【セラピーがトントンと進まない要因は?】

2024年3月27日
全体に公開

セラピーに何回か通ってみたけれど、具体的に良くなったと感じられない、思っていたようにトントンと進まない、希望していた特定の心理療法を実施してもらえない、というお声を耳にすることがあります。

セラピーというと自分の悩みを心理士に事細かに話さなければならない、というイメージを持っている人も多いかもしれません。そのようなスタイルのセラピーもあれば、自分の辛かったトラウマ体験を詳しく語らなくても良い身体志向心理療法というものもあります。いずれにしても、心理士はクライアントの生育歴や考え方、食べ物(栄養)や睡眠時間などを聞き取り、クライアントの状態像を把握し、それに沿って今度の方針を立てる必要があります(ボディーワーカーが担当する場合は、精神面における聞き取りをそこまで行わない場合もあります)。50分の予約でしたら、初回は今後の方針を立てて、心理教育をして終わるのは通常の流れかと思います。

そういったやりとりをしながらセラピストはクライアントとラポール(信頼関係)を築いて場の安定化を図っています。トラウマになるような体験をした時に、そばに誰か寄り添ってくれる人がいれば、頼れる存在がいてくれれば、クライアントはトラウマ化することはなかったでしょう。あたかもセラピストがそういった存在であるとクライアントが感じられるよう傾聴していきます。

トラウマ治療をはじめる前に必要となってくるのが、クライアントのリソースです。リソースとは日本語では資源と訳されていますが、セラピー内で使われるリソースとは“自分を支えるものすべて”とお考えいただくとわかりやすいと思います。ご自身の内なる力、家族やペット、友人、仲間、コミュニティ、推し、お気に入りのアイテム(ぬいぐるみ、本、漫画、思い出の品など)や癒される香り、花や草木などの植物、動物、大地や空といった大自然、神社仏閣などです。リソースが多ければ多いほどトラウマ治療はうまく進みます。何も思いつかないという人にはまずはリソースづくりからやっていただくこともあり、クライアントの主訴(テーマ)を取り扱うまでに時間がかかる場合があります。

トラウマ治療を受ける方たちが抱える症状は千差万別です。身体の感覚が感じられないというかたには身体感覚を感じる練習をしたり、神経系の状態が不安定なかたには神経系を調整するためのエクササイズをしたり、解離があってふわふわ浮いているような人には地面に足をつけるグラウンディングということをしたり、身体の中にイメージでグリッドを立てたりして、なかなかクライアントが望む心理療法を始められない場合があります。心理療法よりそこを突破することのほうが困難な時があります。トラウマを抱えている人は、からだの感覚や感情を切り離し何とか生きていて、そこにむやみにふれると恐怖と無力感に圧倒されトラウマ反応を引き起こす可能性があるので、セラピストは少しずつ少しずつアプローチしていきます。クライアントが、身体は自分を苦しめるものではないのだな、身体の中を感じることは危険なことではないのだな、身体の中に意識を向けると安心するな、と思えるようになってくると、トラウマを扱う耐性が拡張され、安全に本題に入っていけるようになります。

その他、セラピーに来たものの心理療法をしていくにあたり抵抗を示す気持ちがある場合は、その気持ちが納得してからでないと主訴を扱えないということもあります。私たちはそれを一つの人格(パーツ)として捉えて、そちらにアプローチをするのでそれは心理療法となりますが、クライアントさんが苦悩している主訴とは違うことから始めることとなります。

いままで誰にも話したことがなかったというかたは、ずっとお話がとめどなく続く場合があり、クライアントが納得いくまで傾聴をする場合もあります。

知性化をリソースに生きてきた人にはそこを尊重して、先に大脳新皮質が求める理屈に基づいた答えを一緒に考えることもあります(大脳新皮質については前回の投稿をチェックしてくださいませ)。

こういったことから、すっと心理療法に入っていけないということがおきるのです。ですので、すぐに心理療法に入らなくても安心していただいて大丈夫かと存じます。安定化を図るために必要な時間であり、トラウマセラピーを実施するためにも、今後の人生を穏やかに生きるためにも有意義な体験となることでしょう。

とはいえ、私のように90分枠の設定しかなく初回から心理療法をするタイプの心理士もいます。ただやはりその人の全体像が見えてくるのは4,5回目でしょう。小さな情報でもお伝えいただいたことを集積していく中でプロファイルがその人のまわりを囲むように浮かび上がり “ここだ” というのが見えてくる瞬間があります。それを捉えたら大きな山は越えられます。それからは、小さないくつかのトラウマを処理し、その後は精神性や人間性について語らう豊かな時間となっていきます。年齢が若いと回復は早く2、3年くらいでセラピーに通わなくてもよくなる人が多いです。高齢で重篤な精神疾患を長期間抱えているかたは5、6年、状態維持が目的のかたはご縁が続くまでご一緒させていただきます。

初回に時間がない場合は、今日ご紹介する思考場療法がおすすめです。短時間でできて、小さな子どもや言語化が難しい人にも使うことができます。一人でも簡単にできて、出先で不安にかられた時でも小さなスペースがあれば実施可能です。

TFT(Tought Field Therapy®)思考場療法® 

1970年代後半にRoger J. Callahan博士により開発された心理療法。PTSDや不安、怒り、心理的な苦痛や身体的疼痛など、ツボを指でタッピングするというシンプルな手順で脱感作させます。「ツボとんとん」と呼ばれています。

日本では森川綾女先生が第一人者で、TFT協会を創設され、だれでも簡単にツボトントンができるようにWebサイトに動画を公開し、コロナが蔓延した時期や自然災害時にもボランティアを募って積極的に支援活動をされています。

はじめてでもひとりで手軽に行え、話したり深めたりしなくても、不安やモヤモヤが薄れて晴れやかな気分になる人が多いので動画を見て試してみられてはいかがでしょうか。私が学校勤務をしていた頃は、昼休みにさっとできるので小学生や中学生によく使っていました。セラピーの終了間際に本題がでてきたときなどにも重宝しています。

https://www.jatft.org/

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