福島原子力発電所事故から12年、日本の産業成長に何が必要か
先週の東京出張の際、羽田空港から乗ったタクシーの運転手さんと2011年3月11日、何をいていたか、の話になりました。千葉の燃えるコンビナートの脇を走って10時間くらいかけて羽田空港からお客様を千葉に乗せていったそうです。私は丸ビル20階から、その千葉のコンビナートの炎が見えました。あれから12年、日本のエネルギー事情はどう変わったのか、そして産業成長のためには何をしていかなければいけないのかについて、今日は書きたいと思います。
実は毎年、前職のアナリストの時はこの時期になると同じように振り返りを書いていました。何が変わって、何が同じで、どうしたらよいのか。今年まで毎年、書く内容はおおよそ同じでしたが、今年は違います。
違う理由①、政府の原子力政策が大きく変更。この3か月くらいの間で、原子力発電を積極的に利用していく政策に変わりました。今までの安全対策は維持しつつ、今残っている原子力発電所をできる限り多く再稼働していくこと。そして新しい原子力技術を採用していく方向性です。これは他国でも同様で、カーボンニュートラルを達成するために、原子力を見直す動きが出てきています。
違う理由②、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、エネルギー安全保障がますます大事になったこと、そしてエネルギー価格が高騰していること。ガス価格が高騰しているため、他の電源で電気を賄おうとしています。
しかし、エネルギー安全保障を考えると、根本的には原子力ではウランを輸入することになり(核燃料サイクルが確立するまでは)、放射性廃棄物は国内では最終処分場の場所が決まっていません。今のところ、北海道の二つの町村(寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村)の地質などの文献調査が始まったたところです。
原子力発電は日本成長のための産業になるのか
「次の世代のエネルギー」としてなのか、それとも再生可能エネルギーが主流になるまでの「つなぎのエネルギー源なのか」。そして「日本の未来を支える技術」として原子力産業を育てていくのか、それとも廃炉を忠実に行い、廃炉のビジネスを世界に展開していくのか。少なくとも新しい技術としての原子力の分野ではすでに他国がリードしているように感じています。
日本の産業成長に今、何が必要か
気候変動やエネルギーの文脈ではずばり、再生可能エネルギーを安く大量に調達できる国や地域になることです。
2050年前後を目標年に脱炭素を目指す国や地域はすでに排出量の9割を超えています。企業も同様です。このトレンドは変わりません。
下の『企業が再エネを買う3つの理由』でも書いておりますが、今後企業は自社とバリューチェーン全体の脱炭素のため、再生可能エネルギーを安く大量に購入できる地域にどんどん移動していくのではないかと思います。
今のところ日本は再生可能エネルギーが安いわけでもなく、大量に購入できるわけでもありません。下の図は、その国で最も安い電源の種類と、その価格を示しています。日本で最も安い電力は石炭火力(黒色)で68ドル、他のアジアの地域は日本よりはるかに安く、インドでは太陽光の31ドル、中国では陸上風力で39ドル、オーストラリアは太陽光で46ドルです。欧州やアメリカでも日本より安いですし、クリーンな電源です。日本は、日本企業や外国企業に居続けてもらうために、そして企業誘致できるように安くて大量の再エネが必要です。
再生可能エネルギーが今後の日本経済に必要なもう一つ大きな理由があります。それは、多排出産業の脱炭素に必要となる水素です。再生可能エネルギーから作られる水素はグリーン水素と呼ばれます。現在、水素は化石燃料から作られているものが主流です。これを用いても脱炭素にはならないため、再生可能エネルギー由来の水素が、今後大きな産業になりつつあります。下の右図が、再生可能エネルギー由来の水素製造量とその国を色別に示しています。中国(赤)や欧州(緑)、アメリカ(水色)が市場を独占しています。左の図は、再生可能エネルギーから水素を製造する装置の容量を示しています。
つまり、多排出産業の脱炭素を安く行うためには、安くグリーンな水素が提供される国、再生可能エネルギーの多い国に行くのが必然となるでしょう。日本はこの市場では非常に小さな存在です。
すでに、日本製鉄はグリーン水素を使った製鉄を実現するため、海外でのグリーン水素事業への投資を検討し始めたと報道があった。オーストラリアやブラジルでは鉄鉱石も取れて、再生可能エネルギーも安いのが特徴です。
日本の切り札は洋上風力発電
日本で再生可能エネルギーを大量に導入するためには、洋上風力発電が有力です。こちらの記事でも書かせていただいております。
日本の海は海外に比べて海底が深く洋上風力発電には向いていない、という話もありますが、このような課題がイノベーションに結びつき、成長につながるのだと思っています。このような条件の海は日本だけではないはずです。台風に強く、海底が深くても通用する浮体式洋上風力発電が日本発で出てくれば、今後カーボンニュートラルを目指す国や企業にとって、日本が良い技術パートナーになりますし、日本でももちろん技術が普及して、日本に居続ける企業、海外から来る企業が増えるのではないでしょうか。
未来の日本のエネルギーと成長を支えるのは、再エネでありたいか、原子力でありたいか?
アナリストとして「カーボンニュートラル達成にどちらが必要ですか?」と聞かれれば、「どちらも必要です」と答えます。ただ、原子力には放射性廃棄物の中間貯蔵施設や最終処分場の問題が尽きないので、原子力に対して真剣なのであれば政治的意思をはっきりさせるべきだと思います。再生可能エネルギーは変動電源なので、風が吹かない時、曇りの日の時にも備えて蓄電池や、その他の調整電源への補助策が必要です。
将来世代のためにどうしていきたいか、企業として個人としてどう原子力を捉えていくのか。考えて選挙で投票していただいたり、エネルギー基本計画などのパブリック・オピニオンの機会が今後あれば、ぜひぶつけていただくのが良いと思います。また、NewsPicksでコメントしていただいたり、その他SNSで発信いただくのも非常に大事なことだと思います。
日本は毎年1回3月11日に、原子力のことを真剣に考える機会がせっかくありますので。
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。わかりにくい点や、他のご意見などもコメント欄でいただけたら嬉しいです。
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