発表!2023年上半期「今後伸びるフェムテックビジネス」とは?

2023年7月9日
全体に公開

女性の健康をテクノロジーの力で解決するための商品やサービスを指す「フェムテック」が注目を集めています。フェムテックの起業や新規事業の相談を受ける中で多い質問が「今後、どの分野が成長するか?」です。

ここ3年ほど、フェムテックの中でも「更年期分野」が確実に成長すると感じており、フェムテックの中でも重点的に調査してきました。なぜ更年期分野が今後伸びるビジネスなのか解説します。

UnsplashのFirmbee.comが撮影した写真   

1.日本人女性のうち、50歳以上が半分を占める

日本は世界一の高齢化社会であり、2024年には50歳以上の女性人口が3,248万人と、49歳以下を上回るとされています。つまり2人に1人の日本人女性は、50歳以上となります。

女性は、40代から女性ホルモンが急減するため、更年期症状に悩まされることがあります。更年期症状は、のぼせ・肩こり・不眠など100種類以上で「症状のデパート」とも言われています。しかし、更年期症状と自覚しても、言葉の差別や偏見から「恥ずかしい」「知られたくない」ため、1人で抱え込むことが多くなっているのが現状です。

更年期症状の治療で一般的なホルモン補充療法(HRT)の普及率は、欧米で約40%となっていますが、日本は約2%です。その背景としては、2002年の臨床試験で、HRTが乳がんになると報道されたことがありました。実際にHRTで乳がん発症率が上がることはないですが「HRTは怖い」というイメージが浸透してしまったことが、普及率が低い背景と言われています。

UnsplashのTowfiqu barbhuiyaが撮影した写真   

2.アメリカでは50歳以上の女性・ウェルビーイングに特化したピッチコンテストも開催

2023年5月、アメリカのファンドPortfoliaで、「50歳以上の女性の健康」に特化したスタートアップのピッチコンテスト「Innovating for Women’s Health」が開催されました。Porfoliaは、女性の健康をターゲットにした初のベンチャーキャピタルファンドで、アメリカで女性の健康分野に最も積極的に投資しており、40件以上の投資を行っています。

具体的なスタートアップの一例として、ピッチコンテストのファイナリストに選ばれた、アメリカのELITONEがあります。世界初の薄型・ウェアラブルの骨盤底筋トレーニングパッドです。出産後や高齢になると、女性は骨盤底筋(尿を我慢するときに使う筋肉)が緩くなる傾向があり、尿もれにつながるため、その筋肉を鍛えるのがELITONEです。

尿もれ市場は、世界で$20B(約2兆円)以上の市場とも言われていますが、尿もれはタブー視されがちでもあり、これから注目される市場のひとつとなっています。

アメリカのNewYorkTimesでも、今年に入ってから、更年期関連の記事が書かれることが増えており、注目度が上昇しています。Mayo Clinicの研究では、アメリカ女性の更年期による労働時間の損失コストが$1.8B(2,000億円)になると言われています。

日本でも、経済産業省の調査で、更年期による経済損失が2025年には年間1.3兆円とのことで、更年期が働く女性や企業に与える影響の大きさを語っています。

UnsplashのElissa Garciaが撮影した写真   

3.日本では「女性版骨太の方針」による女性活躍推進や、社員の更年期に関する取り組みも

2023年6月に発表された女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)では、東証プライム市場に上場する全企業を対象に、2025年をめどに女性役員を1人以上選任することや、2030年までに女性役員比率を30%以上にする目標を設定しています。

女性が上位職になる時期は、一般的に40代〜50代ですが、その時期は更年期症状になりやすい時期でもあり、子育てや親の介護と重なる時期となっています。

「女性版骨太の方針」では、事業主健診に関わる問診に、月経困難症、更年期症状等の女性の健康に関連する項目を追加するとともに、産業保健体制の充実を図ることが示されています。

また、2023年3月に女性の健康ナショナルセンターの創設により、厚生労働省で女性が多い病気(更年期障害・不妊症)の研究や治療法の開発などの司令塔を担う組織をつくり、女性に関す病気の治療や疾患予防をめぐる先端医療を担う予定となっています。

大手企業でも、丸井グループや大和証券グループ、第一生命ホールディングスで、社員の更年期を会社が支えるセミナーや休暇制度名称の変更などを実施し、40代~50代の働く女性に関するヘルスケアの取り組みが進んでいます。

UnsplashのAmy Hirschiが撮影した写真   

4.50歳以上のコミュニティは、親切で助け合い精神が旺盛

筆者が卒業したビジネススクールには、公認・非公認合わせて推定50以上のコミュニティが存在します。起業・AIなどビジネス系から、うどん・登山のような趣味的なコミュニティがある中、強固なコミュニティ力を発揮しているのが、50歳以上のメンバーで構成されたコミュニティ(通称:つぼみ組)です。

ビジネススクールの入学者のうち、50歳以上は5%と少数派です。しかし「つぼみ組」には、毎日のように長文の投稿があり、イベントも頻繁に開催されています。人生経験が豊富なため伝えたいことが多く、文章を書くことに慣れている印象を受けます。

筆者は、50代向けビジネスを検討した時期があり、コミュニティに入れてもらったのですが、他のコミュニティ以上に、親切で助け合い精神が旺盛です。アンケートをお願いした時も、ダントツで回収率が高かったのには驚きました。

50歳以上の方は「つながり」を大切にしており、その特性を理解したうえでのビジネス展開が重要だと感じています。

UnsplashのTimothy Hales Bennettが撮影した写真   

5.まとめ:50歳以上の女性ユーザーで重要なのは「決めつけないこと」

6月9日のNHK総合テレビで「主人公は”シニア女性”新たな漫画が激アツ」という特集がありました。近年、シニアを主人公にした漫画がブームとなっており、その背景にあるのが主人公のシニア女性たちが挑戦するという前向きなストーリーです。

例えば、「海が走るエンドロール」は、65歳の女性が美大に通い映画づくりに挑戦します。「傘寿まり子」は80歳女性が家出をしてネットカフェで暮らし始めるというストーリーですが、「シニア」と言われる層が昔と比較し、アクティブになっていることの現れです。

また、2023年3月に東証グロース市場へ上場したハルメクホールディングスのシニア女性向け定期購読雑誌ハルメクは、定期購読のみにもかかわらず、50歳以上の定期購読者が50万人となっています。

ハルメク編集長の山岡朝子さんが、日経クロストレンドのインタビューで「年齢切りはふさわしくない、くくるのは向上心などの価値感」とおっしゃっていますが、「50代だからアプリは使わない」のような決めつけは、多様な現代においては、当てはまらない可能性があります。

50歳以上の女性は、人口として多く、時間やエネルギーもある一方で、平均寿命が伸びているため、更年期を迎えたり骨粗鬆症などの健康問題を抱えたりする方も多くいます。女性のニーズを「決めつけること」なく、一人ひとりの女性に寄り添った商品やサービスを提供することが、フェムテックビジネス成功の鍵だと感じています。

UnsplashのJakob Owensが撮影した写真
トップ画像:UnsplashのRazvan Chisuが撮影した写真
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