類の細菌を添加すると、植物が利用できるリン酸塩の量が増加することを発表しました[1]。

Xia, Y. et al. (2023) Phosphorus-solubilizing bacteria improve the growth of Nicotiana benthamiana on lunar regolith simulant by dissociating insoluble inorganic phosphorus. Commun. Biol. 6, 1039. https://doi.org/10.1038/s42003-023-05391-z

チームは、当初、Bacillus mucilaginosus、Bacillus megaterium、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Pseudomonas fluorescensの5種類のリン可溶化細菌(phosphorus-solubilizing bacteria 、PSB)を試しました。その結果、特に、Bacillus mucilaginosus、Bacillus megaterium、Pseudomonas fluorescensの3 種類の細菌すべてを添加すると土壌サンプルがより酸性になり、土壌中の不溶性リン酸塩含有の鉱物が溶解し、リン酸が放出され、植物が利用できるようになりました。

Nicotiana benthamiana(ベンサミアナタバコ)を植えて処理土壌を直接テストしました。 この強化された土壌により、未処理のサンプルと比較して、より丈夫な根、より長い茎、より大きな葉を備えた植物が生産されることを発見しました。

https://doi.org/10.1038/s42003-023-05391-z

これにより、月のレゴリスをこれらの細菌で処理することで、高等植物の優れた栽培基質となることが実証されました。将来の月面基地において月のレゴリス資源に基づいた植物栽培に利用できるのではないか、ということです。

[1] Xia, Y. et al. (2023) Phosphorus-solubilizing bacteria improve the growth of Nicotiana benthamiana on lunar regolith simulant by dissociating insoluble inorganic phosphorus. Commun. Biol. 6, 1039. https://doi.org/10.1038/s42003-023-05391-z

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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