ゼロからわかる アルツハイマー病と新薬3つの課題

2023年8月23日
全体に公開

日米の製薬会社が共同で開発したアルツハイマー病の新しい治療薬について、厚生労働省の専門家部会が21日夜、使用を認めました。認知症の原因物資を取り除く初めての治療薬として期待され、早ければ年内にも患者に使われる見込みです。

承認されたのは、日本の製薬大手「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同で開発した薬「レカネマブ」です。

このニュース、最初にアルツハイマー病のカンタン解説と新薬の効果、次に新薬が抱える3つの課題、最後に今後の見通しという順に見ていきましょう。

新薬レカネマブ/エーザイ

アルツハイマー病と狙う効果

アルツハイマー病は、ドイツのアルツハイマー博士が1906年、50代の認知症患者への診断から発表した(後に名付けられた)病気です。認知症の中で最も多く、全体の6割から7割と考えられています。

記憶を司る脳が「萎縮する=小さくなる」ことで、物忘れに始まり、次第に日付や自分のいる場所がわからなくなり、妄想や徘徊の症状にもつながります。時間の経過とともに症状が重くなると、家族らの顔もわからなくなり、入所や寝たきりになることがあります。

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原因の一つに、アミロイドβというタンパク質が脳内にたまって、神経細胞を死滅させると推測されています。

このアミロイドβは「脳にたまるゴミ」とも言われ、今回の新薬「レカネマブ」は、このゴミを取り除くことで、認知機能の低下が進むのを抑える効果を狙っています。

約1800人が参加した国際的な臨床試験では、1年半に及ぶ投与で、記憶力や判断力の悪化が27%、偽の薬よりも抑えられたといいます。

一方、症状が進んだ人への効果は確認できず、薬が対象とするのは、生活に支障が出始めた軽度と認知症の前段階の人たちに限られています。

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新薬が向き合う3つの課題

次に新薬が向き合う3つの課題です。

1つ目は、体への負担と副作用です。

治療は2週間に1度の病院での点滴(静脈注射)で、脳のむくみや出血などの副作用が報告されています。

日本に先立ってアメリカでは7月に正式承認され、保険適用も決まりましたが、「まれに生命を脅かす重要な事案が発生することがある」と警告されています。

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2つ目の課題は、治療の前段階の検査で地域格差があることです。

患者は「アミロイドβ」が溜まっているかを確認したり、MRI検査を受けたりする必要がありますが、どの施設でもできるわけでなく、医療機関や自治体の連携が不可欠とされます。

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最後に3つ目の課題は、高額な薬の値段と保険財政への負担です。

米国では年間に約384万円に設定されました。一方、日本では患者の窓口負担は1〜3割程度ですが、高額になれば支払い不要や払い戻しの制度もあります。新薬の利用が拡大すれば、国全体の保険財政の負担が重くなるため、ルール作りが特別に検討されています。

後続の薬もイギリスで保険評価に

最後に新薬登場の評価、そして今後の見通しです。

認知症の治療薬開発はこれまで20年以上、失敗が繰り返されてきたといい、大きな転換点とされます。

今回のエーザイの「レカネマブ」と同じ仕組みで働く新薬も最近、アメリカの製薬会社イーライリリーが開発、臨床試験の結果が公表されました。そしてイギリスの規制当局がすでに、保険適用に向けた評価を始めました。

こうして後続の薬が登場したり、薬の使用が実際に広がったりすることで、薬が実際に有効なのかが測られ、研究や開発おmさらに進むと見込まれています。

脳に溜まるゴミ「アミロイドβ」は20年以上かけて蓄積していくとされ、近い将来、私たちは早い段階で治療を始め、この病と長く向き合っていくようになるかもしれません。

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【8月23日】アルツハイマー病新薬が承認、年内にも患者へ。米国では保険適用
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▼参考ニュース:

エーザイ認知症薬レカネマブ、厚労省部会が承認(ロイター)

https://jp.reuters.com/article/health-alzheimers-leqembi-japan-idJPKBN2ZW0YR

アルツハイマー病の進行を遅らせる初の新薬、米FDAが完全承認(CNN)

https://www.cnn.co.jp/usa/35206270.html

アルツハイマー病新薬「ドナネマブ」、世界的な臨床試験で効果確認(BBC)

https://www.bbc.com/japanese/66229861

アルツハイマー病(日本神経学会)

https://www.neurology-jp.org/public/disease/alzheimer.html

【徹底解説】アルツハイマー病新薬が導く未来(NewsPicks TOPICS)

https://newspicks.com/topics/yuji-yamada/posts/54

ワイン界「世紀の番狂せ」王者フランスに50年前勝ったアメリカ“夢のボトル”は映画に(同上)

https://newspicks.com/topics/yasuko/posts/6

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