DAOの崩壊と再建

2023年10月24日
全体に公開

はじめに

この記事では、Web3の分野で提唱された DAO (自立分散型組織)という新しい組織形態を参考に、「誰もがプロダクトを通して価値を創れる」ようになることを目指すPM DAOの組織作りの挑戦や失敗、そこから得た学びについてお話します。

自己紹介と背景

こんにちは、初めまして、PM DAOファウンダーのkazuki(@kzkhykw1991)です。

2021年2月に、PM DAO (プロダクトマネジメント DAO)を立ち上げました。

遡ること数年前、私は2018年からSalesforceのAI製品のプロダクトマネージャーやプロダクトマーケティングマネージャーとして、グローバルでの刺激的な環境を経験し、プロダクトマネジメントの可能性に惹かれていました。

日本でのプロダクトマネジメントの興隆

ちょうどその頃から2020年にかけて日本でも「プロダクトマネジメント」という職種や考え方が話題になりました。当時は、エンジニア文脈による開発手法の話だったり、新規事業開発やビジネス企画 (BizDev)などのビジネス文脈、またプロジェクトマネジメントの話が主流でした。

しかし大規模なイベントやコミュニティが立ち上がり、書籍も発売され、企業研修やオンラインの学習コンテンツが流行し、盛り上がりを見せていました。

その一方で、米国を中心としたグローバルでのプロダクトマネジメントと比較すると、まだまだ発展途上で(と言うと偉そうですが、改善の余地が十分に)あることに気付かされました。

特にスタートアップや、大企業での新規事業開発においては、グローバル基準のプロダクトマネジメントを取り入れることで、新しい価値を創造することができると考えました。そのためには、限られた学びの場や偏った考え方ではなく、さまざまな視点を持ったより実践的でオープンな学びと挑戦の機会が必要と感じたのです。

Web3とブロックチェーンの興隆

時を同じくして台頭したのがWeb3の第一次ブーム(第二次が来ることを期待しています)

ブロックチェーン技術がもたらす新しい金融の仕組みや、ゲームやアートといったエンタテイメント分野でのNFTの発展とともに、新たな組織ガバナンスモデルとして注目されたのがDAO (自立分散型組織)でした。

Web3全般では、中央集権的なプラットフォームやサービスに依存せずに、個人がインターネットの価値と所有権をコントロールできる新しいインターネットのパラダイムを提供することを価値としています。

DAOも分散型の組織を実現しようとする仕組みであり、中央集権的な人や組織に依存せずに運営されることを目指しています。参加者の合意に基づいて意思決定が行われ、透明性と信頼性が確保されるというコンセプトです。

代表的な例として、BitcoinもDAOの原則に基づいて運営されており、ネットワーク上の参加者の力によってそのシステムが支えられています。

他にも、Nouns DAOでは毎日1体のNFTが永続的に生み出され、オークションによって販売されるというシステムを作りました。オークションで落札されたNounsの収益が全てDAOのトレジャリーに保管され、 NFTホルダーによってその活動資金を使用する提案や承認が可能です。

一方で、新しい技術や組織モデルには必ずリスクや課題が存在し、それを無視することはできません。透明性、公平性、効率性、セキュリティ、コミュニティや体験設計にはいまだに正解がなく、持続可能なDAOモデルは不可能なのではないかとも言われています。

この記事ではビジネスにおける持続性や収益性、偏った投票権や悪意のある参加者による行動、市場価値と投資評価の正当性などが挙げられています。

PM DAOの創設

プロダクトマネジメントの話に戻します。

2020年頃の日本の現状を踏まえ、グローバルなプロダクトマネジメントの実践と共有を促進することができないかと考えていました。

その時描いた夢の世界では、プロダクトづくりに関わるあらゆる知識が解放され、あらゆる人々に共有され、プロダクトマネジメントという考え方に基づいて行動することで、誰もが価値を生み出すことができるというものです。

そこには、多様な背景とスキルセットを持つ人々が自由に集まり、実践を通して知識や経験を共有することで、革新的なアイデアとソリューションを生むための仕組みが作れる、と考えました。

この信念に基づいて、2021年2月に、PM DAO (プロダクトマネジメント DAO)を立ち上げました。

当時のnoteの記事

「誰もがプロダクトを通して価値を創れるように」

PM DAOの目的は明確です。それは、プロダクトマネジメントのナレッジを解放し、実践の機会を均等に提供し「誰もがプロダクトを通して価値を創る」ことができる世界です。

この新しいエコシステムで、プロダクトマネージャー、デザイナー、開発者、新規事業企画者、ビジネスリーダーは、知識とスキルを自由に共有し、体験を通して学び合うことができます。

そこには会社のような雇用関係や指揮系統、またコミュニティのような学びだけの場ではない、価値づくりのための開かれた場所があるべきと考えました。

最初の半年間

PM DAOの創設から半年が過ぎる中で、私たちは組織として多くの学びを積み重ねました。この期間は、DAOとしての基盤の検証、コミュニティの成長、そして実際のプロダクト開発と貢献のための仕組みの構築に焦点をあてました。

以下が取り組み例です。

  • タスクのバウンティプログラム
  • 仮想通貨によるタスクへの報酬支払い
  • PM DAO NFTとPM DAOトークンの発行
  • NFTの配布やトークンの報酬
  • NFT保有者に限定したプライベートコミュニティ
  • 記事を投稿することによる、Writing to Earnの仕組みづくり
  • 活動に関する提案の受け入れと投票システム

これらの活動は、PM DAOという組織がどのように”DAO”になれるのか?という、今見ると”DAO”という組織形態への憧れが先行したHowを目的としたものでした。

並行して、どうすればプロダクトマネジメントを誰もが行うことができるだろうか?という問いに対して、学習コンテンツの作成や、学習サービスの開発、壁打ちやコーチングの仕組みも実践していました。

これらの活動は、設立当時から現時点に至るまでも、 PM DAOは"pre-DAO"のフェーズにあります。つまり、将来的なDAOへの移行を目指して、組織基盤やプロセスの検証、コミュニティを通した人の流入やコミュニケーションの促進、アイデアの創出やブランド認知度の向上、成果報酬モデルやビジネスモデルの検証をしている段階であり、 これはDAOではないというご指摘もごもっともです。

DAOの崩壊

検証という建前を持ちつつも、組織として成り立たせるために多くのことを行いました。

例えば、Twitterとnoteでの積極的な発信、Discordでの毎週のAMA(Ask Me Anything: なんでも聞ける会)を通じた、人々の交流や流入。これにより、20人弱のさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まり、それぞれが役割を名乗り、組織のためにやるべきだと考えた活動を提案し、自らタスクを実行し、共に何か価値あるものを創り上げようという熱量がありました。

しかし、その熱量は時間と共に褪せていきました。半年の節目を迎える頃、メンバーの参加率が目に見えて低下。毎週恒例となっていたAMAは、形骸化し、私が一方的に話す場と化していました。

新規参加メンバーの定着率は10%ほどに落ち込み、2021年12月、PM DAOは形としては存在していたものの、その実体は失われ、NFTやトークンを使った仕組みも形だけがそこにあるだけで、風化していきました。これは、いわばDAOの崩壊でした。

私と個人的な繋がりのある初期のメンバはが残るものの、新規メンバーはほとんどいなくなり、連絡が取れなくなりました。

「誰もがプロダクトを通して価値を創る」ことができる世界という大きなビジョンはあったものの、戦略や行動指針、それを具現化する具体的なプランと行動、コミュニケーションの不足、わかりやすい指揮系統、日々の活動の目的が共有されず、明日何をするかが分からず、DAOの存在意義が曖昧になっていたのです。

これは、スタートアップや新しいプロジェクトが直面する典型的な課題であり、組織作りにおけるコミュニティマネジメントと参加者のエンゲージメントの重要性、そして明確なガイダンスとリーダシップの不可欠さを、痛感させられる出来事でした。

再建への道

2023年。新しい年が始まり、PM DAOは方針転換(方針の明確化)を行いました。組織としての再建を目指し、2023年のビジョンを"プロダクト主導型DAO (Product-led DAO)"として掲げました。

これは、個々のメンバーが明確なプロダクトという目標に向かって具体的に貢献できるようにする、新たな方針です。

過去の活動を見直し成功した活動と、失敗した活動を考え直しました。実践的学習、コラボレーション、新たな価値創出の3つの価値は魅力的であり、人々を惹きつけ引き続きPM DAOの核となる要素だと考えました。一方で、組織としての戦略の不透明さ、特定の人への依存、日々の活動の具体性などは、改善する必要がありました。

そこで、Product-led DAOという新しい組織形態を提案し、PM DAOを作り直すことにしたのです。

Product-led DAO(プロダクト主導型DAO)

新たな方針である Product-led DAO では、プロダクトが組織の中心にあります。個々のプロダクトが、人々の興味を惹き、実践的な学びの場所として、誰もが自由に貢献でき、そこで活動した人々がまた新しいプロダクトを生み出すという、循環するモデルです。

これにより、個々のプロダクトを成功させるというわかりやすい目的が生まれ、プロダクト作りをする中で指示を出す人やマネジメントをする人が生まれ指揮系統が明確になり、コントリビューターのスキルや経験を自由に活かせる場を作り、中級者は実践的に学び、初学者はそこでのプロセスや成果物を観察する立場として学ぶことができます。

そして結果的に、1から4の人の行動変容が生まれて、持続的なプロダクトづくりの場と実践環境を作れるのではないかと考えています。

生成AIサービスの開発で見る成功パターン

このProduct-led DAOの循環モデルに基づいて成功したプロダクトが生成AIサービス Value Discoveryです。

これは、ChatGPTが公開された2023年3月に、これまでPM DAOで検証をしていたプロダクトの仮説検証プロセスを支援するサービスValue Assessorを生成AIの力で大幅にバージョンアップしたサービスです。

サービスとしてもリリースからわずか半年で2,000人の国内ユーザーを集め、他にも企業様からのコンサルティングの依頼や、実践女子大学様での講義への導入、高知県須崎市でのワークショップなどの新しい可能性を生むことができました。

それだけでなく、Product-led DAOの循環モデルの1から4を以下のようにうまく回すことができました。

実際にこのモデルに沿って貢献を行ってくれたメンバーが発信をしてくれています。

実務経験の少ない Hasegawa は初学者のプロダクトマネージャーとして貢献し、そこでの学びを「会社員がDAOで活動する理由」として書いてくれています。

また、UIデザイナーやUXリサーチャーとして立ち上がる様子を yiping も「実務経験なしでのUIUXの実践」を発信してくれています。

このようにサービスの成功だけでなく、PM DAOとしての実践的な学びの場を作るための循環モデルをうまく回すことができた成功パターンを見つけることができました。

おわりに

現在、PM DAOでは、魅力的なプロダクトには人が集まるという考えのもと、明確なビジョンとタスク、そして熱意あるチームによってプロジェクトが推進されるようになりました。

その結果、5つを超えるプロダクトと、10名以上のコントリビューターが日々活動をしています

これをさらに複数のプロダクトで並行して再現することが、PM DAOの更なる発展のカギとなると考えています。

これらの小さな成功パターンや、大きな失敗を踏まえて、Culture Deckを制作し、PM DAOで活動する意義や意味、日々の行動指針などを言語化するとともに、より多くの方に参加していただけるような場所づくりを目指しています。

Product-led DAOという考え方は、まだ「絵に描いた餅」に過ぎず、仮説検証や実証実験、参加したコントリビューターの声を聞きながら、日々改善し模索しながら、より良い形を目指しています。

DAOという新しい組織への挑戦と、失敗から得た学びは、みなさまが所属する一般的な組織やコミュニティでも参考にしていただけると思います。

PM DAOでの活動に興味のある方がいたらぜひDiscordコミュニティや X(Twitter)をフォローしてみて下さい。

https://x.com/pmdao_official

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