ニューロダイバーシティの誕生 ~誰がいつ、なぜ生み出したのか~

2023年7月2日
全体に公開

今回は、「ニューロダイバーシティ」という言葉や概念、運動の歴史についてお伝えしたいと思います。誰がいつ、どんな背景から、どのような想いを込めてこの言葉を生み出し育んだのか。あまり知られていない、ニューロダイバーシティ誕生のストーリーをお伝えしたいと思います。

誰が最初に言い出したのか

ニューロダイバーシティという言葉を「誰が」一番最初に言い出したのか、実ははっきりしたことは分かっていません。(つまり諸説あり、多少の論戦があります)ですが「どんな人たち」が作った言葉なのかは、はっきりしています。「自閉スペクトラム成人当事者」たちが産み育てた言葉です。

みなさんは「自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症)」をご存じでしょうか?自閉症は精神医学において発達障害の一種とされ、「社会的コミュニケーション能力」や「共感能力」の欠如が生まれながらにあり、さらには「限定された興味」つまり特定のものごとへのこだわりが強いことなどが特徴とされています。事実、多くの自閉症と診断された人たちは社会で孤立する傾向があり、「障害者」としてのアイデンティティを引き受けなくてはいけない状況が多くあります。(それは今でも同じですが、かつては今よりも深刻な時代がありました)

ですが1990年代に、そんな状況に大きな変化をもたらす出来事がありました。インターネットの登場です。インターネットが普及することで、彼・彼女らは時間や空間を超えて同種の仲間と出会うことが出来るようになったのです。このことが後のニューロダイバーシティの誕生にとって重要な背景となりました。

「普通」の抑圧

とても大切なことは、インターネットを通じることで自閉スペクトラム成人当事者の方たちが楽しく仲間と交流されたという事実です。インターネットと言っても黎明期なので、今のようなSNSやビデオ通話はありませんし、ブログすらなかった時代です。そのため多くは電子メール(もしくはメーリングリスト)を通じてやりとりがなされたため、当時のやり取りを知れる資料はとても少ないのですが、例えば下記の記録があります。

多くのAC(自閉症とその仲間たち)がそうであるように、私もインターネットを通じて初めて「コミュニティ」を楽しむことができるようになりました。一対一のコミュニケーションであること、いつ、どのくらい関わるかを自分でコントロールできること、現実の出会いと違って、自分の反応を考える時間が十分にあることなどが、私に合っています。現実の世界では、たとえ小さなグループであっても、私は不利な立場に立たされる。誰が誰だかわからない(顔を認識できない)ので気が散り、何を言われているのか理解しようとする努力で消耗し(部屋の中で複数の会話が行われていたり、一度に複数の声が出たりすると、すべての言葉が意味のない雑音になるから)、混乱した感覚の洪水から逃げたいという大きな欲求でストレスを感じる。さらに、周囲の人のほとんどがNT(神経学的に典型的な人)であると思い込んでいるため、自分がそのような常識と異なる部分を隠したり、ごまかしたりしなければならないと感じています。
Jane Meyerdingさんのエッセイ(1998)より(和訳は筆者)

つまり、自閉スペクトラム成人当事者たちはインターネットを通じて「コミュニティ」を形成し、その中には「社会的コミュニケーションの障害」も「共感の欠如」も発生しなかったのです。この事実は彼・彼女ら自身にとっても、とても衝撃的な体験だったはずです。勝手な想像ですが、きっと「あるある話」に盛り上がり、「分かる~」と共感の嵐だったことでしょう。ちなみに私は「自閉文化を語る会」という、私以外全員が自閉スペクトラム成人当事者という座談会コミュニティを運営していますが、そこでも毎回楽しく、かつ共感し合いながら時間が過ぎていきます。(興味を持たれたらtwitterで #自閉文化を語る会 と検索してみてください)

その体験を通じて、彼・彼女らは今までいかに多数派の「普通」に抑圧されていたのかに気づき、「障害者」としてではない、新たなアイデンティティを見いだし始めました。そして社会に声を上げ始めた。その時の旗印となったのが、「ニューロダイバーシティ(脳の多様性)」という言葉です。

この話、まだ大事なことがたくさんありますので、次回に続編を書きたいと思います。

トップ画像:Pixabay

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