2023年勝負の年「10大経営テーマ」

2023年2月5日
全体に公開

2023年における企業経営の注目テーマについて書いてみたいと思います。令和の時代になって、さまざまな観点で環境は激変してきました。ざっと思いつくだけでもこんな感じでしょうか。

2019年:Sansan/メドレー/JTOWER/freee上場、大型IPOピーク生前退位・令和スタート

2020年:コロナ、株価急下落からの急上昇上場後調達ブーム(ABBなどの上場後株式調達)菅政権スタート(安倍長期政権終了)

2021年:ビジョナル上場スタートアップバブル、株価ピーク未上場大型調達ブーム岸田政権スタート市場変調始まる

2022年:金利上昇、バリュエーション低下ウクライナIPO制度見直し、JPX新市場区分スタートIPO含む資本市場アクティビティ低調、デット調達ブーム岸田政権スタートアップ施策グローバル企業で大幅人員削減

2023年:人員削減継続金利上昇本格化

さて、それを踏まえて今年の経営テーマはどんなものになるのか。そこに注目してみたいと思います。市場予測などは各種研究機関の見通し等をみてもらうとして、自らコントロールはできず、それが当たっていたかどうかは未来になって確認できることです。

一方、経営テーマは違います。自らが意志を持って決めていく必要があり、意思決定して進まない限り変化は起こせないし、その結果も確認できません。そういう意味では市場予測よりも「経営テーマ」を考えておく方が余程意味があると考えています。

冬山を目の前に、その先にう買うために、どんな装備で、どこに向かっていくべきか

さて、前置きが長くなりましたが、当方が日頃多くの企業の経営に関わっている観点から感じていることをベースにまとめてみます。2023年「10大経営テーマ」早速スタートです。

カテゴリー①:経営戦略(3テーマ)

1)市場シェア拡大

今年は市場シェアが大きく動く一年になると思います。事業環境変化はコロナ以降3年経ちました。先行できている企業は逆風化でもそれを力に変えて行っています。一方、逆風の煽りを受けまだ抜けきれない企業は厳しさがじわじわと企業体力やファンダメンタルズを削り取っています。今年は、マラソンで言えば、途中少しずつ差が大きく開く局面にいると思います。気がつけば、想定以上の差がつくことになる。そんな一年になると思います。

もう一つの観点はTAMの拡大が期待できない市場が多くなることも挙げられます。一部市場は別ですが、多くの市場では顧客の財布の紐がかたくなることで、TAMが小さくなっていきます。限られたパイを奪い合うための戦略が重要になり、TAM拡大期とは異なる、シャア拡大戦略を意識できるかで、戦略的打ち手が大きく異なってくると思います。

大海原に竿を垂らすのではなく、特定の海域に絞って集中的に魚をとるような、そんなターゲティングした形の戦略立案が重要になると思います。尖った戦略はシェアを高め、効率性を高め、収益性を高め、その領域での優位性の構築につながります。

一方で、むやみに大海原に竿を垂らすと効率性が悪化し、組織が停滞し、ラウンウェイがどんどん悪化することになります。厳しい市場環境かで確実な成果を見せることができず、今年も来年以降の資金調達でも苦戦する原因となってしまうことでしょう。

大きなTAMでほんの0.1%の市場シェア(10兆円の0.1%で100億円)よりも、小さなTAMで圧倒的な市場シェア(200億円の50%で100億円)の方が、よほど価値が高く、今後の展開余地が高まるのです。

2)価格戦略

市場シェア拡大戦略にも関係しますが、今年は価格戦略が試される一年になると思います。「値決めは経営」と言いますが、当然これまでも価格戦略の議論は各社で行われてきたでしょう。それは、LTV/CACを十分に確保できるそんな値決めだったかもしれません。

なぜ、価格戦略が重要になるのか。それは大きく3つの観点が関係しています。一つ目は、顧客ターゲティングが重要になることで、より重要かつ刺さる顧客向けの戦略的な値決めの重要性です。

2つ目は、顧客のお金の使い方の二極化です。相対的に不要なものは徹底的に絞り込み、一方で大切なものにはしっかりと投資を行います。後者に該当しているかのチェックがまず持って重要であり、そうでなければ顧客ターゲティングや提供価値の見直しを行った方が良い可能性があります。重要なものであれば積極的な「値上げ」が検討できるかが重要になります。日本は過去30年のデフレで値上げが苦手です。

今年は原材料費、為替を理由にした値上げが相次いでいますが、このタイミングはチャンスでもあり、後手に回った値上げではなく、狙いが明確な「戦略的値上げ」ができるかが問われることになるでしょう。

最後3つ目が、市場シェア拡大のための価格戦略です。競合他社を戦略的に揺さぶる意味もありますが、顧客への提供価値とともに顧客にっての位置付け、存在から一気にアップデートを図ります。市場シェア拡大というと「値下げ」を想起しがちですが、必ずしもそれだけに限りません。あえて「値上げ」をすることで優位性と収益性を高めるのです。当然、値上げと同時に提供価値の拡大も行うわけで、一気に有逸無二の存在に高められるかもポイントになります。

3)プロダクトロードマップの精緻化

市場シェア拡大、そして顧客ターゲティングの精緻化、そして価格戦略のそれぞれに関係しますが、それらを実現するためにプロダクトロードマップをあらためて精緻化していく必要性が高まると思います。曖昧なロードマップでは、顧客ターゲティングを精緻化した意味もなくなってきますし、戦略的価格戦略も有効に機能することはありません。

だからこそ、今年はプロダクトロードマップ、それが価格戦略とシェア向上と紐づいているか。これを確認するだけで、いかに経営がこの市場環境、事業環境をよく捉え、戦略の解像度が高く経営しているかが窺い知れることになるのです。

カテゴリー②:外部アセット活用(3テーマ)

4)ガバナンス改革(ESGのG)

ESGは引き続き経営テーマにおいて重要であることは変わりませんが、その中でもGに相当するガバナンス改革が大きなテーマになってくると思います。それは上場企業だけでに止まりません。未上場の段階から積極的にガバナンス改革に着手できるかが問われ始めています。

それは資金調達を有利に進めるため、ではありません。

経営の複雑性が未上場段階から高まっており、それに対応した経営体制の構築の必要性が高まっているからに他なりません。グループ経営、急激に変化する市場への対応、法制度や税制の変化による競争環境の変化、さまざまな変化を先読みし迅速に対応できることが求められるようになります。またそれに伴いリスクも急速に拡大していくことになります。

大きな転換の1年になるからこそ、そこをうまく舵取りできる経営体制の実力差が大きく問われます。そして執行チームは急激に変化する事業環境に対応するため、「今まで以上に足元を見て」しまいます。経営全体がオペレーティブな視点に支配されやすくなってきます。だからこそ、広い視点で経営を考える外部有識者(社外取締役等)を含めたガバナンス改革の必要性が高まるのです。

5)デット活用

昨年から当方の投資先でもあるタイミーでも話題になりましたし、またFintech業界でも大型のデットファイナンスの活用が進んでいます。この数年徐々に活用が進んできたベンチャーデットもその一つです。

デット活用の重要性が高まる背景は大きく3つあります。1つ目は、エクイティでの資金調達環境が悪化しており、特にダウンラウンドを避けた形でラウンウェイを伸ばしていく財務戦略の構築が急務であり、その一つとしてデットの活用の必要性が高まっていることです。

2つ目は、SaaS x Fintechなど、あらゆる企業の戦略にFintechの戦略が重要になっていることがあります。Fintechとして事業拡大をしようとすると、運転資金のマネジメントが極めて重要になってきます。事業からキャッシュフローを創出しながら成長できるのがベストですが、そこまで有利なCCCを実現できない場合、その差分を埋めるのがデットファイナンスやパートナー戦略の活用になります。

3つ目が、提供価値の変化、人的整理、M&Aなど単発の大きな資金ニーズが発生しやすいことにあります。当然全てをデットファイナンスだけで対応することは難しいにしても、デットが活用できるだけで戦略のボトルネックを解消することができるようになります。

また、金融機関全体として拡大するスタートアップエコシステムにおいて、デットを含めた総合ソリューションの提供に着手しており、外資系金融を含め議論できる金融機関の選択肢が拡大していることも背景にあります。

6)M&A

M&Aのチャンスは圧倒的に高まっていると感じます。その理由はみなさま感じている通りですが、大きく3つの背景があると思います。

1つ目は、資金調達環境の悪化です。経営チーム、プロダクト、何か一つは優れていたとしても、自力で資金調達を繰り返し、成長を実現することが難しいテーマが当然出てきます。資金調達を安定化させ、またExitの機械提供としてもM&Aという選択肢が有効になってきています。特に数十億円規模のM&Aが増えていく可能性があると思います。買い手にとっては、成長機会の確保であり、売り手にとってはExitや新たなパートナーの確保につながります。

2つ目は、IPO市場の低迷によるExitの難易度向上です。単純に赤字上場への許容度の変化、求められる経営管理の水準向上など、IPOそのもののハードルが上がっていることで、無理にIPOを目指すよりもM&Aを選択した方が合理的というケースが増えていくでしょう。それに加えて、バリュエーションの低下があります。これまで、M&Aでは買い手の資金余力もそうですが、赤字企業に対する高いバリュエーションも進みづらいボトルネックになっていました。バリュエーションが低下することで、買い手にとってリスクが取りやすくなります。このまま数年後のIPOを目指した場合の時価総額の目線が下がることで、双方のニーズを満たしやすくなっています。

3つ目は、市場・競合環境の変化です。ユーザーのお財布の紐がかたくなったこと、また先行する企業との競合、エコシステムへの資金提供額が増えたことで同業間での競争が起きやすくなっていることが背景にあります。厳しい競争環境を勝ち抜いてIPOを目指すよりも、パートナー企業へ売却し、競争力を高めつつ、確実なExitを実現する合理性が高まっていくのです。

日本はリスクマネーの資金提供額が小さすぎたため、まず「創造」することが至上命題でした。徐々に拡大する中で、「創造」と同時に「競争」が発生しやすくなっています。選考するシリコンバレーはもちろんのこと、中国でも同業他社が乱立する姿はこの5年にわたって目の当たりにしてきました。日本も徐々にそのフェーズに入ってきていると感じますし、岸田政権が掲げるように10兆円の市場になれば、今よりさらに高度かつ厳しい競争が待っていることを意味します。

カテゴリー③:人材組織(4テーマ)

7)組織入れ替え

資金調達環境が悪化したことで、投資家が「黒字化への道筋」をより精緻に求めるようになってきました。すぐに黒字化する必要性がなかったとしても、あらゆるテーマで生産性や効率性の向上がより高いレベルで求められるようになってきます。

これまでの生産性を前提にしていていれば、十分な組織力であったとしても、より高い生産性や効率性を目指す場合、先に議論した価格戦略と並行して、組織力の更なる向上が必要になってきます。

その場合、組織をより筋肉質にしていく必要があります。今の市場環境は厳しいですから、社員側から一定の退職も起きやすくなっています。そして、企業としてもそのような環境を生かしながら、徐々に組織を筋肉質にしていく必要があるでしょう。

より大胆にやるのはイーロンマスクなどの米国企業のやり方ですが、そこまでやらないにしても、明確な戦略意図や効率性の目標を意識した、組織のアップデートができるかが問われる一年となるでしょう。

8)幹部採用

TwitterやGAFAMなどグローバル企業の大幅人員削減のニュースが後を絶ちません。極めて優秀(かつ報酬が高額な)人材が日本でも市場に出てきていることを意味します。

また、上場でも未上場でも、株価の低迷、IPOの蓋然性の低下などにより、急速に既存のSOなどインセンティブパッケージの魅力が低下している企業が多数発生しています。

そういう環境下では、CxOクラスの人材の退職可能性、転職可能性が大幅に引き上がることになります。CxOクラスの人材にとって、やりがいやミッションも大事ですが、それはあくまでもインセンティブと一定の整合性があってこそです。そのインセンティブが弱まった場合、積極的ではなくとも、消極的な理由で転職する可能性が高まっていると言えます。

日本の経営現場において、全ての企業にまだまだ経営力を高めていくニーズが存在します。このタイミングで一気に経営基盤の強化ができるかは、中長期の成長を大きく左右するテーマです。

9)報酬制度の見直し

優秀な人材の獲得、魅力が低下したインセンティブパッケージの見直し、スタートアップへの大企業など優秀な人材の更なる流入、グローバル人材への対応など、ますます人的資本の動きが活発になる一年だと思います。

上記で触れた通り、積極的に組織を筋肉質にし、幹部採用を進めることは当然なのですが、その際についつい会社内部の評価制度やインセンティブ設計、報酬体系や金額水準まで見直しきれてない企業が散見されます。

せっかくのチャンスなのに、自らの変革を怠り、受け皿としての魅力を高めきれていな音すると、勿体無いの一言に尽きます。この市場の変化を感じ取り、大胆に制度の見直しができるかどうかは重要なテーマになります。

大きく給与水準を引き上げ、インセンティブ設計を高度化するとなるど、多くの企業のように代表取締役が実質的に決定している報酬制度自体に無理が出てきます。給与水準は安いけど、SOがあるから頑張ってねという時代は終わりを告げつつあります。高い報酬を特定の1名が決めることの合理性のなさが高まってきているのです。

10)人的資本戦略(ESGのS)

これらの人的資本に関連する取り組みの重要性が高まってきているのは上記の通りです。これらを人的資本戦略として包括的に企業戦略に組み込めるかが問われています。単なる単発の変更ではなく、全体戦略、事業戦略、財務戦略、それら全てに有機的に機能しているかが問われるようになります。

そして、その取り組みだけではなく効果の測定、報酬制度との接続など、人的資本としての高度な説明が求められるようになりおます。まだ、人的資本戦略や開示においてベストプラクティスというものは生まれていません。ただ、この数年急速に上場企業を中心に取り組みや開示のレベルが上がっています。

この流れはますます加速するものと思います。一方で、人的資本戦略や資本戦略と同様に一朝一夕でアップデートできるものではありません。数年単位の時間軸で取り組むべきテーマですから、この変化の一年がスタートするにあたって、人的資本戦略についても中期の戦略をイメージして動き始められるかが問われるでしょう。

さて、いかがでしたでしょうか。最後にまとめとして、10大テーマを一覧にしておきます。;

改めてこれらのテーマに経営としてどのように向き合っているのか考えることは良い一年のスーたととなることでしょう。これをみて、参考になったと思った方は、いいねやTwitter等でシェアいただけると大変嬉しいです。

経営の議論をしてみたいという方は、トピックスやTwitterなどでコメントいただければと思います。

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