生成AI時代のエクスペリエンス・デザイン - 8つの領域で見るAIのインパクト | タスク・プロセス編

2024年3月25日
全体に公開

はじめに

生成AIの台頭により、ビジネスのあり方や体験づくりが大きく変わろうとしています。ただ、どのように生成AIの性質や変化を捉えて社会実装すればいいのか、多くの企業さんから悩みを聞きますその全体像を体系的に捉えるフレームワークの1つとして、「生成AI時代のエクスペリエンス スコープ」を紹介します。本記事では、このフレームワークに沿って、AI(おもに生成AI)がもたらす変化の可能性と活かし方について説明していきます。

タスク・プロセス・体験・モデル

人間の活動というのは、小さなタスクから始まり、それらが集まってプロセスになっていきます。そこに何らかのインターフェイスやタッチポイントが加わると、体験として認識されるようになります。さらに、お金やロジスティックスが絡んでくると、サービスやビジネスモデルになっていくのです。

一般化した設計難易度

「生成AI時代のエクスペリエンス スコープ」とは?

先程のフレームワークに、縦軸としてAIの統合度を加えてみました。下の方にある「機能的補助」というのは、作業的な支援ツールや、既存のモデルにおける運用上の改善といったものです。一方、上の方にある「スキル/構造変容」は、AIを活用して新しいスキルや構造を生み出すことを意味しています。

このフレームワークを「生成AI時代のエクスペリエンス スコープ」と名付けました。

生成AI技術の進展が、ビジネスプロセス、作業効率、体験、およびビジネスやサービスモデルにどのような影響を与えるかを示しています。

・縦軸:「AIの統合度」を表し、機能的補助〜スキル/構造変容

・横軸:「タスク」「プロセス」「体験」「モデル」

これらのマトリクスによって、AIの影響を8つの領域に分類することができます。次に、レイヤーごとの各レイヤの概要を説明しましょう。

各領域の概要

タスクレイヤー:

  • 作業支援ツール(機能的補助) - メール作成やコーディングなどの基本的タスクを自動化
  • セカンドブレイン(スキル/構造変容) - 戦略計画や複雑な問題解決のプロセスにAIを統合し、意思決定や創造性を拡張

プロセスレイヤー:

  • 効率化・自動化(機能的補助) - データ処理や分析の自動化により、既存プロセスを高速化・効率化
  • フレームワークの創造(スキル/構造変容) - 既存のプロセスのアプローチを根本から変容

体験レイヤー:

  • UX・UIの強化(機能的補助) - 商品登録補完や検索パーソナライズなど、既存UX、UIを強化
  • 意味の創造(スキル/構造変容) - 新サービスを通じてライフスタイルや文化的価値に影響

モデルレイヤー:

  • 運用上の改善(機能的補助) - 物流最適化や需要予測による日々の運用改善
  • 戦略的な変容(スキル/構造変容) - 新ビジネスモデル・サービスにより産業の再定義や既成概念への問いかけ

今回は、「タスクレイヤー」、「プロセスレイヤー」について具体例を踏まえて詳しく説明していきます。

タスクレイヤー

作業支援ツール(機能的補助) -
メール作成やコーディングなどの基本的タスクを自動化
  • Gmail の Smart Composeはメール作成時に文章を自動補完しました。そして今では生成AIによってメール作成が大幅に支援されています。

SUBJECT: Write emails faster with Smart Compose in Gmail
SUBJECT: Write emails faster with Smart Compose in Gmail
AI と Google Workspace の新しい時代
  • GitHub Copilot: コードの自動生成により開発者のスキル補完や生産性を向上。
Github Copilot official site

セカンドブレイン(スキル/構造変容)
- 戦略計画や複雑な問題解決のプロセスにAIを統合し、意思決定や創造性を拡張

Mem.ai:AIを活用したノートアプリです。いくつか主要な機能をあげると...

Mem.ai[https://get.mem.ai/]
  1. 断片的な情報をAIが解析・リンクさせることで、知識を整理・拡張する
  2. ノートの取り込みや関連情報の探索により発散的思考を促進し、知識の結びつけによって収束的思考を支援する
  3. 高速検索や非線形の知識整理により、アイデア創出に適した「拡張された脳」として機能する

個人の知識を体系化し、創造的思考を強化するための仕組みを提供しています。

Ai Agentはユーザーが設定した目標に基づき、自動的に選択を行い、タスクを実行するウェブアプリケーションです。複数のAIエージェントが同時に稼働し、目標を小さなタスクに分割し、それらを一つずつ完了していきます。

Ai Agent [https://aiagent.app/]

市場調査、競合分析、社内データの分析、戦略立案やビジネス決定のためのレポート作成をし、意思決定や問題解決に役立ちます。

プロセスレイヤー

効率化・自動化(機能的補助)
 - データ処理や分析の自動化により、既存プロセスを高速化・効率化

UserTesting:ユーザーテストの実施・分析を自動化するプラットフォーム。ユーザーの行動や感情を分析し、インサイトを抽出します。従来は人間が行っていたプロセスを代替していると言えます。

User Testing
User Testing

フレームワークの創造(スキル/構造変容)
- プロセスのアプローチを根本から変容

Value Discovery:アイデアを入力するだけでそのユーザー仮説を逆引きして得ることができます。 仮説は1枚のキャンバスとして得られるので、キャンバスをチームに共有して仮説検証に活かすことができます。

アイデア入力画面
Value Discoveryで出力した仮説のキャンバス

なぜ、「Value Discovery」がプロセスを変容させていると言えるのか、少し詳しく説明します。

従来のプロダクト開発では、まずユーザーの課題やニーズ、求めるアウトカムなどを仮説として設定し、それに基づいてプロダクトのアイデアを具体化していきます。いわば、上流(ユーザー仮説)から下流(プロダクトアイデア)へと設計が流れていくのが一般的です。ただ、ユーザー仮説の設定や探索自体が難しいのが現状です。

このプロダクトは、アイデアを入力すると、生成AIがそのアイデアを理解して、可能性が高いユーザー仮説を生成してくれるのです。つまり、下流(プロダクトアイデア)から上流(ユーザー仮説)への逆解析が可能になります。

この点では、プロセスが逆転しているともいえます。この逆算的アプローチは人間では非常に労力がかかるほか、経験値が高い人ではないと難しいのではないでしょうか。

リバースエンジニアリングアプローチ

これによって、アイデア発案のハードルが下がり、より多様なアイデアを本質的に検討できるようになります。また、アイデアとユーザー仮説のマッチングが素早く行えるため、プロダクト開発のスピードアップにもつながります。

おわりに

生成AI時代のエクスペリエンススコープ

生成AIを利活用してユーザーに価値のある体験を提供するためには、AIのインパクトを多角的に捉えることが重要です。今回は、生成AIが及ぼす影響として個人レベルで想像しやすい「タスク」および「プロセス」レイヤーについて説明してきました。今回説明を省いた、「体験」や「モデル」レイヤーについては、自身のnoteX(旧:Twitter)で詳しく触れる予定です。

https://twitter.com/shoty_k2

生成AIを活用した新たな価値創造に挑戦する全ての人に、このフレームワークが参考になれば幸いです。


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