夢中になって遊び、学ぶための「場」のデザイン(前編)〜北欧流教育プログラムで探究力を養う、富山県滑川市の取り組み〜

2023年8月21日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

前回は、遊ぶように働く、北欧流プレイフルワークについてご紹介しました。沢山の方に読んでいただき、とても嬉しく思います。またコメント欄にも、”やらなければいけないことが多い中でも、いかにそうした環境をつくれるか、自分自身と組織のウェルビーイングのためにがんばりたい”といった感想も頂きました。

自分と組織のウェルビーイングの向上のために、これまでのトピックスでもご紹介させていただいたような、深い自己内省からの志の共有、働き方の見直しと実践に挑戦することは効果的です。一方で、中長期的に考えると、個人と組織の先にある地域レベルでも、誰もが熱中できる環境を、多様なステークホルダーを巻き込みながら、創意工夫して作っていくことも同時に必要になると感じています。

今回は、夢中になって遊び、学ぶための「場」のデザインについて、北欧流教育プログラムで探究力を養う、富山県滑川市の取り組みをご紹介できればと思います

先日、以下のサイトでも取り上げていただいた、滑川市の「未来学校」は今年から始まった取り組みです。なめりかわ未来学校は、自分の“志”とは何か自己内省し、他者に語るところから始まります。そして“なめりかわの面白い”を発掘し、アイデアにまとめ、そのアイデアの実現に向かい、小中学生〜大学生がグループを構成し、フィールドワークなどの実践と双方向対話から学ぶ4日間のサマースクールです。

私たち弊社レアは、このプログラムの運営責任者として準備段階から何度も滑川市に足を運び、滑川市の市長、副市長、教育長の方々をはじめ、関係者の皆様と対話を重ねて来ました。この取り組みには以下の3つの特徴があります。

1、遊び心と対話を重視したデンマーク流

2、小中学生から大学生までの異年齢構成

3、子どもと大人が共に学ぶ探求学習

近年の日本課題でもある“体験格差の是正”や地域の次世代を担う“リーダー育成”、そして何よりも地域の面白いや魅力を子どもも大人も一緒になって、主体的に発掘していく“社会参画意識”の育成に貢献することを目的にしています。まず今回のトピックスでは前編として、このプロジェクトを始めた社会的背景からご紹介します。

以下の図でも示されていますが、まず日本の総人口は2004年をピークに急激に減少していきます。2100年の時点で高齢化率は40%を超え、人口は4771万人となる見込みです。

また厚生労働省の労働経済の分析でも、近年では地方から都心への労働力人口の流出し、中小企業を中心に特に地方圏での人手不足が深刻化していることが分かります。このような状況の中で、これからの時代に必要な人材の能力と育成方法について、企業としても、多様なステークホルダーと共に積極的に議論を重ね、解決策を見出すことが求められていると考えます。

経済産業省が昨年公表した「未来人材ビジョン」によると、これまでは「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」などが重視されていましたが、2050年にはデジタル化・脱炭素化という大きな構造変化によって「問題発見力」「的確な予測」「革新性」が求められているといわれています。

社会システムの変化に対する「新しい問い」「新しい解」を生み出せる人材を育てるためには、「知識の習得」と合わせて、社会の本物の課題に対して実践を通して、「探究力の鍛錬」ができる環境の中で、「わたしから社会をよくできる・変えていける」という社会参画意識を育てていくことが重要なのです。

私が留学していたデンマークの教育現場でも、中学校2年生まで学科試験はなく、初等〜高等教育まで、「問題解決」に力点が置かれています。私が以前訪問したコペンハーゲンの小学校でも、デザイン思考を活用しながら、子供たちが自分の興味関心のあるテーマや問いに対して、自ら探究するような取り組みが行なわれていました。

コペンハーゲンの小学校で理科を教えるJeppe(イェッペ)先生

たとえば、理科の授業でも、“なぜ人は日焼けをするのか?”、“なぜ空は青いのか?”といった、答えは分からないけれど探求させるような問いを生徒が自ら立て、問いに対して分野横断的にリサーチして学ぶ、探求学習が行われていました。

イェッペ先生の担当する小学校の理科の授業では上記のような調査プロセス(デンマーク語)を生徒が実践することで探求学習が行われている。調査プロセスは科学に関連する問いを立てることから始まり、次に仮説を立て、調査の方法を自らデザインし、実践した結果を分析して、結論としてまとめるというもの。

そこで評価されるものは、結果だけでなく、それ以上に、どのようにその結果に至ったのか、自分自身の探求学習のプロセスをどのように他者に分かりやすく伝えられるのかも重視されていました。デンマークの学校で教師は、正解を一方的に教えるのではなく、生徒が向き合う問いや課題について、その探求プロセスをサポートするファシリテーターの役割を担います。教育省は大枠の指針を出しますが、実際に何をどのように教えるかはほとんど教師に任されているのです。

こうした一人ひとりの好奇心や創造性を活かした教育を、北欧諸国では大学まで無料で提供し、スウェーデンでは私立大学も無料にしています。さらに、デンマークでは国から生活手当と住居手当を合わせて、約10万円が給付され、勉強に集中しやすい環境を整えています。教育費に加え医療費も無料ではあるものの、その分、高負担の税金を国民が納めています。だからこそ、政治や社会に対する関心や課題意識も高まるのです。

結果的に、デンマークの選挙の投票率は80%を切ったことがありません。日本では、2021年の衆院選、翌年の参院選と共に50%台のため、特にデンマークの投票率は高いように感じますよね。こうした北欧諸国の優れた点をそのまま真似するのは不可能ですが、日本の将来にあるべき姿、ありたい姿を、その場にいる誰もが自分ごととして捉え、探求しながら実践し続けることが、真に北欧社会から学べることだと私は考えています。

次回は、こうした取り組みを富山県の滑川市ではどのような構想で、どのように人々を巻き込み、共に実現してきたのかご紹介できればと思います。お楽しみに!

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
津覇 ゆういさん、他1389人がフォローしています