DAOの成り立つ前提:マネジメントコスト最小化と汎用AI

2023年9月15日
全体に公開

分散型自律組織(以下、DAO)というのは中央集権的な管理者の存在しない、ブロックチェーン技術を利用した新しい形態の組織を指します。

しかし、現実にはそのような自律性を持ったDAOはほとんどありません。DAOという思想の魅力は私も感じているところですが、なぜその理想のDAOが少ないのでしょうか?

この記事では、「DAOが成り立つ前提」について探求していきます。また関連して、私の所属しているPM DAOでの AIエージェントの取り組みについて紹介し、DAOを実現するためのDAO AIについて考えていきます。

はじめに

自律組織(DAO)は言葉こそ最近生まれたものですが、ブロックチェーンを使った金銭的な報酬系以外の側面では、類似の組織はたくさんありました。例えば、少人数の優秀なスタートアップは指示命令系統がなくても有機的に連携し、各々がやるべきことを見つけて完全に自律して動きます。

しかし、テクノロジーの力を借りて金銭的な報酬系も用意したDAOが必ずしも成功しているわけではありません。多くのDAOは意思決定に人間が必要で、活動が不定期だとコミュニティは過疎地域化しがちです。つまり、良いコンセプトを打ち立てて、普通に活動しているだけではDAOはうまく機能しないのです。

DAOが成り立つ前提

「ではDAOが成り立つための前提条件は何だろう?」という疑問が湧きました。前提を考えるために、DAO以前から自律組織として成り立っていそうな集団の共通点から以下のように考えられます。

・メンバが高い生産性を持ち、状況に柔軟に対応できる

・活動の意義が共有されている

・組織目標に対する強いパッションを持っている

他にも色々ありそうですが、一旦ここで区切っておきます。

これらの特徴に解釈を与えるなら、「低いマネジメントコスト」が自律組織の成功に必要な前提だと言えそうです。これはBitcoinやUniswapといった多人数が参加しているDAOがうまく機能していることとも矛盾しません。

さて、マネジメントコストを下げるにはどうすれば良いのでしょうか? 詳細を考えて行くために、まず、通常の組織の人のマネジメントを考えていきます。

Productivity

通常の組織のマネジメントとDAOの違い

ここでは単純化のために、新しい人が組織に入ってきたときを想定して考えてみたいと思います。新メンバーが組織に参加する際、通常の組織ではオンボーディング、メンタリング、日々の相談、アウトプットのレビューなどのサポートが必要です。この記事の中では、(乱暴ではありますが)こういった人の管理にかかわるものをまとめてマネジメントコストと呼ぶことにします。通常の組織では人材の流動性が低いため、このコストは予測可能で、人件費や工数に反映されます。

一方で、流動性が高いDAOでは、同じことをするとマネジメントコストが高くなる可能性があります。そのため、DAOを運営するために、人の流動によるマネジメントコストをできるだけ下げていく必要がありそうです。

ではどうやってDAOにおけるマネジメントコストを下げていけばいいのでしょうか? 私はその一つの答えがDAOの情報や理念をもとにファインチューニングされた汎用AIなのではないか、と考えています。

人の流動によって生まれるマネジメントコスト

DAOにファインチューニングされた汎用AI

目指すのは、昔から存在した自律的な人たちによるマネジメントコストが最小の組織ですが、世の中にそういう人はほとんどいません。一方で、AI技術革新により、人間の自律性をサポートし、また相談相手にもなるパートナーとして汎用AIを使うことができるようになりました。

このコンセプトを発展させ、DAO専用にファインチューニングされたAI(以下、DAO AI)が組織のマネジメントコストを小さくできると私は考えています。DAO AIはメンタリング、アウトプットのレビュー、専門的な助言など、それまで人間が行っていた業務を代行できます。

また、もう少し見方を変えて見ると、DAO AIは組織のビジョンやミッションを体現し、組織の代弁者としても機能できる可能性があります。他方で、組織における人間の役割は、マネジメントが極小化され、実際に手を動かすプレイヤーと、その自律性が正しい方向に向かっているかを見て調整するスーパーバイザー(監督者)としての役割に集約されていくでしょう。

組織のマネジメントコストを小さくするAI

PM DAOでのAIエージェントの導入

PM DAOではDAO AIの走りとして、 質問応答型のAIエージェント(α版)を導入し、メンバーがいつでもPM DAOについての疑問を解消できるようにしています。このAIエージェントはPM DAOの公開記事や内部ドキュメントをデータソースとしており、現行プロジェクトやおすすめの活動についても案内できます。

現在のところはQ&Aがメイン機能になっていますが、今後データソースの拡充や開発によってコーチングやメンバーのエンゲージメント向上などもできるようになってくることで、DAOとしてのマネジメントコストが下がり、真の自律組織に漸近していくことでしょう。

これまでは人間にしかできなかったマネジメントの仕事の一部が、すでにAIによって代替され始めています。この流れは今後加速して行き、全く異なる組織形態を生み出して行くと思われます。DAOはある意味で、生成AIやブロックチェーンといった技術の発展を背景とした、マネジメントも含めた組織のイノベーションと言ってもいいかもしれません。

さて、このような組織のイノベーションが起きることによって、これからどのようなことが起こっていくのでしょうか?

PM DAOのAIエージェント

DAO AIが導く流動性のある世界

DAO AIの導入は、組織のマネジメントコストを下げるだけではなく、そこに参加する人たちにとってもエントリーのハードルを下げます。

通常、DAOに興味を持って参加した場合、人手でオンボーディングするプロセスには早くて数日程度かかります。一方、DAO AIによっていつでも簡単に組織への出入りが人手を介さないようになると、人の流動性は一気に高まっていくでしょう。

プロジェクトベースやプロダクトベースのDAOも増えていき、複数のDAOに同時に所属して活動する人も増える可能性があります。現在とは異なる労働の形が広がっていく、そんな未来があり得るかもしれません。

さいごに

以前は個々の才覚によって小規模な自律組織が成り立っていましたが、テクノロジーの発展によってこの敷居は随分低くなりました。一足飛びにDAO AIができなくても、これからDAO向けAIサービスも増えていってマネジメントコストが下がっていくことによって、より分散型で自律的な働き方もしやすくなって行くでしょう。

この状況を一歩引いて見ると、マネジメントが必要だという組織の前提が、汎用AIというテクノロジーの発展によって揺らいできたとも捉えることができます。前提条件が揺れ動く中で正しい道を進むためには、目指す目標が明確であることが大切です。テクノロジーを抜きにして、組織が目指すものが何なのかを見定め、再定義し、更新していくことがDAOの成り立つ条件の本質なのかもしれません。

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