新しい資本主義実現会議で示すAI政策

2024年6月10日
全体に公開

政府は2024年6月4日、「新しい資本主義実現会議(第28回)」を開催し、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版案」を公表しました。

本会議は、日本が直面するさまざまな課題に対応し、持続可能な経済成長と社会の安定を目指すためのさまざまな政策のグランドデザインや実行計画を示しており、今回はAI関連の政策に焦点をあてて取り上げたいと思います。

AIを取り巻く背景

デジタル化と生成AIの社会実装が加速度的に進行している中、日本の産業競争力を強化するためには、国内におけるAIの計算能力の確保、さらには、経済安全保障の観点からもデータセンターなどの国内立地と投資の拡大が急務となっています。

データセンターを運営する企業は、安定的で十分な脱炭素電源の確保が前提ですが、技術開発の進展状況を正確に予測することは困難であり、AIには膨大な投資が必要となり、経営リスクも伴います。

また、生成AIは社会経済システムに大きな変革をもたらす一方で、偽・誤情報の流布や犯罪の巧妙化といったリスクも存在します。安全・安心の確保が求められる中、米国企業が先行する状況に対して、日本も計算資源の整備や大規模モデルの開発を進めています。

小規模・高性能なモデルや複数モデルの組み合わせの開発など、新たな研究も進むなど、生成AIを含むAIのイノベーションは、社会課題の解決や日本の競争力向上に寄与する可能性も期待されています。

AIのイノベーションとAIによるイノベーションの加速

こういった状況の中、政府では、AIの研究開発力の強化と利活用を一体的に官民が連携して進め、計算資源などのインフラの高度化や人材の育成・確保に取り組む方針です。

研究開発力の強化

AI開発に不可欠な計算資源を、諸外国に対して劣後しないよう整備し、幅広い開発者が利用できるような環境整備を行う。

モデルの高効率化や高精度化、マルチモーダル化(テキスト、画像、音声、動画などの情報を同時に処理・解析する機能)、リスクの低減化などの研究開発を推進する。

質の高い日本語データや産業競争力を有する分野のデータの整備・拡充を産学連携で進め、革新的な技術を持つスタートアップを支援する。

医療や創薬、マテリアルなどの分野で日本の強みである科学研究データ創出基盤を強化し、「富岳」の次世代となる優れたAI性能を有する新たなフラッグシップシステムの開発・整備に着手する。

AI利活用の推進

「ChatGPTなどの生成AIの業務利用に関する申合せ(第2版)」を更に前進させ、他機関のモデルとなるよう、政府によるAIの適切な調達・利用、得られた知見の共有を進める。

各産業分野におけるAIの利活用を促進し、ユーザーや開発者が安心してAI利活用・開発を進められるように、個人情報保護法、著作権法、各種業法などの運用を明確化にする。

インフラの高度化

データセンターの大規模化・分散化と省電力化、6G(Beyond 5G)などのネットワークシステムの高度化、AI半導体などのキーデバイスの実現に向け、研究開発を促進する。また、AIに不可欠なインフラへの民間投資の拡大を図る

人材の育成・確保

AIスキルの習得、AIリテラシー向上のための教育コンテンツの充実・普及啓発を図る。また、次世代のAI開発を担う若手研究者や博士後期課程学生の研究費や生活費を支援する。

安全・安心の確保

AI利用の安全・安心の確保については、「AI事業者ガイドライン」に基づく事業者等の自発的な取組を基本とし、AIに関する様々なリスクや規格、ガイドライン等のソフトローと法律・基準等のハードローに関する国際的な動向を踏まえ、制度の在り方について検討を進めています。

AIの安全性に関する制度の検討

幅広い業種にAI事業者ガイドラインの周知・浸透を図る。医療、自動運転、金融などの社会への影響が大きい分野を含めて制度の在り方を検討する。

AIの安全性に関する知見の集約

AIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、AIの安全性の中心的機関として、専門人材の育成・確保、先進的な技術的知見の集約を進める。

偽・誤情報への対策

生成AIを利用した偽・誤情報やSNS上のなりすまし型偽広告への対応について、技術・研究開発の推進、民間主体のファクトチェックの推進、国際的な連携強化など、総合的な対策を進める。

国際的な連携・協調の推進

政府では、広島AIプロセスなどを通じて、安全・安心で信頼できるAIの実現に向け、国際的な取り組みを引き続き主導し、アジア諸国やグローバル・サウスと協調しながら、共同開発・イノベーション創出を推進していくとしています。

また、広島AIプロセスの成果をさらに前進させるため、広島AIプロセス・フレンズグループを活用したG7外へのアウトリーチや、AISIの国際的なネットワークによるAIの安全性の方策検討を進めていく方針です。

今後の展望

日本は、デジタル化と生成AIの分野で世界をリードしていくためには、計算資源の強化やデータセンターの拡充を進め、経済安全保障への対応と、国内の技術基盤が必要となります。生成AIはGAFAMが先行する中、国産の生成AIの普及に向けての政策的な後押しも不可欠となるでしょう。

AIの利活用が進めば、各産業分野での効率化や新たなサービスの開発が加速していくことが期待されます。特に、医療や創薬、マテリアル分野でのAI活用は、日本の強みを活かした研究開発を推進する鍵となるかもしれません。

さらに、AIの安全性確保とリスク管理の整備も重要です。偽・誤情報の対策やAIの倫理的利用に関するガイドラインの普及は、安心してAI技術を利用できる環境づくりも求められます。このような環境整備は、AI技術の普及と利活用を後押しし、社会全体のデジタルリテラシー向上にも寄与する可能性があります。

これらの取り組みには、官民の連携が不可欠であり、特に、スタートアップ支援や人材育成を通じて、持続可能なイノベーションを推進することが求められます。教育コンテンツの充実や若手研究者への支援は、次世代の技術革新を担う人材の育成にも寄与することが期待されます。

国際的な連携を強化しつつも、日本独自の強みを活かした競争力向上を図ることが求められています。AIのイノベーションとAIによるイノベーションを双方を加速させ、さらには、国産の生成AIの台頭による計算資源の確保が、これからのAI政策において、重要な位置づけとなっていくでしょう。

写真:PA @ May 2024:ゲッティイメージズ提供

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