夢中になって遊び、学ぶための「場」のデザイン(後編)〜北欧流教育プログラムで探究力を養う、富山県滑川市の取り組み〜

2023年10月16日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

前回から投稿から期間が空いてしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。

私は先月から約1ヶ月間、欧州に長期出張しており、先日、日本に帰国しました。前半の滞在はクライアントとの仕事でしたが、後半はドイツにて、ベルリン日独センター主催するヤング・リーダーズフォーラムのプログラムに参加していました。

「豊かな高齢化社会のデザイン」をテーマに、ドイツ側から7名、日本側から7名のリーダーが選ばれ、少子高齢化という両国の共通課題に対してどのようにお互いから学び合うことができるのか、議論を重ねて新しい示唆を得る10日間のプログラムでした。こちらについては、また別の機会に共有したいと思います。

さて少し前になりますが、前回のトピックスでは夢中になって遊び、学ぶための「場」のデザイン(前編)〜北欧流教育プログラムで探究力を養う、富山県滑川市の取り組み〜についてご紹介しました。

個人、組織の中だけではなく地域の中で誰もが自分らしく、また夢中になって遊び、学び合える環境を多様なステークホルダーを巻き込み創意工夫しながら進めるにはどうすればよいのでしょうか? 

私たちは誰もが探究力の鍛錬ができ、多様な才能を開花させる環境の醸成のために、既に多くの負担を抱えている学校の現場や実装に時間のかかる国の取り組みに期待するのではなく、サードプレイスとして地域の人々が「社会に開かれた学びの場」とは何か、多様なステークホルダーを巻き込み、模索しながら実現することは可能であると考えています。

特に、グローバル化、人工知能の進化などにより、これまで以上に変化が激しく予測困難な未来が予想される中で、現在ある仕事の多くが十年後、二十年後には消滅することが想定されます。また子供たちの半数近くが現在存在していない職業に就くことになり、学校で教えていることが将来の社会で通用しないのではないかといった指摘もあり、地域と学校・企業の連携・協働が求められています。これらの課題に取り組むべく、富山県滑川市で今年から始まった「なめりかわ未来学校」について、今回のトピックスではご紹介したいと思います。

小学生から大学生が参加する「なめりかわ未来学校」とは?

なめりかわ未来学校は、自治体、教育委員会、企業が三位一体となって、なめりかわの未来について探索する環境を作りたいという思いから、設立されました。以下の図にあるように、滑川市が中心となって「なめりかわ未来学校」の協議会を創設し、全体のプログラムの実施する役割を担い、私たちのような企業が子供から大人まで学べる場の設計と提供を行いながら、教育委員会はプログラムに参加する子供達への周知、教育的な観点によるフィードバックを行います。

なめりかわ未来学校は、小学校5年生〜中学校3年生が中心となり異年齢で構成され、また高校生や大学生も少数参加できるように、共になめりかわの未来を探索しながら学び合える環境を提供します。

このような場と機会を提供することで、「わたしから社会をよくしていける・変えている」といった子供たちの社会参画意識を地域で育てます。自治体の観点では、そういった子供たちの意識が主権者意識や郷土愛・地域への貢献意識の向上に貢献し、企業にとってはそうした子供たちの学びをサポートする機会を社員に提供することで、企業で働くエンゲージメントや新しいコトを生み出す起業家精神に貢献すると考えています。

関わる全ての人々のクリエイティビティやウェルビーイングを引き出すプロセス

なめりかわ未来学校の実際のプログラムは、8月3日のオリエンテーションから始まり、異年齢の参加者が遊びを通して相互理解を深め、また滑川未来学校の概要を紹介するとろから始まりました。その後、8月25日から28日までの4日間で、参加者全員が自分の志について考えを深め、言葉にしながら、滑川の未来について想像を膨らませて発表するというプログラムを実施しました。

町の人にインタビューをする際に、自分の志を共有するところから始める様子

滑川市で働く人々や町の人々へのインタビューの実施や、フィールドリサーチで自然に触れることで、参加者が滑川の“おもしろい未来”を考え、最終的に4コマ漫画で発表します。最後に、改めて自分の志とは何か語り、“未来は自ら創るもの”という意識を育てます。

実際に、なめりかわ未来学校に参加した参加者からは以下のような感想をアンケートでいただきました。
滑川市のことについて4日間じっくり考える機会があったことで、自分が未来を担っているという実感が湧きました。(小学校5年生男子)

今まで考えていなかったのに、この未来学校で考えた志を思い浮かべるようになった。(小学校5年生女子)

他校や、様々な年代の人と交流したり、普段みられないこと、聞けないことを聞けたのが良かったです。自分の意見を伝えることの大切さや伝え方を工夫することを学びました。(小学校5年生男子)

年代の違う人と関わることは、今まであまりなかったけど積極的に話すことができ、人と関わる楽しさを知ることができた(高校生)

夏休み中、普段なかなか体験できない経験をさせていただきました。共働きで夏休み中も親はカレンダー通りの仕事でなかなか子供の相手をすることができず罪悪感がありましたが素敵な夏休みの思い出ができてありがたかったです。子供のふるさとである滑川の良いところをたくさん学び、普段意見交換をすることのない年齢の方との関わりも良い刺激になったと思います。(保護者)

当初異年齢での学びについて、本当に学びが深まるかどうか、関係者から不安の声もあがっていましたが、このようなポジティブなフィードバックをいただき、多様性を取り入れることの重要性を改めて実感しています。

また自治体の職員の方からも、“小中高大生が話をし結論を導く過程は新鮮で、刺激になりました。楽しく学ぶのが一番効率的だと思いました。市の研修においても、他市町村や公務員以外の方と同じようなことをすれば学びの多い研修になるかと思いました”といった感想をいただきました。

小学生から大学生まで、異年齢で構成されたチームでタスクに取り組む様子

このプログラムに関わる全ての参加者のクリエイティビティやウェルビーイングを引き出すには、失敗を恐れることなく発言・行動できるような心理的安全性のある環境と信頼関係の構築がまずは必要です。こうした関係づくりを行うために、保護者や参加者に対する事前のアンケート、関係者間での対話を1年以上継続して行ってきました。

実際のプログラムでは座学で学ぶだけではなく、街歩きをしながら、地域の人々との対話や、体を動かし自然に触れる遊ぶ経験により、課題に取り組む時の好奇心やオープンマインド、共感力、遊び心を最大限に引き出せるように工夫します。さらに、プログラムの終了後も小規模でも継続した学びと実践の場を作り続けることで地域の変革を促すことができると考えています。特に後者の継続した学びと実践の場づくりについては、なめりかわ未来学校協議会でも継続して議論を重ねています。

みなさんが暮らす町に、誰もが夢中になって遊び、学ぶ場を自治体、教育委員会、企業が三位一体となって作り上げるとしたら、どんな経験が提供できると良いと思いますか?ぜひコメント欄で教えてもらえると嬉しいです!

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
津覇 ゆういさん、他1390人がフォローしています