SmartHRに先駆けるHRテック、米Gustoの成長ストーリー
日本を代表するHRテック・スタートアップ「SmartHR」が、海外投資家を惹きつけるにあたって、類似企業として挙げていたスタートアップがあります。
それは、米「Gusto(ガスト)」です。
Gustoは2015年時点でユニコーンになっていたことから、「Gustoの日本版」と表現することで、Sequoia(関連ファンドがSmartHRの株主)を始めとする投資家はSmartHRの事業を理解しやすくなったんです。
今回はそんなGustoの成長ストーリーに迫ります。
☕️coffee break
Gustoは2011年に「ZenPayroll」として設立されました。
社名からわかるように、煩雑な給与計算を自動化するソフトウェアの提供から、スタートしました。当時、中小企業の40%がエクセルやグーグル・スプレッドシートを手動で更新しながら、数時間〜数十時間かけて給与計算をしていました。
それが、数字を入力して、数クリックすると、わずか数分で完了。シンプルな価値提供から始まりました。
当初はアクセラレーターのY Combinatorに採択されたことで、ネットワークを活用して口コミで顧客を獲得していました。
次に取り組み始めて、現在の規模までに成長させた施策が大きく2つあります。
そもそも中小企業にとっては新たなサービスを導入するハードルが高い。ましてや、ほとんど活用したことがないソフトウェアサービス。
そこで、営業チームは設けず、インバウンド営業の仕組みを構築したんです(顧客から興味を持ってアプローチをしてもらう)。
まずは、給与に特化したブログ「TalkShop」から、顧客獲得を狙いました(サービスの拡大に合わせて現在は幅広いコンテンツを提供)。
社員だけでなく、外部の専門家や作家など、あらゆる職業・経歴を持つ人に中長期的な需要があるコンテンツを執筆してもらい続けました。
その結果、オワコンと言われていたブログコンテンツで、現在約109万アクセス以上/年と、競合他社を圧倒するブログを運営しています。
給与コンテンツを提供
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無料ユーザーを獲得
↓
給与計算業務を行うメンバーが有料ユーザーに転換
↓
アカウント数の増加やさらなる機能利用で単価上昇
また、多くの中小企業では給与処理や、給与税の算出で外部の会計事務所に頼っています。
そこで、会計士向けにGustoの紹介資料、トライアル・アカウントを付与して、顧客紹介がしやすい仕組み「パートナープログラム」を作りました。
日常業務で付き合いのある会計士から紹介されると、より導入しやすいというわけです。
会計士にとっても顧客を紹介すると5〜20%の収益分配を受けられる他、人事の認定資格トレーニングも提供されているため、会計事務所の収益・事業拡大につなげることができるんです。
現在では14,000社以上の会計事務所がパートナー企業になっており、新規の給与計算サービスの導入だけでなく、既存サービスからの乗り換えも後押ししています。
🍪もっとくわしく
2015年9月にはZenPayrollから、Gustoにリブランディングして、給与計算からHRプラットフォームへの進化に動きます。
給与計算だけでも急成長している中、人材管理・福利厚生へと拡大して潜在市場が大きくなったことで、2015年12月のシリーズBで評価額が10億ドルとなり、ユニコーンとなりました。
以降も資金調達を重ね、2022年の調達後企業評価額は96億ドル(約1.4兆円)と、デカコーン級(評価額100億ドルの企業を指す)となっています。
現在のサービスは大きく3つで、100以上の機能を提供しており、直近の顧客数は30万社超えとなっています。
Gusto有料アカウントのデモページ:https://gusto.com/explore-demo/start
- 給与
→給与計算、給与支払い(120カ国以上に対応)、給与明細管理、給与税、税額控除管理
- 人事
→勤怠管理、採用管理、オンボーディング、人材管理
- 福利厚生
→健康・医療・労災保険、確定拠出年金(401K)、個人の貯蓄・予算管理
当初は給与計算からスタート→HRプラットフォームへと拡大したことで、Gusto上で作成されたデータを活用して、次々と新たな機能を開発。単一サービスの提供からプラットフォーマーへと進化をしたのです。
そして、今年6月には驚異的な成長を遂げていることが明らかになりました。
2021年度の収益は2億6000万ドルと推定されていました。
それが、2022年度の収益は5億ドルを超えたこと、今後数四半期でフリーキャッシュフローがプラスになることがわかったんです。現在の規模になっても高成長を遂げているのです。
Gustoのジョシュア・リーブスCEOは2021〜2023年のIPOを計画していると、かねてから発言してきました。
9月に入ってから、Arm(上場時時価総額540億ドル/約8兆円)、Instacart(99億ドル/約1.4兆円)、Klaviyo(92億ドル/約1.3兆円)と、相次いで大型IPOが行われました。
3社とも上場日の需要は活況で、IPO市場は回復しつつあることがわかります。今後の市場次第ではGustoも早期のIPOに動くのではないでしょうか。
🍫ちなみに
9月に入り、Gustoにとって非常に大きな事業提携が結ばれました(CNBC報道)。
JPモルガン・チェースとの提携です。
これにより、JPモルガンはGustoの給与計算ソフトウェアを導入するだけでなく、顧客として抱える中小企業500万社以上への拡販にも動くというのです。
給与計算・管理だけでなく、政府・地方自治体への税務申告手続きなどもパッケージ化して提供しているGustoは中小企業に大きな価値提供ができると考えたのでしょう。
直近評価額96億ドルで、さらなる成長に向けた原動力を見つけたGusto。いつ、どれくらいの規模のIPOとなるのか、注目が集まっています。
サムネイル画像:Gustoのサイト
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