【神経科学から考える】自分に精神的ケアが必要かどうかを判断するには?

2024年1月31日
全体に公開

辛いことが何一つない、という人はおそらくいないのではないでしょうか?

家族のこと、人間関係、健康、お金など、大なり小なり何かしらの悩みを抱えながら、そんな苦労を人には見せずに暮らしている人も多いのではないかと思います。

ストレス解消にうっかりネットを見続けたり、長時間ゲームをしたり、あるいはお酒を飲みすぎたなと思いつつも、とはいえ人生なんてそんなものだよね、と辛い状態が当たり前になってやり過ごしていると、予兆を見逃しある日突然動けなくなってしまうことがあります。

近年、神経科学の分野では自律神経の研究が盛んに実施され、その研究結果に基づき新しい心理療法が数多く提唱されました。心理学の構成概念にも影響を与えた神経科学の研究結果のうち、手始めに「自己調整」について簡単にご説明しようと思います。

「自己調整」とは睡眠不足やストレスなどにより自律神経が乱れた時に、健康的に回復していく力のことをいいます。人は人生早期に第一養育者により、あやしてもらったり、なぐさめてもらったり、穏やかな神経系の場で育てられることによって「協働調整」をしてもらい、徐々に自分ひとりで神経を健康的に調整する「自己調整」の力を獲得していくと考えられています。しかし、その力を十分に獲得できないと、嗜癖行為や自傷行為など不健康な行為で調整してしまう場合があります。適量を越えた喫煙やアルコールはもちろんのこと、ネットやゲームを過度にやってしまう、というような一見特に深刻な「自傷」とは思われないようなことも含まれます。

現代社会で生きる私たちは、「頭」を使いすぎるあまり「頭」と「体」が分離し、体からのメッセージに気づけないまま過ごし続けた結果、ある日突然の如く心身に不調が現れるということが起こりかねません。何らかの助けが欲しい、と思うほど状態が悪化してから自分に最適なサポートを見つけ出すのは簡単なことではありません。

今は特に必要性を感じていなくても、いざという時に備えて、あるいは自分以外の人のために知識の一つとしてメンタルヘルスについて知っておくのは大事なことと言えるでしょう。

このトピックスでは、現代社会を生きる私たちが知っておくとよさそうな神経科学や心理学をベースに、心の状態や、心理療法について紹介していきたいと思います。

心の不調は、例えばこのようなところから現れてくる場合が多いようです。

・寝つきが悪い

・食欲がない

・日中ぼーっとすることが増えた

・休日はずっと寝て過ごしている

・1日にこなせる仕事の量が減った

・取り組みはじめるのに時間がかかる

・アイデアが浮かばない

・ちょっとしたことでもイライラする

・笑うことが減った

・なにか焦りのようなものを感じる

どうでしょう?もし、少し気になるなと思ったら、自分の状態に合わせて医師や心理カウンセラーなどに一度気軽に相談をしてみてもいいかもしれません。

それぞれの違いや、どのようなタイミングでどこに行けばいいのかはなかなかわかりにくいとかと思いますので、それぞれの特徴を私なりに簡単にまとめてみました。

・精神科医

精神医学を専門として軽度から重度の精神を患っている人(統合失調症、双極性障害、抑うつ等)の診断をして精神療法や薬物療法を用いて治療します。精神保健指定医資格を取得するには、さらに3年の実務経験が必要です。

症状を明らかに呈している方が受診されると良いかもしれないです。初診だと30分くらい話を聞いた上で端的なアドバイスをして薬の処方箋を出すところが多いようです。薬が合っていれば2回目以降の診察時間は短く(3分というところも!)、ささっと診察が終了し、処方箋を渡されたということをよく耳にします。ただ、病院に相談員がいる場合があり医師の許可のもと心理カウンセリングが受けられることもあります。

・心療内科医

基本的には内科を専門としており、心理的・精神的な要因によって身体に症状がでる心身症(摂食障害、パニック障害、PTSD等)に対して診断、治療にあたる医師です。

なんとなく心身の不調を感じるという場合は、心療内科医に診ていただくと良いかもしれないですね。心療内科も心理職を雇っているところや外部の相談機関と提携しているところもあります。中には医師が心理療法のトレーニングを受け、診察時間内もしくは自由診療(保険適応外)にて心理療法を実施している方もいます。私が受けた最新のトレーニングでは、平均20人に1人くらいの割合で医師が参加されていました。

・心理カウンセラー

民間の学校で勉強した人や独学で勉強した人など様々で、傾聴技法を駆使する人もいれば心理療法を習得してセラピーを提供する人もいるでしょう。日本は2017年まで心理職の国家資格がなく、現在も法律における規定がないことから、運営がうまくいくかは別として誰でもセラピールームを開室することが可能です。産業カウンセラーもここに属します。学歴は不問となります。

心理カウンセラーは傾聴技法を使いこなす人が多く、今まで誰にも話したことがない、とにかく話を聞いてもらいたい、心の整理をしたいというかたは、まずは心理カウンセリングを受けると良いかもしれません。料金も比較的リーズナブルです。

・セラピスト

セラピストといえば、マッサージセラピストやアロマセラピストなど様々なセラピストがいます。心を扱うセラピストは、心理セラピスト、もしくはセラピストと呼ばれています。セラピストは、扱いたい特定の心理療法のトレーニングを受け、そのトレーニングの中でその心理療法を扱うために必要な知識や技術を習得して研鑽を積みます。学歴は不問です。

特定の心理療法が受けたいかたは、その療法のサイトからお住まいの地域のセラピストを探されて予約されると良いですね。

・臨床心理士

1988年に日本臨床心理士資格認定協会が発足し同年に初の臨床心理士が誕生しました。心理職の国家資格がなかった日本では、それに近い立場にあり、この資格を保有していることで公共の機関や医療、福祉、教育、司法、産業等で勤めることが認められました。知名度や信頼度が高く、他の心理カウンセラー資格とは一線を画しました。2007年以降は、指定大学院の修士を取得していないと受験できません。

学問として心理学を体系的に学んだ人のほうが安心して相談できるというかたは、臨床心理士の資格を持っている人を選ばれると良いですね。ただし、学部や大学院を修了したからといって、セラピーができるかは別です。その心理士の情報をよく得てから予約されることをおすすめします。その心理士が今までどの領域で働いてきたかも判断の一つになるかもしれません。例えば、医療の領域で働いていた心理士は、様々な精神疾患の状態像を理解した上でセラピーができたり、教育の領域で働いていたなら、子どもの発達や行動、心理検査の結果による見立て、お子さんに必要な栄養や心のケアについての助言など、その心理士の活動してきた領域により心理教育や情報提供に違いがでてくることでしょう。

・公認心理師

2017年9月に公認心理師法が施行され、ようやく日本に心理の国家資格が誕生しました。それまでの支援者は5年間の移行措置が設けられ心理系大学の学士や修士を持っていなくても受験資格が与えられました。今まで臨床心理士として活動していた人はもちろんのこと、医師、看護師、社会福祉士、精神保健福祉士、教員、心理カウンセラー、各相談員など、過去5年間に渡り相談支援をしていた者はその証明さえあれば受験することが認められ、様々な専門職の方が心理の国家資格を有することとなりました。2022年で移行措置の期間が終了し、2023年からは心理や医学等の科目を含む「大学における必要な科目」を履修後、指定大学院もしくは、法の規定する認定施設で2年間の実務に就いた人に受験資格が与えられることとなりました。受験時に面接はなく、対人スキルは不問です。

上述の通り、今のところこの資格を持つ人の背景は様々で、心理カウンセリングの実習経験がない人もいれば、長年の間、心理カウンセラーやセラピストだった人もいます。国家資格を取得しているからといって安心せずに、その心理師のバックグラウンドなど情報を得てから予約されることをおすすめします。

主治医がいるクライアントに公認心理師がセラピーをする場合は、公認心理師法に基づき、主治医の判断のもとに実施しなければなりません。私のセラピールームにお越しになるクライアントさんたちは、主治医からの意見書を持参されるか、私が実施する可能性のある心理療法をクライアントが事前に医師に伝えて許可をもらってから来室されます。

日本ではまだまだメンタルヘルスのケアが一般的ではありませんが、身体の具合が悪い時に行くかかりつけ医を探すように、自分に合いそうな心の悩みの相談先をあらかじめ考えておかれると良いかもしれませんね。

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