アジアの気候変動解決の謎に迫ります

2023年5月4日
全体に公開

みなさん、こんにちは。シンガポールに来て1年以上が経過し、少しずつ木と森が見えてきたような気がしています。「アジアの気候変動解決のために」というくだりをよく目にしたり耳にしたりしますが、アジアといっても広いので、どこの国の何の分野の気候変動の解決なのか、とツッコミを入れるべきなんだと思います。しかも、国によって排出量の傾向も、多く排出されている分野も異なります。今日はどの国はどの分野で何が必要かをざっくりと紐解いていきたいと思います。

1. アジアの脱炭素ができなければ、世界の気候変動解決はできない

下の図は2021年の世界の温室効果ガス排出量を国別に表しています。中国が1位で、アメリカが2位、3位はインドです。特筆すべきなのは6位がインドネシアで、7位が日本です。

出所:Climate Watch Portal, 注記:2021年のデータ

これを日本、韓国、中国を除いたアジアに注目して並び替えたのが下の円グラフになります。南アジアは世界の9%の排出量で、東南アジアは世界の8%を占めています。合計したら2割近くに及びます。

出所:Climate Watch Portal, 注記:2021年のデータ

さらに、南アジアと東南アジアの国に着目して排出量の経年推移を見てみると、どの国も排出量が著しく増えていることがご確認いただけます。経済成長と共に排出量も伸びているのではないかと思います。

出所:Climate Watch Portal, 注記:MT=million tons

さて、問題はこれをどうして食い止めていけるのか。アジアのこの排出量の増加を止めないことには、気候変動による被害は酷くなるばかりです。逆に、これを食い止めることができれば、大きな前進となります。

問題は、どの分野に何のソリューションが必要か、ということになります。

2.どの国に何が必要なのか

下のグラフは分野別排出量を国ごとに並べたものです。インドが圧倒的に排出量が多いので、他の国の特定がしにくいですが、このグラフからわかることは、インドの電力・熱セクターだけでその他の国の排出量を上回っています。さらに、その次の農業と製造業を足すと倍の排出量となり、この地域でのインドの排出量削減の重要さを思い知らされます。

出所:Climate Watch Portal, 注記:MT=million tons、2021年のデータ

それでは次に、割合を見ていくと少しわかりやすくなります。それぞれ国によって特徴がありますね。少し国別に多い順にまとめてみましょう。

出所:Climate Watch Portal, 注記:2021年のデータ

下の表は、足すと8割を超えるセクターを多い順に並べています。どの国にも共通しているのが、電気・熱ですね。そして、農業製造業交通と続きます。意外だったのがインドネシアの廃棄物でした。そして、石油化学産業などの多い国では、産業も大きな割合を占めていますね。

3.アジアに共通して必要な排出削減

ずばり、電気・熱分野です!そして、日本ではあまり馴染みのないところとしては、農業です!

電気・熱ですが、電気の分野はソリューションが比較的わかりやすく、再生可能エネルギーの導入などになりますが、問題は若い石炭火力発電所のフェーズアウトをどうするかということです。今、アジアではどのようにファイナンスを提供して、それらの石炭火力発電所の早期廃止が実現できるかなどが話し合われています。

農業ですが、東南アジアは特にお米を主食にするが多く、お米を作る過程や使用する肥料からのメタンの排出、更には「カーボンフリー火力」の記事にも書きましたが、亜酸化窒素の排出が原因と言われています

メタンは二酸化炭素の27-30倍の温室効果があり、亜酸化窒素は273倍です。ここの分野からの排出を減らすのはとても難しいと言われていまして、それにはいくつかの理由があります。一つは農業の担い手が小さい規模でとても多く存在していること。そしてその方たちへのインセンティブが少ないこと。新しい農法や低排出の肥料などはコストがかかるので、そのファイナンスをどうするかなど、まだまだ課題は多いようです。

少しずつポジティブな動きは出てきています。ベンチャーキャピタルの業界でも同じようにこの農業の分野に目をつけて、排出削減のための新しい技術を提供するファンドが立ち上がりました。Bill GatesのBreakthrough Energy VenturesやTemasek、Wavemaker Impactが協力して行うようです。

また機会がありましたら、もう少し分野の中身に踏み込んだ記事を書きたいと思います。

ここまで読んでくださいましてありがとうございました。久々にグラフたくさんの記事を書きましたが、いかがでしたでしょうか。感想や今後取り上げるべき話題などをコメント欄などにいただけたらと思います。よろしくお願いします!

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他768人がフォローしています