日本と、海外AI先進国の「Femtech(フェムテック)プレイヤーマップ」からみえてきた特徴と課題

2023年7月16日
全体に公開

Femtech(フェムテック)とは、女性の健康課題をテクノロジーの力で解決する製品やサービスである。

世界では、フェムテックの市場規模は2027年に約7兆円に達すると予測されているが、日本ではフェムテックが他国と異なり、広義の意味で「フェムテック」と使われている。

7月10日に、筆者が理事をしている一般社団法人Femtech Community Japanから、日本国内フェムテックプレイヤーマップを発表したが、日本のフェムテックと、フェムテック市場で上位であるAI先進国イスラエル、インド、カナダのフェムテックを紹介することで、それぞれの国の特徴をみていきたい。(なお、発信内容はあくまで個人の見解である)

【2023年最新版】国内Femtech(フェムテック)プレイヤーマップ

1.世界のフェムテック企業数割合

FemTech Analyticsによると、アメリカがフェムテック企業の総数が最も多く、企業数のほぼ半分を占めている。次にイギリス、イスラエル、インド、カナダと続く。

アメリカのフェムテック企業数が多い理由のひとつに、アメリカの医療費が高額というのがある。
アメリカの健康保険制度は、「ヘルスケア(医療介護)サービスと健康保険も、他の材と同じく市場で取引されるべき」と考えられ、政府の介入は好ましくないことや、連邦制で州独自の取り組みが活発に行われてきたため、自由な診療価格設定となっている。

日本は国民皆保険であるが、アメリカは所得と年齢で仕切られた、公的保険制度と民間健康保険との混合システムであり、「病気になったらお金がかかるから予防しよう」という意識が高いのも、フェムテックがアメリカで発達している要因のひとつと言える。

https://www.femtech.health/interactive-charts をもとに筆者が作成

2.日本のフェムテック市場の特徴

Femtech Community Japanでは、2023年7月に国内Femtech(フェムテック)プレイヤーマップを発表した。

日本には、約60社のフェムテック企業が存在する。妊活・不妊が一番多く、月経・避妊、ヘルスケア・ホルモンが続いている。更年期や婦人科疾患も数は少ないが製品・サービスが出現している。

詳細は以下のリンクを参考にしてほしい。

https://note.com/femtechjapan/n/nfd0bb6b7a4d9

3.イスラエルは人口1人あたりベンチャー投資額が世界一

フェムテック企業数が世界第3位のイスラエル。「中東のシリコンバレー」と言われるスタートアップ大国である。

イスラテックによると、ベンチャー投資額では、シリコンバレーがあるアメリカが700億米ドル(イスラエルは44.2億米ドル)と圧倒的に世界第1位である。

しかし、人口1人あたりベンチャー投資額だと、イスラエルが553米ドル(アメリカは233米ドル)となっており、イスラエルが圧倒的に世界第1位となっている。

イスラエルの人口は、約850万人と日本の7%程度で、面積は日本の四国程度だが、コロナ禍においても、女性1人あたりが出産する子どもの数は3人を超えている子沢山な国である。ユダヤ人が75%の国において、超正統派であるユダヤ教の影響を大きく受けているため、下記のプレイヤーマップのとおり、妊活・妊娠のプレイヤーが最も多い。

また、他国にないカテゴリーとして「安心・安全」がある。
『4Girls』は、10代のメンタルヘルスの悪化を防ぐことを目的としており、12歳から20歳までの女性向けに作られたコンテンツサイトとSNSを展開している。デジタルコンテンツに関する精神状態の悪化や自殺傾向を検出するためのAIを組み込み、リスクレベルに応じてユーザーの危機的兆候を分類し、その後の治療へつなげるような仕組みとなっている。

イスラエルのフェムテックが発展した理由のひとつとして、国全体でR&Dを支える仕組みがある。イスラエル最大の病院「シェバ」内にあるARCイノベーションセンターの後援のもと、フェムテック特化型イノベーションセンターが2020年に設立されているのも、フェムテック企業が多く生まれている背景である。

https://startupnationcentral.org/wp-content/uploads/2022/03/Femtech_Landscape-2022.pdf.pdf

4.インドは、2023年半ばに世界一の人口となるが、ジェンダーギャップも大きい

フェムテック企業数が世界第4位のインドは、人口が多いため市場も大きいが、2023年世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数が127位と、G7最下位の日本(125位)よりも低い順位となっている。生理中の女性はお寺にも入れないというような風習が、いまだに残っていたりもする。

インドで『パッドマン 5億人の女性を救った男』という、Netflixでも放映されている映画がある。貧しくて生理用ナプキンが買えず、不衛生な布で処置をしている妻のために、低コストで生理用ナプキンを大量生産できる機械を発明した男性が主人公であるが、生理用品がまともに買えない状況が、一部で残っているのが現状である。

そんな中、インドでDTCを手掛けるスタートアップGynovedaは、今年に入り約13億円の資金調達を実施している。女性のためのアーユルヴェーダに基づく医療を提供しており、思春期から更年期前のセルフケアを促進している企業である。


アーユルヴェーダは、インドで生まれた伝統医学であり、中国の漢方や西洋医学とともに世界3大医学とも呼ばれている。ヨガ、オイルマッサージ、ハーブを用いた食事療法を取り入れ、病気を予防しながら心と体の健康を保つものであり、このように国の文化をうまく取り入れながら成長するフェムテック企業も多く出てきている。

UnsplashのJulian Yuが撮影した写真   

5.カナダは、国土が広いこともあり自宅検査キットが発達

フェムテック企業数が世界第5位のカナダは、人口が3,800万人と日本の30%程度だが、国土面積は日本の約26倍と、ロシアに次ぐ国土面積を誇る。

コロナ禍において、病院に行かずとも自宅で検査ができる「自宅検査キット」が増えてきたが、唾液や血液をラボ(研究所)に送らずとも、その場で検査結果が出るホルモン検査キットが何社が出現している。

例えば、『Eli』は専用のカートリッジを口に入れて唾液を採取し、それを取り出してEliのポータブル測定デバイスに置くことで、毎日のホルモン変動を記録できる。アルゴリズムを利用したモバイルアプリに送信し、妊娠しやすい日などを予測できる。

また、『Qanik DX』は、テストカートリッジに数的の血液を垂らし、専用のセンサーを入れることで、血液のホルモンレベルを検出して分析でき、15分以内で結果をデバイスに配信してくれる。さらに、複数のテスト結果を数日から数年に渡り共有可能である。

Femtech CANADAのホームページでは、地域やカテゴリーなど、さまざまな切り口でフェムテック企業を検索できるデータベースが構築されている。このように国内のみならず、海外の方にも使い勝手の良い仕組みがあることで、グローバル展開により近づける。

https://femtech.ca/
トップ画像:Femtech Community Japan https://note.com/femtechjapan/n/nfd0bb6b7a4d9

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