ビタミンDサプリは「骨に良い」のか

2022年8月10日
全体に公開

米国では、60歳以上の3人に1人以上がビタミンDサプリメントを内服していることが知られています(1)。また、年間で1000万回以上、ビタミンDの血液中の濃度を確認するための血液検査が行われています。

これらがなぜかと言えば、ビタミンDが少なくとも細胞レベルでは実に多くの臓器で働くことが分かっていたからです。また、過去の観察研究では、実際にビタミンDの血液中の濃度が低いことと骨粗鬆症や心臓の病気のリスクとが密接に関連することが示唆されていました(2)。

しかし、「関連がある」ことと「因果関係がある」こととは大きく異なります。言い換えれば、「AとBに関連がある」ことは、「Aが原因でBになる」とイコールではないということです。前者には、例えば「Bが原因でAになる」という因果関係逆転の可能性も、「Aは原因ではないが、Aがある人に多いCが原因でBになる」という可能性なども含まれるからです。

因果関係を証明するのに鍵になるのが、ランダム化比較試験と呼ばれる試験です。このランダム化比較試験では、条件の揃った2つのグループをそれぞれ Aを摂取してもらうグループとAとは似て非なる何の効果もない偽物を摂取してもらうグループに分け、結果としてAを摂取したグループで、Bが多くなるかを評価するのです。AのグループでBが多くなれば、「Aが原因でBになる」ということが言えるようになります。

そこで、このビタミンDについても、種々の因果関係を証明するために、このランダム化比較試験が行われました。結果として、がん、心臓や血管の疾患(3)、転倒(4)、認知機能障害、脳卒中(5)などについて、ビタミンDを投与しても減らすことは示せなかったという結論に至っています。

しかし、そんな中でも、ビタミンDは「骨の健康には関連がある」と考えられており、ビタミンDの投与はいまだ価値があることと考えられてきました。

実はここには100年を超える歴史があり、その昔から、ビタミンD欠乏のある子どもには骨の成長に異常が見られることが観察され、(ビタミンDの活性化に関わる)紫外線やサプリメントの摂取によって、それが改善することが知られていたのです。

こういった歴史から、ビタミンDが骨の健康にとって大切であると考えるのは、とても論理的であると思われてきました。

しかし、最近報告された、中高年25000人以上を動員したVITAL試験と呼ばれるランダム化比較試験では、5年ほどの観察期間でビタミンD投与の結果骨折が減るのかということが評価されました(6)が、残念ながら、ビダミンDの投与によって、骨折の数にも差が見られませんでした。

またこれは、年齢や性別、ビタミンDの血中濃度別に見てみても同様で、やはり差は見られませんでした。

これらの結果から、「骨の健康のためにとりあえずビタミンD」といったサプリメントの使い方には、現時点であまり意味が見出せないと考えられます。もちろん、投与量を変えたらどうか、血液検査のビタミンDの値できちんと層別化して介入したらどうか、といったところにまで細かく回答できるわけではありませんが、米国で60歳以上の1/3の人が飲む状況は「おそらく無駄がある」と言えそうです。

このビタミンDの一件は、まさに「関連性があってもその因果関係が必ずしも示されるわけではない」好例ではないかと思います。

また、ビタミンDにも副作用がないわけではありません。もちろん、その頻度は稀であり、投与量を間違えなければ起こるリスクは低いですが、マルチビタミンなどと相まって日々たくさんのビタミンDを摂取してしまえば過剰摂取となり、血液中のカルシウム値が上昇することで、意識を失ってしまうなどの重篤な症状につながることもあります(7)。

何事もバランスであるというのは、このビタミンDについても言えることです。骨粗鬆症のリスク低減には、適度な運動(8)、適切な栄養、禁煙、節酒(過度の飲酒を避ける)(9)などが重要であると考えられており、まずはそれらのうち、できることから始めるのが良いのでしょう。

参考文献

1         Mishra S, Stierman B, Gahche JJ, Potischman N. Dietary supplement use among adults : United States, 2017–2018. 2021; published online Feb 26. DOI:10.15620/CDC:101131.

2         Cummings SR, Rosen C. VITAL Findings — A Decisive Verdict on Vitamin D Supplementation. https://doi.org/101056/NEJMe2205993 2022; 387: 368–70.

3         Manson JE, Cook NR, Lee I-M, et al. Marine n-3 Fatty Acids and Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer. N Engl J Med 2019; 380: 23–32.

4         LeBoff MS, Murata EM, Cook NR, et al. VITamin D and OmegA-3 TriaL (VITAL): Effects of Vitamin D Supplements on Risk of Falls in the US Population. J Clin Endocrinol Metab 2020; 105: 2929–38.

5         Rist PM, Buring JE, Cook NR, Manson JAE, Rexrode KM. Effect of vitamin D and/or omega-3 fatty acid supplementation on stroke outcomes: A randomized trial. Eur J Neurol 2021; 28: 809–15.

6         LeBoff MS, Chou SH, Ratliff KA, et al. Supplemental Vitamin D and Incident Fractures in Midlife and Older Adults. https://doi.org/101056/NEJMoa2202106 2022; 387: 299–309.

7         Inzucchi SE. Understanding hypercalcemia. Its metabolic basis, signs, and symptoms. Postgrad Med2004; 115: 69–76.

8         Bielemann RM, Martinez-Mesa J, Gigante DP. Physical activity during life course and bone mass: a systematic review of methods and findings from cohort studies with young adults. BMC Musculoskelet Disord 2013; 14. DOI:10.1186/1471-2474-14-77.

9         Elgán C, Dykes AK, Samsioe G. Bone mineral density changes in young women: a two year study. Gynecol Endocrinol 2004; 19: 169–77.

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