安心・安全なメタバースの利用に向けて
総務省は2024年5月24日、「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会(第7回)」をか開催し、報告書の骨子(案)を公表しました。
報告書骨子(案)では、メタバース技術の発展と利用に関する最新の状況や課題を総合的にまとめています。今回は、メタバース市場の動向、技術的進展、そして今後の検討事項について取り上げたいと思います。
メタバースは、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用し、ユーザーが没入型体験を通じてインタラクティブなデジタル空間で活動できる技術です。この技術は急速に進化し、産業、教育、エンターテイメントなどさまざまな分野での応用が期待されています。
第1章 メタバースをめぐる最近の動向
メタバースの市場動向
メタバース市場は急速に拡大しており、2022年には約655億ドルだった市場規模が、2030年には約9366億ドルに達すると予測されています。ユーザー数も増加傾向にあり、2022年の2億人から2030年には7億人に達する見込みです。この成長の背景には、技術の進化やデバイスの普及が大きく寄与しています。
国内の動向
日本では、メタバースの利用が急速に広がり、企業や自治体が積極的に取り組んでいます。例えば、バーチャルシティコンソーシアムやメタバース推進協議会などの団体が設立され、メタバース技術の発展と普及を支援しています。さらに、メタバースを活用した新しいビジネスモデルの開発や、教育・研修プログラムの導入が進んでいます。
海外の動向
アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国などの国々でもメタバースの研究と開発が進んでいます。各国の政府機関や主要な企業が積極的に関与し、メタバースの標準化や規制の整備に取り組んでいます。例えば、欧州委員会は「EUがWeb4.0 および仮想世界において先駆となるための戦略」を発表し、メタバースの発展を促進しています。また、韓国では「仮想世界に向けた規制革新先導計画」を策定し、メタバース関連産業の成長を支援しています。
国際的な議論の状況
OECDやITU-Tなどの国際機関でも、メタバースに関する議論が活発に行われています。これらの議論は、メタバースの技術標準や倫理的なガイドラインの策定に向けた重要なステップとなっています。OECDのGlobal Forum on Technologyでは、没入型技術を含む複数の分野にわたる専門家によるフォーカスグループが設置され、ユースケースや技術要件についての議論が進められています。
インターネット上の情報流通の特性による影響の可能性
メタバースの拡大に伴い、インターネット上での情報流通の特性が重要な課題となっています。特に、フィルターバブルやエコーチェンバーといった「情報の偏り」が問題視されています。また、アテンションエコノミーの広まりにより、偽・誤情報の流通・拡散が懸念されています。総務省では、これらの問題に対処するための具体的な方策を検討しています。
第2章 メタバースの原則の検討
メタバースの発展には、技術的な革新とともに倫理的な原則の確立の重要性が高まっています。
本報告書では、メタバースのオープン性、イノベーション、多様性・包摂性、リテラシー、コミュニティの自主性を重視しています。特に、多様性と包摂性は、メタバースが物理空間の制約を超えて自己実現や自己表現の場を提供することを強調しています。
![](https://contents.newspicks.com/topics/164/posts/185/images/20240528103611830_fNDjCemp.png?width=1200)
信頼性向上のための原則として、透明性、説明責任、プライバシー、セキュリティが挙げられています。例えば、メタバース関連サービス提供者は、ユーザーに対してサービスの特性やデータの取り扱いについて明確に説明する必要があります。また、ユーザー間のトラブル防止や、子ども・未成年ユーザーへの適切な対応も求められています。
![](https://contents.newspicks.com/topics/164/posts/185/images/20240528103654705_unm372fr.png?width=1200)
第3章 メタバースに関する技術動向
VR・ARデバイスの進化
VR・ARデバイスの進化により、メタバースのユーザー体験が向上しています。デバイスの解像度や視野角の向上、操作性の改善などが進んでいます。また、デバイスの価格低下により、一般ユーザーへの普及も進んでいます。特に、軽量化やバッテリー寿命の延長がユーザーの利便性を高めています。
利活用と課題
VR・ARデバイスの利活用は広がっていますが、身体や感情への影響、プライバシーの課題、特に子どもへの影響など、解決すべき課題も多く存在します。総務省では、これらの課題に対処するためのガイドラインを策定し、デバイスの健全な利用を促進しています。
第4章 メタバースに関するさまざまな利活用事例
生成AIとの連携
メタバースは生成AIとの連携が進んでおり、対話型アバターやNPC(非プレイヤーキャラクター)の自動生成が可能になっています。これにより、より自然でインタラクティブな体験が提供されます。例えば、株式会社アドバンスト・メディアは生成AIを活用した対話アバターを開発しており、ユーザーとのコミュニケーションを円滑にしています。
メタバースを利用するにあたっての課題解決
生成AIの活用により、メタバース利用時の課題も解決されつつあります。例えば、AIを活用したトラブルシューティングやユーザーサポートが強化されています。また、メタバース内でのハラスメント対策や、AIアバターやNPCの利用がユーザーの認知や行動に与える影響についての議論も進められています。
今後の展望
VR・ARデバイスの進化により、ユーザー体験がさらに向上し、新たなビジネスモデルの創出が期待されます。
しかし、プライバシーの保護や偽情報の拡散防止など、倫理的・社会的な課題も顕在化しています。これらの課題に対処するためには、国際的な協力と規制の整備が不可欠となっています。
注目すべきなのは、生成AIの進化がメタバースに与える影響です。生成AIによるコンテンツ制作の自動化や、AIアバターの高度なインタラクションは、メタバースの可能性を飛躍的に広げる一方で、ユーザーの認知や行動に与える影響についても慎重な検討が必要です。
また、教育や医療、産業分野におけるメタバースの応用が進むことで、これまでにない社会的価値を創出することが期待されます。
社会全体でメタバースの健全な利用を推進するとともに、企業や政府、教育機関、そしてユーザー自身が協力し、透明性の高い運営と多様性を尊重したコミュニティ作りに努めることが、持続可能なメタバース活用を推進していく上で重要となるでしょう。
Digital generated image of multiple multiracial female avatars inside glass capsules levitating over multicolored reflective surface. /Getty images Entertainment:ゲッティイメージズ提供
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